96話:忘れていた気持ち
俺たち三人は迷宮の中を歩いていた。
しばらく歩いてわかったが、やはりこの階層は地図に載っている四階層とは全く違く地形をしていた。
その上、本来出現するはずのカースドレイクに加えて、
デスコボルト、デスドレイク、レイスなどB級以上と階級の高い魔物が多く生息しているのが確認できた。
こうも違うとなると今俺たちが歩いているここは四層ではないと断言してもいいだろう。
「なぁ、アルタロム。ここはどこなんだと思う?。」
「多分四層の……いや、五層とも違うから更に下の階層かな。」
自分で言っていて恐ろしくなってくるよ。
三層にいたのにいきなり飛び越えて遙か下の階層に到達した可能性があるんだ。
今の俺に二人の安全を確保しながらこの階層を突破できるのか心配にもなる。
しかし、反面嬉しくもある。
一気に下の階層に来たということは、それだけ俺の目的である白の討伐が目前に近づいているということ。
アイツの顔を思い浮かべると腸が煮えくり返る。
俺と俺の周りの人達の思いを踏みにじったあいつを殺して、せめてフィーアだけでも救い出さなきゃいけない。
そんなやつに報いを受けさせることが出来るとなれば気分が高揚するのもおかしなことではないと思う。
「なぁ、あと何層あると思う?」
「うーん……、三層以内には守護者のいる場所に行けるんじゃないか?」
正直に言えば多く見積った。
現状、俺の体感の話だが、この層に充満している魔力の濃さから三層どころかあと一層すらあるかすら怪しい。
それほどに、ここに充満している魔力はドス黒い邪悪な何かを纏っている。
「それなら明日までに攻略できるかもな!」
シャカはそう言って純粋そうに笑った。
ここまでの苦労を鑑みれば攻略ができる見込みが出来るとなれば当然の反応か。
しかし、本来なら地図に記載がない以上これからは手探りで迷宮を進まなければならない。
上の階層よりも回の広さは縮小してはいるが、その分通路も狭くなっている。
その上、より強力な魔物が出現する分攻略は遅くなってしまうはずなんだ。
「また分かれ道か、ナーヴァはこの道をどっちに行けばいいと思う?」
「うーん、こっち、左かな。」
これまでに何度か分かれ道に遭遇して、その度に白の部下であるナーヴァに聞いていたのだ。
そうすれば迷うことなく進めるはずだからな。
だが、ずっと言い方に引っかかることがあるんだよな。
「……ナーヴァ、本当にこっちの道であっているのか?」
「え?知らないよ。」
嫌な予感はしていたが、その予感は的中していたみたいです。
俺は今ままでナーヴァが白の元への道を知っているものだと思っていたのだが、 どうやら知らないようだ。
つまり、今まで数度遭遇していた分かれ道は全てナーヴァの直感で決めていたことになる。
「……はぁ、地道にやっていくしかないかぁ。」
せっかく早く攻略ができると期待していたのに、一気に張っていた緊張が解れたような気がする。
とはいえ、これはこれで良かったのかもしれないな。
下手に肩肘張って戦ったところで上手くはいかない。一度緊張をリセットできたのだと前向きに考えておこう。
「でも安心しなよ、俺は勘がいいんだ。
二択なら絶対に外さないよ。」
……本人がそう言うならそういうことにしてあげよう。
「三層だって、わざわざ階段のない巣穴を見つけるの苦労したんだよ?
最後は三手に別れて焦ったけど、見つからなくてよかった。」
階段のない巣穴というのことはどこかの巣穴の奥に階段があったのね。
四層や五層にたどり着くにはその階段を使わなければいけなかったということか。
「所詮は勘の話だろ?あんまり鵜呑みにしてるといつか痛い目見るぞ?」
「だいじょーぶ!死ななきゃなんとでもなるんだからさ!」
「ならないよ。」
「え?」
口が滑った。
何かを言おうと思っていた訳では無いのだが、ナーヴァの理論と話し方が楽観のしすぎなように感じて思わず声に出てしまった。
「ねぇ、アルタロム。どうせならないのだと決めつけるよりどうにかなるって思った方がいいんじゃない?」
「そんなこと言っ……」
いや、ナーヴァの顔を見たら言う気が失せた。
笑顔に見せようとしているが、無理をして作っていることがよく見ずともわかる。
この顔を見れば「人は生きていても腐る。」なんて言葉、俺のちっぽけな世界のちっぽけな理論の一つに過ぎないんだと我ながら烏滸がましく思ってしまった。
そして、こんな顔をするナーヴァの短いであろうこれまでの人生の濃密さが理解できた。
この世界の濃密な経験とはどれだけ残酷なものなのか、この半年で十二分に理解できたと思っているつもりだから。
もう、何も言えない。
「なに、なんで言いかけて終わったの?」
「いや、なんでもないよ。
それで、この分かれ道は左だな?」
「え、うん。」
本人の言う通りナーヴァの直感を信じてみよう。
正しいかどうか、なんの確証もないけれど、この子の顔を見ればそれだけで信じて進むだけの十分な根拠にはなる。
批判的に言い返していたシャカが何も言わずに従ったのはきっと俺と同じ考えに至ったからなのだと思う。
それか、シャカ自身も勘がいい。ナーヴァの選んだ結果と同じ結果を導き出したというところか。
俺には、そんな直感はなかったな。
「……なぁ、二人とも。」
「「ん?」」
「俺なんかと、一緒に来てくれてありがとうな。」
こんなことを急に言うのは自分で思う以上に周りから見れば気持ちが悪いだろうな。
しかし、今感じたことをどうしても伝えたかった。
この半年、魔王として一人で戦っていたせいで忘れてしまっていたこの気持ち。
シャカに会ってから、理解できないまま感じてしまっていた気持ち。
誰かを認めて、誰かと一緒に目標へと向かう気持ち。
「「はははっ!」」
とはいえ、そんなに豪快に笑わられると傷つく。
「馬鹿かよ!お前だからオイラは一緒に来たかったんだよ!」
「同感!君は嫌いにはなれなかったから一緒に来たの!」
……視野が、狭くなってしまっていたんだな。上を向いたらいきなり眩しくなってきた。
今まで曇っていたのに、一変した二人の澄んだ笑顔が焦げた空気を一気に外に吐き出させてくれたように感じる。
伝えてよかった。
「もう少し、よろしく頼む。」
「「もちろん!」」
最後まで読んでくれてありがとうございます!
書き方を変えたことで読みずらくなったかもしれないと思い、この場をお借りしてお詫び申し上げます。
三章前半までの書き方と、この話のような書き方のどちらがいいなどあれば、御手数ですが感想でお伝えください。
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