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転生窓口

 真っ白な空間にいた。


 天国——? いや、違う。


 目の前に、男性が立っている。


 中性的な青年——いや、若い男性だ。

 サイズの合っていないとんがり帽子をかぶり、星柄のマントを羽織っている。

 手には「MAGIC」と刺繍されたチープな杖。


 ……なにこれ、安っぽい魔法使いのコスプレ?


 でも、瞳には星が瞬いていて、どこか人間離れしている。


「——お目覚めですか」


 穏やかな声。

 でも、どこか威厳がある。


「あなたは先ほど、お亡くなりになりました」


「……死んだ?」


「はい。心臓発作でした。怒りで血圧が急上昇したようですね」


 あっけない。

 あまりにあっけない最期だった。


 三十年生きてきて、通り魔に刺されて、怒りで心臓が止まって死ぬなんて。


 ……笑えない。


「私はツクヨと申します。転生を管理する神の一柱です」


「転生……?」


「はい。あなたには、別の世界で新しい人生を歩む権利があります」


 ツクヨと名乗る神様は、にっこりと微笑んだ。


「ちなみに、このコスプレみたいな格好は上層部が決めた制服でしてね。私の趣味ではありません」


 ……律儀に言い訳するんだ、この神様。


「転生先は、あなたの世界とは違う世界になります。剣と魔法のファンタジー世界、と言えばわかりやすいでしょうか」


「魔法……?」


「はい。魔法を使える者は人口の三パーセントほどですが、魔法を封じ込めた道具——魔具と言います——が普及していまして、一般の人々も便利に暮らしていますよ」


 ファンタジー世界。


 小説やゲームで見たような、中世風の世界か。


「その前に——あなたの願いをお聞かせください」


「願い?」


「次の人生で、何を望みますか?」


 何を望むか。


 私は少し考えた。


 前世——いや、たった今終わった人生を振り返る。


 派遣社員として働いて、恋人もできたけど長続きしなくて、三十歳で独身で、そして通り魔に刺されて死んだ。


 悔しかった。


 理不尽だった。


 何も悪いことをしていないのに、「誰でもよかった」と言う男に刺された。


 弱いから。

 女だから。

 抵抗できないから。


 ——もう、嫌だ。


「強くなりたい」


 気がつくと、私は言っていた。


「強く生きたい。自分で運命を切り開きたい」


 ツクヨは静かに頷いた。


「もう、誰かに一方的に傷つけられるのは嫌なんです」


「……なるほど」


 ツクヨは優しく微笑んだ。


「わかりました。強くなれる環境を、ご用意しましょう」


「本当ですか?」


「はい。ただし、0歳からのスタートになります」


「0歳……赤ちゃんからってことですか?」


「ご不満ですか?」


「いえ……」


 むしろ、やり直せるならそれでいい。

 最初から強くなる努力ができる。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


「なんでしょう」


「私、次は……どんな人になるんですか?」


 ツクヨは意味深に微笑んだ。


「それは、生まれてからのお楽しみです」


「えっ?」


「大丈夫。きっと、あなたの望みは叶いますよ」


 ツクヨの手が、私の額に触れた。


 意識が遠のいていく。


「——良い人生を」


 その言葉を最後に、私は再び眠りについた。


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