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好きの、意味

 クラウスは、無事に回復した。


 一ヶ月後には、訓練にも復帰した。


 復帰した日の訓練後——


「お前、俺が寝てる間、毎日見舞いに来てたらしいな」


 クラウスが、からかうように言った。


「……誰から聞いた」


「看護師から。『あの子、毎日来てくれてましたよ』って」


 やめて。


 恥ずかしい。


「……暇だったんだ」


「嘘つけ」


 クラウスが、笑った。


 そして——


 ポン、と私の頭を撫でた。


「ありがとな、ユーリ」


 ——心臓が、止まった。


 いや、比喩じゃなくて、一瞬本当に止まったかと思った。


 頭を撫でられた。


 クラウスに。


 男同士なのに。


 これ、なんていうシチュエーション?


 前世の少女漫画で見たやつじゃない?


「な、なんだよ、急に」


「いや、お礼を言っただけだろ」


 そうだけど!


 そうじゃなくて!


 頭撫でるのやめて!


 心臓がもたない!


「……変なやつ」


 クラウスが、笑いながら去っていった。


 私は——


 しばらく動けなかった。


 頬から火が出るようだ。


 胸が破裂しそうなくらい、鼓動が激しい。


 足がふらふらする。


 これ、恋煩いってやつじゃないの。


 病気だ。


 完全に病気だ。


 治療法は——


 たぶん、ない。


◇ ◇ ◇


 そして——


 私は、エリーゼに会いに行った。


 答えを伝えるために。


 ……でも、その前に。


 事件は起きた。


 エリーゼを待っている間、暇だったので庭を散歩していた。


 すると——


 エリーゼが、向こうから歩いてきた。


 今日も可愛い。


 ドレスを綺麗に着こなして、髪を丁寧に整えて。


 ——あ、やばい。


 体が反応しそう。


 落ち着け。


 落ち着け、私の体。


 今から告白の返事をするのに、そういう反応はダメだ。


「ユーリ!」


 エリーゼが、駆け寄ってきた。


 走ってくる姿が——


 可愛い。


 髪が揺れて——


 胸も揺れて——


 いや見るな!


 見たらダメだ!


 今からお断りするのに、そんなところ見てたら最低すぎる!


「待たせてごめんね」


 エリーゼが、微笑む。


 いい匂いがする。


 フェロモンが——


 来てる。


 ——ごめんなさいエリーゼ。


 君のことは友達としてしか見られないって言いに来たのに、体がこんな反応してる私を許して。


 私は最低だ。


 本当に最低だ。


 でも——


 だからこそ、断らなきゃいけない。


「答えを、聞かせてくれるの?」


 エリーゼが、緊張した面持ちで聞いた。


「……ああ」


 私は、深呼吸した。


 体の声を、封じ込める。


 理性を、総動員する。


 これが——


 本当の「強さ」だ。


「エリーゼ、お前のことは——大切に思ってる」


「……うん」


「でも——恋愛としては、見られないんだ」


 エリーゼの目が、少しだけ潤んだ。


「友達としては、ずっと一緒にいたい。でも——それ以上は、無理なんだ」


「……そう」


 エリーゼが、小さく微笑んだ。


「正直に言ってくれて、ありがとう」


「……ごめん」


 ——本当に、ごめん。


 君に体が反応してるのに、こんなこと言ってる自分が情けない。


 でも、体の「好き」で君を傷つけたくないんだ。


「謝らないで。私が勝手に好きになっただけだから」


 エリーゼは、涙を拭いた。


「でも——友達でいてね?」


「……ああ、もちろん」


 私は、彼女の手を握った。


 ——体が反応した。


 ごめん。


 本当にごめん。


 最低だ、私。


「ずっと、友達だ」


 エリーゼは——


 笑って、頷いた。


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