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心と体のズレ

 ある夜のこと。


 私は、夢を見た。


 エリーゼの夢だった。


 二人で、どこかの庭を歩いている。

 彼女が笑っている。

 私の方を向いて——


 そして——


 近づいてくる。


 距離が近い。


 彼女の顔が、すぐそこにある。


 唇が——


「——っ!!」


 目が覚めた。


 汗びっしょりだった。


 そして——


 下半身が、またあの状態になっていた。


「……嘘でしょ」


 私は、天井を見つめた。


 何が起きた。


 今の、何だったの。


 エリーゼは友達だ。


 心では、そう思っている。


 前世では女同士だった感覚で、友達として見ている。


 なのに——


 体が、勝手に夢を見る。


 しかも、そういう夢を。


「……最悪だ」


 私は、顔を手で覆った。


 恥ずかしい。


 情けない。


 友達のことを、そういう目で見てしまった。


 ——いや、見てない。


 見てないよね?


 夢だから、仕方ないよね?


 自分で選んで見たわけじゃないし。


 体が勝手に見せた夢だし。


 私のせいじゃない。


 ……たぶん。


 でも——


 なんだか、エリーゼに申し訳ない気持ちになった。


 彼女は何も悪くないのに。


 こっちが勝手に、そういう夢を見てしまった。


 こんなの、前世では絶対になかったのに。


 これが——


 男の体ってやつか。


 心と関係なく、体が女性を求める。


 本能で、反応してしまう。


 前世の私なら、「気持ち悪い」と思っただろう。


 でも、今の私は——


 責められない。


 だって、自分がそうなんだから。


 自分の意思じゃコントロールできないんだから。


 男って、大変だ。


 こんなのと毎日戦ってるなんて。


 世の男性諸君、すまなかった。


 前世で「男は獣」とか思って、本当にごめんなさい。


 そう心の中で謝りながら——


 私は、冷たい水で顔を洗いに行った。


◇ ◇ ◇


 朝の問題は、なんとか乗り越えた。


 でも——


 もっと根本的な問題があった。


 それは——


 女性を見た時の、体の反応。


「ユーリ!」


 声をかけられて、振り向く。


 そこには——


 エリーゼがいた。


 久しぶりに会う、幼馴染。

 社交界デビュー以来、手紙のやり取りはしていたが、直接会うのは数ヶ月ぶりだった。


 でも——


 彼女は、変わっていた。


 背が伸びた。

 髪が長くなった。

 顔立ちが、大人っぽくなった。


 そして——


 体つきも、女性らしくなっていた。


「元気だった?」


 エリーゼが、笑顔で近づいてくる。


 ——ドキッ。


 心臓が、跳ねた。


 え?


 なんで?


「ユーリ? どうしたの、ぼーっとして」


 エリーゼが、顔を覗き込む。


 距離が近い。


 いい匂いがする。


 ——なんだこれ。


 前世では感じなかった、不思議な匂い。


 甘いような、ふわっとするような。


 フェロモン——とでも言うのか?


 男の体になって初めて気づいた。


 女性には、こういう匂いがあるんだ。


 ちょっと待って。


 なにこれ。


 心臓がバクバクする。


 体が熱い。


 頭がボーッとする。


 ——やばい。


 胸が——


 いや、見るな!

 見たらダメだ!

 友達の胸を見るなんて、人として終わってる!


「な、なんでもない」


 私は、視線を逸らした。


 全力で。


 渾身の力で。


 顔が熱い。


 胸の鼓動が、耳に響く。


 ——何が起きてる?


 エリーゼは、友達だ。


 ただの友達。


 前世では女同士だったんだから、何も感じないはずなのに——


 この体は——


 勝手に反応している。


 脳は「友達」と思っているのに、体が「女」と認識してる。


 このズレ、どうにかならないの!?


「ユーリ、顔赤いよ?」


「……気のせいだ」


「熱でもあるの?」


「ない」


 嘘だ。


 熱くて仕方がない。


 でも、これは病気じゃない。


 これは——


 男の、本能だ。


 女性を見ると、体が反応してしまう。


 心は何も感じていないのに。


 ——最悪だ。


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