入学前夜
王立学院——王立騎士養成学院。
王国で最も権威ある、騎士を育てる機関。
ここを卒業すれば、王宮騎士や領地騎士として働ける。
没落貴族の私にとっては、唯一の出世ルート。
入学試験は厳しかったけど——
なんとか合格した。
「入学おめでとう、ユーリ」
母親が、涙を浮かべて言った。
「あなたなら、きっとうまくやれるわ」
「……ありがとう、母上」
◇ ◇ ◇
入学式の前夜。
父親が、私を書斎に呼んだ。
普段は入れない場所。
埃っぽくて、古い本がたくさん並んでいる。
「座れ、ユーリ」
父親が、椅子を指した。
向かい合って座る。
父親の顔は、いつもより真剣だった。
「明日から、お前は一人だ」
「……はい」
「王立学院には、様々な貴族がいる。お前を馬鹿にする者もいるだろう」
——わかってる。
社交界で、散々経験した。
「でもな、ユーリ」
父親が、私の目を見つめた。
「お前は、ブラント家の人間だ。先祖には英雄がいる。誇りを持て」
「……はい」
「そして——」
父親が、少し言葉を詰まらせた。
「無理はするな」
——え?
「家を立て直せとは言った。でも——お前が壊れては意味がない」
父親の目が、潤んでいた。
「お前は、俺たちの息子だ。何よりも大切な、一人息子だ」
——父上。
いつも「家を立て直せ」「ブラント家の誇りを」と言っていたこの人が。
こんな風に言うとは。
「辛くなったら、帰ってこい。いつでも、ここはお前の家だ」
私は——
胸が熱くなった。
「……ありがとうございます、父上」
声が、震えた。
男の体だから、泣いちゃいけない。
でも——
「俺は、お前が誇りだ。ユーリ」
父親が、私の肩を叩いた。
温かい手だった。
◇ ◇ ◇
書斎を出ると——
母親が、廊下で待っていた。
「お話、終わった?」
「……はい」
「そう」
母親が、微笑んだ。
そして——
私を、ぎゅっと抱きしめた。
「母上……?」
「あなたが生まれた時のこと、今でも覚えてるわ」
母親の声が、震えていた。
「元気な男の子だな、って。お父様が泣いて喜んでた」
——そうだったのか。
いつも厳しい父上が、泣いて喜んでいたなんて。
「あなたが歩き出した時も、言葉を喋った時も、剣を握った時も——」
母親が、私の頭を撫でた。
「全部、覚えてる。全部、宝物なの」
「母上……」
「だから——」
母親が、私の顔を見つめた。
涙で濡れた目。
でも、笑っていた。
「元気でね。たまには手紙、書いてね」
「……はい。必ず」
私は、母親をそっと抱きしめ返した。
——この人たちは、私の親だ。
前世では女だった私を、男として産んでくれた。
知らないこととはいえ——
愛情をいっぱい注いでくれた。
この人たちのためにも——
強くなりたい。
そう、思った。
◇ ◇ ◇
そして——
入学式の日がやってきた。
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