92話:不安と怒り
シャカの声に引き寄せられるように、ジャイアントバットの巣を探索していたメンバーが戻って来た
「マジでこんなやつをぶっ倒しちまったのかよ!!」
まるで迷宮を攻略したみたいな喜びようだな。
「本当に二人だけで倒したの?」
「え、もちろん。」
ナーヴァはなんでそんなことを聞くんだ?
「シーサーペントをたった二人……しかもこんな短時間で討伐できるなんで信じられないんだけど。」
着替えてからナーヴァの当たりが強い。
それまではなんの抵抗もなく話していたんだが。
まぁ、こうなった心当たりはなくもない。
「そんなことどうだっていいじゃねぇか!現に倒しちまってんだからそれだけでよ!」
「あんまり頭撫でないでよ!」
パーティーメンバーに対してはじゃれてる感じで今まで通りだな。
……後で話をする必要がありそうだな。
「それで、この死骸はどうするんだ?」
「それは持ち帰ろうと思っています。」
「でも持って帰るまでに腐っちまわないか?
この迷宮はまだどこまで続いてるかわかんねぇんだし。」
普通に考えていれば最もな意見だな。
一人の時の俺なら屋敷までは影移動で無理やり転送することも出来るが、ここまで注目されてしまっては影を使えない。
だから今回はキチッとお話しておりますとも!
「それはオイラが持って帰るからいいよ。」
「うぉ!?シーサーペントの死骸が一瞬で消えやがった!?」
みんなが集まる前に慌ててシャカに頼んだのだ。
しかし、あんな急に頼んだのに迷うこともなく快諾してくれるとは思わなかったな。
「へー、そのペンダントに入るのねぇ……。」
「応!あ、盗んだら承知しねぇからな?」
「盗まねぇよ!」
あの万能ペンダントを見たらみんなそんな反応にもなるよな。
「そういえば、階段はどうなったんだ?
水中にあるって言ってたけど、まだ探しに行けてないよな?」
「はい、だからこれからもう一度潜って探索して来ようかと思っていたところです。」
「休まなくて大丈夫なのか?」
「まぁ、この湖はシーサーペント以外にこれといって強そうな魔物はいなかったようなので大丈夫だと思います。」
「そっか……!」
というか、確認だけなら正直一人で行った方が色々と楽なんだよな。
影を隠す必要が無くなるし、気を使ってゆっくり降りる必要もなくなる。
あと、濡れてるの俺だけだし。
他の人が濡れる必要もないだろ。
「それじゃあ行ってきます。」
「気をつけろよ!」
三度目の潜水はシーサーペントがいないというだけで安心感が違うな。
水中に潜ってみたけど、案の定シサペンより強いやつどころかそれに近しいやつもいない。
いるのは低級の小型の魔物かその他魚類とか。
あのシサペンは異様にでかかったからな。
たらふく食って暴れて、真っ先に強い魔物は排除されてしまっていたんだろうな。
その分シサペンを倒した後は穏やかに進んでいけるけどね。
しかし、水深二、三十メートルとなるとくらくなってくるな、穴の傍まで来たけど周りが見にくい。
穴の中は想定通り真っ暗。
水中だと炎は発生させられないし、光の確保は難しいかな。
仕方ないとはいえ、手探りで探していくの怖いなぁ。
真っ暗で何も見えない……、手探りって言っても岩にでも擦ったら手を切れそうで無闇に辺りを触れられない。
でも、ちんたらしてたら息が続かないから急いでいかないと。
いやしかし、この感じ上っているな。上に何かあるといいが。
”ゴツンッ”
痛っ……!
なにかに頭をぶつけた……。
なんだ?岩盤ではなさそうだな。
周りのようにゴツゴツとした感じじゃない。
フジツボでも着いていたら頭が大惨事になっていそうだが、これは鉄板か?
鉄板ねぇ、それならこの辺を探してみれば……。
────ビンゴ。
”ギィィィィィ……”
「ぷはぁ!やっぱり、なんか空間があったな……。」
想像通り扉だったなあれ。取っ手があって確信できた。
それにしても、灯りがあって息ができるのってすごい幸せなことだったんだなぁ……。
さて、あんな扉の奥に何も無いってことは無いだろう。
ゲームではこういうところに宝箱や隠しボスなんかがいるんだが……。
「やっぱり、階段ね。」
性格の悪いアイツらしいといえばらしいが、こんな道を正規ルートにしているようだ。
これを見つけたヤツらはすごいと思う。こんなの誰が見つけられるというのか。
これはさすがにふざけてやがる。
というか、三層をクリアできたヤツらはよくシサペンを掻い潜ってここまで来れたよな。
「……まぁ、そんなこと気にしてもしょうがないか。一度皆のところに戻ろう。」
戻る時はこの扉は開けておこう。少しでも光が入ってくれば目印になるからな。
戻る時は結構するする降りて行けるな。
「ぷはぁ……ただいま。」
「お、おかえり!アルタロム!」
こいつら、もう酒盛り初めてるんだけど。
人がどれだけ苦労して……って、これから潜るかもしれないのに酒盛り?
「な、なんでもう飲んでいるんですか?」
「あ?そんなもんやっと次の階に進めるからに決まってんだろ!」
……しばらくこのパーティーと接してきたけど物凄く楽観的だな。
皆は大体がリーダーに従順であんまり自分で意見を出したりしている感じはないし。
シーサーペントと遭遇したことを伝えた後も逃げるように他の案を出していたし。
こいつらには悪いけど、正直この後の攻略ができるかどうかは怪しいという感じ……
「まぁ、この迷宮に潜った最後の記念に飲んどこうと思ってよ!」
「……え?」
「さっき話し合ってよ、俺たちこの階層でもうリタイアしようと思ってんだ。」
「リタイアって、どういう意味ですか……?」
この世界はゲームじゃないんだ。
リタイアしたからって、自分たちの意思では決して街に戻れない。
つまり冒険者にとって、迷宮の攻略をリタイアするということはそこで死ぬことを指す……。
「なんで、なんで急にそんなことを言うんですか!?」
「……俺たちじゃ攻略なんて絶対にできないと思ってよ。」
「だからって……ここで死ぬことないじゃないですか!」
「え、なんか勘違いしてね?」
「……はい?」
「攻略できねぇから進まねぇ。
だから、俺たちはお前たちが攻略するまでここで大人しくしようってことにした!」
えっ、ちょっ、何を言ってるんだこの野郎。
「ここはお前たちが攻略するんだろ?
これは俺たちからの最高の信頼なんだぜ?」
「……それってただの丸投げってことじゃないですか。」
「まぁそうだな!」
ガッハッハと、そこまで豪快に笑う姿を見せられたら怒る気力も呆れる気力も一気に無くなった。
まぁ、そうだな。俺は必ずこの迷宮を攻略する。
結果として救えるかもしれない命が増えただけの話だ。
それなら、助け出してやろうじゃないか。
「……それにしても、「死ぬことないじゃないですか!」かぁ!
そんなに心配してくれるなんて、アル坊には可愛いとこあるじゃないのぉ!」
前言を撤回しよう。
物凄く怒る気力が湧き出てきた。
これってギャグ小説だっけ……。
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