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私は私のままで

 その夜。


 私は、不思議な夢を見た。


 真っ白な空間。


 見覚えがある。


 ——転生する時に来た、あの場所だ。


「——お久しぶりです」


 声がした。


 振り向くと——


 ツクヨが、立っていた。


 相変わらず、サイズの合わないとんがり帽子。

 星柄のマント。

 「MAGIC」と刺繍されたチープな杖。


 安っぽい魔法使いのコスプレみたいな格好だけど——


 その瞳には、星が瞬いていた。


「あなたのことは、ずっと見ていましたよ」


 ツクヨが、微笑んだ。


「……見てた?」


 私は、一瞬固まった。


 見てた?


 ずっと見てた?


 ——待って。


「ちょっと待ってください」


 私は、思わず声を荒げた。


「ずっと見てたって、どこまで見てたんですか」


「どこまで、とは?」


「朝の……あの……体が勝手に反応する時とか……見てました?」


 私の顔が、真っ赤になる。


「エリーゼのこと考えて変な夢見た時とか……リーナの着替え手伝おうとされて焦った時とか……」


「ああ、プライベートな場面ですか」


 ツクヨが、あっさり言った。


「そちらは見ておりません」


「……本当ですか?」


「ええ。うち、最近コンプラが厳しいので」


 ——コンプラ。


 神様の世界にも、コンプライアンスってあるんだ。


「転生業界も色々うるさくなりましてね。プライバシーの侵害だの、人権問題だの」


「神様相手に人権……」


「なので、入浴シーンやお着替えシーン、その他もろもろの私的空間は一切見ておりません。ご安心ください」


 ツクヨが、真面目な顔で言った。


「録画もしておりません。データは残しておりません」


 ——なんで神様が個人情報保護みたいな説明してるんだ。


 シュールすぎる。


 ……って、待てよ。


 見てないってことは——


 私、今さっき自分から「朝の生理現象」とか「エリーゼの夢」とか言っちゃったの、完全に無駄じゃない!?


 言わなくてよかった情報を、自分からベラベラ喋っちゃった!?


「あ、あの……さっきの話は忘れてください」


「さっきの話?」


「朝の……とか、夢の……とか」


「ああ、朝の生理現象とエリーゼさんの夢の話ですか」


 ——復唱しないで!


 恥ずかしさで死にそう。


「見てなかったなら、言う必要なかったじゃないですか……」


「そうですね。自己申告でしたね」


 ツクヨが、クスクス笑った。


「まあ、健全な成長の証ですよ。気にしないでください」


「気にしますよ!」


 顔が熱い。


 神様相手に赤っ恥をかくとは思わなかった。


「まあ……それなら、いいですけど」


「ご理解いただけて何よりです」


 ツクヨが、にっこり笑った。


 ——この神様、本当に軽いな。


「さて、本題ですが」


 ツクヨの表情が、少し真剣になった。


「強くなりましたね、あなた」


「……そうですかね」


「体だけではなく、心も」


 ツクヨの言葉に、私は少し照れた。


「あなたは、私が願った通りに——いえ、それ以上に成長しました」


「……でも、まだ何も解決してない」


 私は、苦笑した。


「クラウスへの想いは伝えられないし、エリーゼを傷つけたし、自分の体にも完全には慣れてない」


「それでいいのですよ」


 ツクヨが、穏やかに言った。


「人生は、完結しないものです。悩み続けること、迷い続けること——それ自体が、生きている証」


「……深いですね」


「神様ですから」


 ツクヨがウインクした。


「これからも——」


 ツクヨが、少し言葉を選ぶように言った。


「大変なことが、あるかもしれません」


「……大変なこと?」


「具体的には言えませんが」


 ツクヨが、微笑んだ。


「でも、あなたなら大丈夫。きっと乗り越えられますよ」


 ツクヨが、私の肩に手を置いた。


 温かかった。


「頑張ってくださいね、ユーリ」


「……ありがとうございます、ツクヨさん」


 私は、頭を下げた。


「この人生を、くれて」


「いえいえ。私は窓口担当なだけですから」


 ツクヨが、苦笑した。


「でも——あなたに会えてよかった」


 ——その言葉を最後に。


 私は、目を覚ました。


◇ ◇ ◇


 朝。


 窓から差し込む光が、眩しかった。


 ——夢だったのか。


 でも、やけにリアルだった。


 ツクヨの言葉が、胸に残っている。


 『大変なことが、あるかもしれません』


 『でも、あなたなら大丈夫』


 ——何が起きるんだろう。


 わからない。


 でも——


 怖くはなかった。


 だって、私には——


 クラウスがいる。


 エリーゼがいる。


 リーナがいる。


 父上も、母上も。


 一人じゃない。


 何があっても——


 みんなと一緒なら、やっていける。


「ユーリ、今日も訓練やるぞ!」


 窓の外から、クラウスの声が聞こえた。


「ああ、今行く!」


 私は、窓から顔を出した。


 クラウスが、訓練場で手を振っている。


 その笑顔が——


 やっぱり、かっこいい。


 私は——


 駆け出した。


 新しい日が、始まる。


 心は女で、体は男で。


 好きな人は男で、でも体が反応するのは女で。


 複雑で、矛盾していて、誰にも理解されない。


 でも——


 これが、私だ。


 私は、私のままで生きていく。


ご愛読ありがとうございました!

これで、彼(彼女)のお話しは一区切りです。

もし、機会があれば、またお会いしましょう。

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