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テント

 ある日のこと。


 野外訓練で、私とクラウスは同じテントに寝ることになった。


「狭いな、ここ」


 クラウスが、隣に横たわる。


 距離が、近い。


 腕が、触れそう。


 彼から、汗と草の匂いがする。


 訓練後の、男の匂い。


 ——なんでこんなのに反応してるの、私。


 エリーゼのフェロモンとは違う。


 胸がドキドキするわけじゃない。


 体が反応するわけでもない。


 でも——


 なんか、落ち着かない。


 心が、ざわざわする。


「……ああ」


 私は、緊張で声が震えた。


 こんなに近くにクラウスがいる。


 同じ空間で、寝る。


 ——無理だ。


 眠れるわけがない。


「ユーリ、お前緊張してるのか?」


 クラウスが、不思議そうに聞いてきた。


「……いや、別に」


「嘘つけ。体が硬いぞ」


 バレてる!


「なあ、もしかして——」


 クラウスが、私の顔を覗き込んだ。


 距離が、さらに近くなる。


 碧い瞳が、私を見つめている。


 月明かりに照らされた、整った顔。


 長い睫毛。


 形のいい唇。


 ——やばい。


 近い。


 近すぎる。


「——怖い夢でも見るのか? 子供みたいだな」


 ……そっちか。


 全然違う。


 むしろ今の状況の方が、夢みたいなんだけど。


「違う! そんなんじゃない!」


「じゃあ何だよ」


 言えない。


 あなたが近くにいるから緊張してるなんて、絶対に言えない。


 だって、私は男で、あなたも男で——


 こんなの、普通じゃない。


 でも——


 前世では女だったから。


 男に惹かれるのは、普通なんだ。


 心が、女のままだから。


 ……そう思うことにした。


「……いいから、寝ろ」


「変なやつ」


 クラウスが笑って、目を閉じた。


 その笑顔が——


 反則的に、かっこよかった。


 私は——


 一晩中、眠れなかった。


 隣にいるクラウスの寝息を聞きながら——


 自分の心臓の音と、格闘していた。


 ——これ、完全に恋だよね。


 うん、認めよう。


 私は、クラウスに恋をしている。


 男の体で、男に恋をしている。


 前世の女心が、この体の中で暴れている。


 複雑すぎる。


 でも——


 嫌じゃなかった。


 この胸のドキドキは、嫌じゃなかった。


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