7話:フェルという少女
あれから色々と話が済むと俺には自分の部屋を一つ与えられた。
「今日からそこで生活するように、そしてフェルはその手伝いをするように」との事。
まだ3歳くらいの子供に子供の世話を任せるとはなかなかクレイジーなことをする。
しかし、俺も含めて3歳と括るにはちょっと不適切な二人だろうな。
「ねぇ、フェルさん?」
「フェルとお呼びください。」
心の距離が遠い。そりゃそうか、あんなこと言ったらそりゃ誰だって怒るよな。
まずは弁明をすることが大事だ。
「あの、さっきの話なんだけど。」
俺がこの話を振ると、フェルは体を強ばらせた。
警戒しているのかな、これって話していいのだろうか。
……ええいままよ。話してしまえ。
「君ってさ、もしかして 閻魔 だったりしないか?」
俺がそう言葉を発すると、一瞬だけ時が止まった。
まずいことを言ったかと思って俺があたふたしていると、フェルはその場に膝から崩れ落ちた。
「よがっだぁぁ!やっぱり、お前も来ていたのならもっと早ぐ言えぇ……」
(泣いちゃったっ!)
フェルは思い切り泣き始めた。
とりあえず、慰めるべきだろうな。
「気軽に触れるでないわ!」
獣人って、頭を撫でられると落ち着くんじゃなかったっけ。
それから、フェルはずっと泣いた。
泣いて、泣いて、ようやく泣き終えたと思えばポツリポツリと色々と話してくれた。
「転生したらいきなり獣人の村だったし、
慣れないことばっかりだし、
みんな優しかったのに……」
また泣き始めそうだ。 相当辛いことがあったんだろう。
というか、俺はこんな環境に生まれて恵まれていたんだな。権力争いに巻き込まれそうなんて思える立場では無かった。
「というか、どうしてお前は俺のことがわかったんだ?」
「お前の、魂の気配を感じ取ったから……です。」
なんだそれは、獣人にそんな能力があるなんて聞いた事がない……フェルの種族に関係しているのだろうか。
「閻魔の力だ、全部という訳では無いが今も少しは使える……です。」
「二人の時は敬語じゃなくてもいいよ。」
閻魔の力が残っているのか。
俺やこの子の記憶が引き継がれていたり、なにか変なことが起こっている気がする。
「そういえば、転生する直前にお前何か言っていなかったか?」
ウッ と喉を鳴らして目線を逸らした。
「なにか隠していないか?」
「……いや。」
絶対に何かを隠している。
「言わないとさっき踏みつけられたことエルに伝えるから。」
「……お願い、それだけはやめて。」
顔を青ざめて縋り付いてきた。
あれは相当効いたようだな。
ごめんママ、暴力的な印象を与えてしまった。
「その、覚えていないんです。」
(……はい?)
「転生する前後の記憶が曖昧になっていて、あの、貴方のことは覚えていたけど、実は最後に何があったのかまだ全然思い出せなくて……。」
想定外のことが起こった。
いや、別に覚えていないなら覚えていないでいいのだが。
(あんなに泣き叫んでおいて忘れたの!?)
絶対に言えない。どうしよう、なんて返そう。
「えっと、まぁ、うん。忘れたのなら仕方ないね……。」
ダメだ何も言えねぇ……。
「あの……」
「ん?」
「いや、なんでもない……です。」
どうしたんだろう、言いかけてやめた。
まぁ、気まずいよねこの空気。
こういう時はなんて言えばいいのだろうか。
「な、なんでも言えよ。
俺たち隠し事するような仲じゃねぇだろ?」
死にたい。
俺、何言っているんだろう。
「ふっ、なんだそれ。」
笑ってくれた。
下らなすぎて笑ってくれたのかもしれない。でも、ちょっとだけ気まずくはなくなった気がする。
「そう……ですね。話しましょうか。」
ベッドから飛び降りて動いているのを見ると、さっきより元気が出たようだな。
「だから、二人の時は別に敬語じゃなくていいんだぞ?」
「いいえ。
これからはフェルとして貴方にお仕えしますから、何なりと仕事をお申し付けください。」
やっぱり、人は笑っている時が一番活き活きしているように見える。
「あぁ、もう少し大きくなったらお願いするよ。
今はまだ小さすぎてあんまり仕事を任せられないからな。」
さて、今日はもう食堂に向かおうかな。
いや、フェルに屋敷のことを色々と教えたほうがいいかもしれない。
「ち……」
「ん?何か言ったか?」
急に俯いてどうしたと言うんだ。
「小さいって言うなぁ!」
「うわぁ! 急に飛びついてくるなぁぁ!」
急に一体なんなんだ!?
そういえばこいつ転生する前にもなんか怒っていたような。
待ってこいつの地雷「小さい」ってこと!?
てか力強いなこいつ、待ってどうしようほんとに勝てないんだけど。
「どうしたのアル!?」
あ、やばい。よりにもよってエルが部屋に入ってきた……。
「フェルちゃん……?」
バチバチ言ってるよママ!?
「お、お母さん落ち着いて!?」
「落ち着いてるよ? アル。」
落ち着いてるとは程遠いよ!
殺気消してくれよ!
この日、地獄を見た。
エルのあんな姿見たこともなかったから知らなかったが、今後はもう怒らせないでおこう。
フェルはトラウマになったらしく、それから大人しくなった。