リーナの不安
十六歳になった。
王立学院も二年目。
私は、確実に強くなっていた。
クラウスにはまだ勝てないけど——
他の生徒には、負けなくなった。
「ユーリ様、お帰りなさい!」
休暇で屋敷に戻ると——
リーナが、玄関で出迎えてくれた。
でも——
私は、一瞬、言葉を失った。
リーナが——
変わっていた。
二年前に会った時より——
背が伸びた。
顔立ちが大人っぽくなった。
そして——
体つきが、女性らしくなっていた。
「ユーリ様? どうしたんですか?」
リーナが、不思議そうに首を傾げる。
「……いや、なんでもない」
嘘だ。
体が、反応している。
リーナを「女性」として認識している。
「ユーリ様、疲れてるんですね。お風呂、沸かしておきましたよ」
リーナが、にっこり笑う。
その笑顔が——
前より、ずっと可愛い。
——ダメだ。
リーナは、妹みたいな存在なのに。
家族みたいなものなのに。
この体は——
勝手に反応している。
「着替えも用意してあります。お手伝いしましょうか?」
「いや、自分でできる」
「遠慮しないでください。リーナの仕事ですから」
——無理だ。
リーナに着替えを手伝ってもらうなんて、無理だ。
この状態で。
「本当に、大丈夫だから」
「そうですか……」
リーナが、少し寂しそうな顔をした。
——ごめん、リーナ。
私が最低なんだ。
妹みたいな存在なのに、体が反応するなんて。
前世で嫌っていた「そういう男」に——
私は、なりかけている。
◇ ◇ ◇
その夜。
私は、屋敷の庭で夜風に当たっていた。
複雑な気持ちを整理したくて、一人になりたかった。
すると——
「ユーリ様」
リーナが、後ろから声をかけてきた。
「……どうした、リーナ」
「あの……少しお話してもいいですか?」
リーナが、隣に座った。
月明かりに照らされた彼女の横顔が、やっぱり綺麗で——
いや、考えるな。
「実は……リーナ、悩んでることがあって」
「悩み?」
「はい。ユーリ様が王立学院にいらっしゃってから、リーナ、ずっと一人でメイドの仕事してて……」
リーナが、俯いた。
「最初は張り切ってたんですけど、最近、自信がなくなってきて」
「自信?」
「リーナ、本当にユーリ様のお役に立ててるのかなって。お嬢様方みたいに上品じゃないし、料理もまだ下手だし……」
リーナの声が、少し震えた。
「孤児院から来たメイドなんて、やっぱりダメなのかな、って……」
——リーナが、こんなことで悩んでいたなんて。
私が学院にいる間、ずっと一人で頑張っていたんだ。
そして、不安と戦っていたんだ。
「リーナ」
私は、彼女の方を向いた。
「お前は、十分役に立ってる」
「えっ?」
「この屋敷を守ってくれてるのは、お前だろ。俺がいない間、父上や母上の世話をしてくれてる」
「でも……」
「出自なんて関係ない。お前がどこから来たかなんて、誰も気にしてない」
私は、真剣に言った。
「大事なのは、今何をしているかだ」
リーナが、目を丸くした。
「お前は、この家の一員だ。リーナがいなかったら、俺は安心して学院に行けない」
「……本当ですか?」
「嘘なんか言わない」
リーナの目が、潤んだ。
「ユーリ様……」
「だから、自信持て。お前は、立派なメイドだ」
リーナが——
泣き出した。
「うう……ユーリ様ぁ……」
「お、おい、泣くな」
「だって……リーナ、ずっと不安だったんです……。ユーリ様に認めてもらえて……嬉しくて……」
困った。
泣いている女の子を、どうすればいいんだ。
前世では女だったから、こういう時の対処法がわからない。
とりあえず——
「……頭、撫でていいか?」
「えっ?」
「いや、なんとなく」
リーナが、小さく頷いた。
私は、恐る恐る彼女の頭を撫でた。
柔らかい髪。
——やばい。
体が反応しそう。
でも——
今は、そういうのじゃない。
リーナを励ますために、やってるんだ。
本能なんかに、負けない。
「……ありがとうございます、ユーリ様」
リーナが、涙を拭いて笑った。
「リーナ、もっと頑張ります。ユーリ様が帰ってきた時、『すごいな』って言ってもらえるように」
「……ああ、期待してる」
私も、笑った。
リーナは——
やっぱり、妹みたいな存在だ。
体がどう反応しようと——
心では、そう思っている。
この気持ちだけは、嘘じゃない。
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