77話:経験と嫌な予感
影移動を使って街まで戻って来たけど、砂漠から街まで案外距離は離れていなかったんだな。
道のりが険しくて時間がかかったのか。
「き、気持ち悪いんだけど!?」
お?いきなり悪口か?
好きなだけ言えばいいさ、泣くだけだから。
「なんか、泥に沈んでるみたいで……なんだよあれ!」
まぁ、影移動の事だよね。
フェルもよく言っていたなぁ……。俺も気持ち悪いと思うけど。
「まぁ、魔法だよ。
確かに気持ちが悪いけど、便利だから我慢してくれ。」
「もう使いたくはねぇな……おぇ。」
嘔吐いてる……。そんな気持ち悪かったか?
まぁ、酔いには人それぞれ程度があるし、初めて経験したことだったから仕方ないか。
「早く報告して帰ろうぜ……。」
「あぁ、早くしよう。」
”カランカラン”
「本日はどのようなご要件でしょうか?」
「依頼の完了を報告しに来た。」
「では冒険者カードをご提示ください。」
まずはどんな依頼をしていたかの確認。
気にかけていないといちいち冒険者の顔を覚えることも、冒険者が受けた依頼の内容を覚えることもないよな。
ゲームや漫画とかでは一瞬だったのに、実際は思っているより時間がかかる。
「……あぅ。」
「おっと、大丈夫か?」
「うん。」
さっきからコックリ コックリしてたから眠いんだとは思っていたが、立ちながら寝るのはなぁ。
「シャカはカウンターに座ってな、俺が後はやっておくから。」
「うん。」
ふらふらしてたけどちゃんと座ったな。とりあえず一安心。
受付は……まだ確認できてないのかよ。
「あー、討伐依頼ですね?
では、討伐した証拠にどこでも良いので魔物の一部を提出してください。」
「はい。」
あの程度の群れなら影を使って全部もってこれるのだが、街中で影を使うのはまずいからな。
影を使わずに実際に持つとなると、さすがに全部は持って来れなかった。
まぁ、素材は貴重だから、必要な部分以外は影を使って全部俺の屋敷に運んだけど。
「これでいいかな?ハイエンドグリズリーの耳。」
一番切り落としやすく、数があっても持ち運びやすい大きさだったからな。
「え、ハイエンド?マイティでは無いのですか?」
「はい?」
あ、そういえば俺たちが受けた時はマイティグリズリーって話だったっけ。
いや待て。同じ系列の魔物だったから依頼者が間違えたのだと思っていたけど……
これもしかして俺たちの早とちりでマイティグリズリーの群れは別に居る?
「これは……」
え、やばいこれ依頼失敗か?
あれだけ暑い思いして、変な屍喰鬼に巻き込まれたり散々だったのに!?
いや、せめて素材を売ろう……って、持ってきてないや。
ここにあるのは耳だけで価値なんてほぼないわ。
「……ギルドマスターに掛け合ってきます。
お連れ様の近くの席でお待ちください。」
あ、熊の耳持って走って行っちゃった。
えぇ……大丈夫かなぁ。すごい不安。
まぁ、あんまり不安がっても仕方ないよね。きっとどうにかなると考えよう。
「えっと、シャカが座ってる席は……」
「すー……。」
うわぁ、机に突っ伏して寝てる。
もう深夜で人が少なくて良かった。ここまで無防備だと連れていかれそうだ。
「コーヒーをお願いします。」
「かしこまりました。」
それにしても、この見た目で男の子ねぇ……。
こんなの分かるわけない。
人は見かけによらずっていうのはよく知っていたつもりなんだけどな。
だけど、本人は自分が女と勘違いされていたことに多少なりとも不満そうな顔をしていた。
……それならなんで髪を切ったりしないのか、髪を切るだけで印象は大きく変わるはずだ。
どんな理由があるのか……俺とこの子はまだ会ったばかりだ。俺から言及するべきでないことはわかる。
だが、関わってしまった以上、一人で悩まれるのは嫌だな。
「うぅ……?」
「起きたか、おはよう。」
「おはよう、体がバキバキだよ……。」
「そんな体勢で寝ていたらね。」
今はまだ、ゆっくりとこの子の選択を待つべきだな。
「アルタロム様、ギルドマスターがお呼びです。お連れ様も共にこちらへ。」
おっとお呼び出しだ。変なことにならないといいけれど。
「ほら、行くよシャカ。」
「うん。」
この地域のギルドマスターはどんなやつなのか。
前世の影響か人を呼び出すやつにいい思い出がない。嫌な奴でなければいいんだが。
「おぉ!貴方がアルタロム様ですね!お待ちしておりました!」
……あぁ、こいつは。
「お姉さん、席を外して貰えますか?」
「え、ですが……」
「アルタロム様が言っています。席を外して構いませんよ。」
「かしこまりました。」
出来れば、シャカもこの場から返したいんだけど。
さすがにそれはさせてくれそうにない。
「どうぞお座り下さい。」
椅子には、なんの仕掛けもなさそうだな。
「アルタロム……?」
シャカもなにか感じとっているな。この子も大概勘が鋭い。
「……自分の身を守ることだけを考えておけ。」
「わかった。」
守るつもりではあるが、万が一を考えれば自分でも動いて貰えた方が助かる。
「それでは、今回のハイエンドグリズリーの件についてお話させていただきましょうか。」
さすがは白の統治……いや、支配する地域だ。
ギルドマスターも、気味の悪いあいつの魔力を持った魔人さんですか。
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