78話:タルタロスへ
ギルドマスターが白の配下であることがわかったが、一体何を考えているのか。
恐らくこいつは俺が魔王であることを知っている。
そんな相手を無策で呼び出すとは思えない。
なのに、部屋の外にも怪しい気配は無い。
こいつは本当に一人で俺と話をしようとしているのか。
……人質がいるからと高を括っているのか?
舐められたものだ。
一体どんな計画を立ててきているのか、警戒を緩める訳にはいかなさそうだ。
「あまり警戒しないでいただきたいですね。
ご安心ください、私が危害を加えるつもりはありません。」
飄々とした話し方で胡散臭いが、嘘ではなさそうだな。
白の性格上、下手に俺に手を出してきたらこいつが消されかねない。
「それで、ハイエンドグリズリーについての話はなんだ?」
「えぇ、先に結果からお話致しますと。
今回の活躍を鑑みて、アルタロム様をAランクへ昇格させていただきます。」
「やっぱ、そうだよね。」
こいつが部屋に居た時点で思い浮かんだ可能性の一つだ。
まぁ、ハイエンドグリズリーの群れを討伐したんだから揉み消されでもしない限りランクアップは確実だったんだけど。
絶対に理由はそれじゃない。
「Aランクに昇格したのですから、もちろん行かれますよね?
この街において最も難関な依頼……タルタロス攻略へ。」
来た。
予想通りというかなんというか、色々とおかしい部分が多く見えたんだ。
「今回のハイエンドグリズリーはお前たちの仕業か?」
「滅相もない、依頼者の伝達ミスでしょう。
にも関わらず討伐していただいたアルタロム様には感謝をしてもしきれません。」
喋り方も顔の使い方も上手いな。
隠してはいるが、嘘であるということが分かる。
どうせ、白魔法で無理やり進化させたんだ。
そして、それを俺に狩らせた。
酷いことをする。
「なんで、ランクアップしたからっていきなりタルタロスの攻略に向かわせようとするんだ?」
シャカの言う通り、こいつの喋り方は普通の人から見れば不自然だ。
だけど、シャカに本当の事を言うことは許されない。
白との戦いにシャカを巻き込む訳にはいかないから。
だけど……
「強い冒険者さんを高ランクで攻略に苦戦している迷宮に送るのは自然なことではありませんか!
もちろん、アルタロム様とパーティーを組んでいるあなたに対しても私はタルタロス攻略に向かって欲しいと思っていますよ?」
シャカを巻き込みたくないという俺の気持ちはこいつらには関係ない。
むしろ、タルタロスに入るためのA級二人以上の条件を達成させるのにうってつけの人材を逃がさせるわけが無い。
「……アルタロム、明日タルタロスに向かおう。」
「なんで急に……?」
「こいつの言う通りだと思ってさ、何十年も未攻略のタルタロスの迷宮を攻略するなんてすげぇこと俺たちでやってみたくなったんだよ!」
クソほど単純な理由だった。
それなら尚更連れて行きたくはないのだが。
「……もし攻略できたなら、報酬は何を貰える?」
「もちろん、貴方の望むものを渡しましょう。」
そうだよな。
多分……というか確実に白はタルタロスの最奥にいる。
タルタロスの攻略は白を殺すことと同義で、あいつを殺せばフィーアを連れ戻すことが出来る。
巻き込むつもりはなかったなんて綺麗事だ。
パーティーを組んだ時点でシャカを巻き込んでる。
なら、いっそ最後まで付き合ってもらう。
「わかった、明日行こう。」
「決まりだな!」
このギルドマスターは俺が断ろうが、どうせ明日にはタルタロス攻略の依頼を受注させるだろう。
ならいちいち断る方が面倒だ。
「話は聞いたろ。明日二人でタルタロスに入るよ。」
「かしこまりました。
それでは申請はこちらでしておきますので、本日はおやすみくださいませ。」
部屋を出ても監視をされているような形跡なしか。
これがこいつらの思惑通りだったとしても、思惑に乗っかった上で全部ぶっ壊してやる。
しかし、今日はさすがに疲れた。
影も破壊されて万全ではない。
シャカももう限界だ。
だから、今日は休養をとって明日タルタロスに向かう。
「アルタロム、明日でいいんだな?」
「むしろ、君の方こそ明日でいいのか?
もっと準備が整ってからほかのパーティーと行ってもいいんだよ?」
「いや、アルタロムがいいよ。」
……俺はこの子を巻き込んだ。
これからまだこの子を利用する。
だから、俺は死なせる訳にはいかない。
「また、明日からよろしく頼む。」
「もちろん!」
この子は……不思議だ。
この子と接していると不思議と物事を楽観できる。
「それじゃあ、おやすみアルタロム。」
「あのさ……。」
いや、つい昨日自分で思っていたことだろう。
そんなことを頼むなんて、キモすぎるだろ。
「はぁ、仕方ないなぁ。一緒に寝てやるよ。
そういうことだろ?」
「……うん。」
今日も眠れるような気がしない。
前世含め、四十年以上も生きてこんな小さな子に甘える有様。
情けないと言うよりも、我ながら気色が悪い。
「なぁ、アルタロム?
情けないとか思ってんだろ?」
「君は俺の心を読めるのか?」
「んなもん顔見りゃわかるよ。
だから言わせてもらうけどな、別に甘えたっていいんだよ。」
この子から見た俺は、きっとただ弱っている子供に見えるだろう。
俺はそんなんじゃないのに……
「人は一人じゃ生きられない。
どれだけ一人になろうとしても、一人じゃなんもできねぇし、全部失敗しちまうよ。」
いや、違う。
今まで何度でも聞いたことのあるような言葉だが、この子が言うこの言葉は重みが違う。
この子は……既に経験をしたことがあるんだ。
俺よりもずっと幼いはずのこの子は、俺よりもずっと大きく見える。
「アルタロムの部屋でいいか?」
「構わない、こっちこそ頼むよ。」
この小さくて、大きい背中には寄りかかっても安心出来る。
「それじゃあ、おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
暖かい。人の温もりというのは、案外忘れてしまうものみたいだ。
「ふーんふんふーん♪」
またこの曲……。
この地獄もきっと明日までだ。
今日まで、甘えさせて欲しい。
そして、この恩をいつか返させて欲しい。
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