一日48時間
1日は24時間。これがちょうど良いのかもしれない。
ただし、その倍、あったとしたら―――――
朝に起き、満員電車に揺られる。
会社に着き、仕事を始める。
昼休みさえ、時には返上しなければならないほどに働き続け。
時間内に終わらなければ、夜を残業に使い。
再び電車に揺られて帰宅、夕飯や明日の支度などをして、眠りにつく夜……
これを、週5回。時には週6回の時さえある。
疲れは溜まり、それを癒す時間が無い。
働き続けで、他のことをする時間が無い。
いざの休みでも、疲れを癒すのに使って時間を無くす。
つまりは、時間が足りない。
一日が24時間じゃ足りないんだ。
……そういえば、誰かに一日が48時間あったらどうする? と言われたことがある。
一日が48時間。普通の倍の時間。
最高じゃないか。
それだけ時間があれば何でも出来る気がする……
しかし……そんな夢を見たところで叶う訳が……
「その願い、叶うよ?」
声が聞こえた。
目を開けて見てみると、そこには女の子が居た。
形容し難い、妙な格好をしている。
「初めましてのこんばんは。私の名前は一本道迷子。貴方の思いを叶える旅先案内人です」
旅先案内人? 貴方の思いを叶える?
彼女は何を言っているんだ?
「一日が48時間。よく聞く話だね〜。普段の倍、そうなるとどうなるか……確かめてみたくない?」
その言葉は、まさに今先ほど考えていたものだった。
一日が48時間あれば、何が出来るか……
「そんな貴方に良い知らせ。こちらをご覧に」
女の子がポケットから取り出したのは、何のへんてつも無い目覚まし時計。
「こちらの目覚まし時計。一度押せば、貴方のいる一日を48時間へと変えてしまいます……ただし、単位は一週間。一度押すと一週間は48時間生活になります。ご了承のほどを」
嫌に丁寧な説明の後、目覚まし時計は女の子の手によりベッドの隣に置かれた。
「使う使わないは貴方次第。使わずに行くもよし、行かないもよし。それを決めるのは……貴方だよ♪」
最後の言葉に何かしら妙な感じがあったが。女の子はそれを言い切ると音もなく去っていった。
……使わないもよし、か。
使わない訳ないだろう。
今先ほどまさに考えていたことが現実になるのだ。
ためらうことなく、目覚ましのスイッチを押した。
朝に起き、満員電車に揺られる。
会社に着き、仕事を始める。
昼休みさえ、時には返上しなければならないほどに働き続け。
時間内に終わらなければ、夜を残業に使い。
再び電車に揺られて帰宅、夕飯や明日の支度などをして、眠りにつく夜……
……なぜだ?
なぜ、全く同じ一日を過ごしているんだ?
一日が48時間になった筈なのに……
「やっほー48時間の人。元気してる?」
あの女の子の声だ。
「お望み通り、貴方の一日は48時間になったよ。一日が倍、つまり仕事の時間も倍に決まってんじゃん♪」
な……
「今さらやめたいなんて言ってもムダだよ。単位は一週間だって言ったんだからね♪」
……最早言葉は出なかった。
あれだけ望んだことが。
疲れを癒すために望んだことが……疲れを増しているなんて……
「それじゃ♪残り六日間を頑張るか、行き止まりまで……お幸せに♪」
謎の言葉を残して女の子は去っていった……
……それから3日。
よく考えたら、休日も2倍なのだ。
それを待ちわびて残りの2倍時間を過ごせば……
あぁ……ふらふらする。
視界が……ボヤける……
あ……前に倒れて……
ここは……駅のホーム……
キキーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
グシャ
長すぎるのも考えもの。けれど、使い方によってはより快適な人生を送れるかもしれない。
この彼には、その権利が無かったと思うしかありません。
皆さんは、どうでしょうか……?
それでは、
感想及び評価、おまちしています。