本当の強さ
その日の夜。
私は、自室で頭を抱えていた。
エリーゼに告白された。
答えを保留した。
断ってよかったのか——
いや、断ってよかった。
今の私じゃ、ダメだ。
体が反応するだけの「好き」で、誰かと付き合っちゃいけない。
それは——
相手を傷つけることになる。
自分も傷つくことになる。
でも——
いつか、答えなければならない。
彼女に、何と答える?
心は、クラウスが好き。
体は、エリーゼに反応する。
どっちを選べばいい?
心か? 体か?
——わからない。
何もかも、わからない。
……そういえば。
私は、「強くなりたい」と願った。
転生する時に、ツクヨに言った言葉。
「強くなりたい」
あの時は、単純に考えていた。
体が強くなれば、誰にも負けない。
剣が強ければ、守りたい人を守れる。
でも——
今ならわかる。
「強い」って、そういうことだけじゃない。
体が強いだけじゃ、足りない。
心が強いだけでも、足りない。
本当の強さは——
強い体を、強い心で制御することなんじゃないか。
体が女性に反応しても、それに振り回されない。
本能が「好き」と叫んでも、理性で判断する。
衝動を感じても、行動に移さない。
それができる人間が、本当に「強い」んじゃないか。
前世の私は、「男は獣」と思っていた。
本能に負けて、女を傷つける男を軽蔑していた。
でも——
今なら、わかる。
本能に逆らうのは、本当に難しい。
それでも逆らえる人間が、本当に強い人間なんだ。
私は——
そういう人間になりたい。
体が何を言っても、心で判断する。
本能が叫んでも、理性を失わない。
それが——
私の目指す「強さ」だ。
……まあ、言うのは簡単だけど。
実践するのは、めちゃくちゃ難しいんだけどね。
特にエリーゼの前だと、体が言うこと聞かないし。
クラウスの前だと、心が言うこと聞かないし。
どっちにしても、制御不能。
……修行が足りないな。
そんな時——
「ユーリ!」
扉が、勢いよく開いた。
飛び込んできたのは——
王立学院の同期、アルベルトだった。
「大変だ! クラウス先輩が——!」
「クラウスが、どうした?」
「魔物の討伐任務で、怪我を——!」
私の頭が、真っ白になった。
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