第1話:【即時追放】された役立たず 「――レオン=ハワード。貴様を本日付で、我が神聖王国より『即時国外追放』とする!」
第1話:【即時追放】された役立たず
「――レオン=ハワード。貴様を本日付で、我が神聖王国より『即時国外追放』とする!」
王城の謁見の間。
大理石の床に響き渡ったのは、最高幹部である宰相の冷酷な宣告だった。
ずらりと並ぶ騎士団員や宮廷魔術師たちは、冷ややかな、あるいは侮蔑の色を宿した目でこちらを見下ろしている。
「なっ……! いきなり何を言い出すんですか、宰相閣下! 俺は今まで、騎士団の雑用係として誰よりも働いてきたはずだ!」
「働いている? 笑わせるな」
宰相は鼻でせせら笑った。
「お前が毎日やっていることといえば、城内の掃除や、騎士たちの装備の点検、雑多な雑務の処理だろうが。そんなものは誰にでもできる。魔物討伐の最前線で役に立ったことなど一度たりともない。お前のような戦闘力ゼロの『落ちこぼれ』が城にいるだけで、我が王国の名誉が汚れるのだ」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
幼馴染であり、かつては共に冒険を誓い合ったはずの聖騎士団長――レイモンドさえも、腕を組んで冷ややかに呟いた。
「そうだ、レオン。お前は足手まといなのだよ。自覚がないならここで教えてやろう。――消え失せろ、無能が」
反論しようと口を開いた瞬間、衛兵たちが両脇から腕を掴み、問答無用で城の外へと引きずり出されていく。
放り出されたのは、王都の門の前。しかも、そこから先の行き先は、人間が足を踏み入れてはならないとされる「死の谷」――おぞましい瘴気が渦巻く、魔物の巣窟だった。
「待て! そこは……!」
「お前のふさわしい死に場所だ。二度と王国の敷居を跨ぐな!」
ドッ、と重い音を立てて王都の巨大な鉄扉が閉ざされた。
私は、理不尽にすべてを奪われ、文字通り「即時追放」されたのだった。
第2話:無自覚だった「唯一無二」のチート
王都から遠く離れた、死の谷の入り口。
生い茂る不気味な黒い樹々と、肌を刺すような濃密な瘴気が私を取り囲む。普通の人間の身体であれば、この瘴気を吸い込んだだけで数分も持たずに肺が腐り落ちて死ぬだろう。
「……はぁ、本当に追い出しやがったよ、あのクソども」
私は地面に座り込み、ため息をついた。
怒りよりも、呆れが勝っている。
確かに、私は前線で剣を振るったこともなければ、派手な攻撃魔法を撃ったこともない。騎士団の連中から「役立たず」と言われるのも、表面上の結果だけを見れば仕方のないことだったかもしれない。
――だが、それはあくまで「表向き」の話だ。
「俺の本当の力は、あんな連中には一生かかっても理解できないだろうな」
私は自分の手のひらをじっと見つめた。
私に備わっていたのは、この世界の常識を根本から覆す、世界唯一の固有スキル。
その名も――『神獣・魔王強制懐柔』。
視界に入ったあらゆる生命の敵対心と殺意を強制的に消し去り、絶対服従の従者、あるいは愛らしいペットへと変えてしまう規格外のチート能力。
しかし、私は生まれつき争いごとが嫌いな性格だった。どんなにうっとうしい相手でも、「みんな仲良くできればいいのに」と心の底から願っていたため、この恐ろしいスキルを人間に向けたことは一度もなかった。もちろん、その存在自体も誰にも言っていない。
「……まあいい。あんな腐った王国のことなど知ったことか。ここから先は、俺の自由な時間だ」
立ち上がり、これからどうやって生き延びようかと辺りを見回した、その時だった。
背後の闇から、地面を揺るがすような凄まじい地響きが轟いた。
第3話:迫りくる脅威、そして出会い
「――グルァアアアアアッ!!」
空気が凍りつくような咆哮が響き渡る。
闇の中から現れたのは、漆黒の鱗に包まれ、背中に巨大な翼を生やした異形の巨獣だった。ただの魔獣ではない。かつて伝説の絵本に記されていた、人間を滅ぼす災厄の化身――神獣『黒曜の竜王』だ。
(なっ……! なんでこんなのがいきなり出てくるんだよ!)
心臓が凍りつく。
一般人であれば、その威圧感だけで気絶し、次の瞬間には胃袋の中に収まっているだろう。
竜王は紅く爛れた目をギラつかせ、私に向かって巨大な牙を剥き出しにした。圧倒的な死の気配が全身を包み込む。
――だが。
私の脳裏に、あの理不尽な追放劇の記憶がフラッシュバックした。
『お前のような無能がいると、我が王国の名誉が汚れるのだ』
『消え失せろ、無能が』
「……クソが。王国でも散々言われた挙句、最後はこれかよ!」
理不尽な怒りが、恐怖を限界を超えて吹き飛ばした。
私は恐怖で震える足を気合で踏みしめ、目の前の巨大な竜王をまっすぐに見据えた。そして、心の底から強く念じる。
――頼むから、これ以上俺の邪魔をしないでくれ! お前も、俺の言うことを聞いておとなしくしてくれ!!
その瞬間。
私の右手の掌から、眩い黄金色の光が放たれ、夜の闇を切り裂いた。
固有スキル『神獣・魔王強制懐柔』が、極限の状況下で完全に発動したのだ。
第4話:世界最強の「ペット」
黄金の光が黒曜の竜王を包み込んだ。
直前まで世界を滅ぼさんばかりの殺気を放っていた巨獣の動きが、ピタリと止まる。
「グル……?」
竜王の紅い目が、混乱したようにパチパチと瞬きした。
次の瞬間、その凶悪だった顔つきが嘘のように和らぎ、巨大な巨体が地滑りを起こすかのような勢いで、私の足元にペタリと伏せをした。
「クゥーン……」
……え?
今、この世界を恐怖に陥れるはずの伝説の神獣が、大型犬みたいな可愛い声で甘えてこなかったか?
「お、おい……?」
恐る恐る手を伸ばし、竜王の硬い鱗をなでてみる。
すると、竜王は嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らし、私の手のひらに大きな鼻先をグリグリと押し付けてきた。完全に、敵対心は消え失せている。いや、それどころか私に対して絶対の忠誠心と猛烈な好意を抱いているのが、流れ込んでくる感情で手に取るように分かった。
「……すごいな、これ」
ふと、遠くの王都の方角を眺める。
今頃、あの傲慢な国王や騎士団の連中は、私を追い出したことで慌てふためいている頃だろう。なにせ、私が抜けたことで王国を支えていた魔力の均衡が崩れ、魔王軍や他の脅威が押し寄せているはずなのだから。
「知ったことか。俺を捨てた王国がどうなろうと、知ったことじゃない」
私はふっと笑うと、目の前の巨大でモフモフな神獣の背中にひょいと跨った。
「よし、相棒。どこか安全で、のんびり暮らせる場所を探そうぜ」
竜王が嬉しそうに一声鳴き、夜空へと大きく翼を広げた。
追放された役立たずの少年による、辺境での最強国づくりと最高に気ままなスローライフの幕が、今、静かに上がったのだった。
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