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6話:想起

 魔法の暴発事件があってから数年が経ち、俺はすっかり歩けるようになっていた。


「アル〜?今日は何を読んでるの?」


 いつも通り、本を読んでいるとエルが話しかけてきた。


 「精霊の本についてです。

 他の種族とは明らかに区別された書き方をされていたので、何が違うのか気になったんです。」

「アルは努力家さんだね!」


 エルはどんな些細なことでも全力で喜んで褒めてくれる。

 最初からこんな感じだったが、暴発事件以降さらに溺愛されている。


「エルは居るか。」


 珍しい、パパが図書室に入ってきた。

 時々覗き見ていることがあるようだが、話しかけてきたのはいつぶりだろうか。


「どうしたの?」

「前に言っていた子供の件だが、見つかったぞ。」

「本当!?」


 はてさて、子供とは一体なんのことだろうか。

 見つかったってことは、前から探していたのだろうが、一体何故だろう。


「アルタロム、お前に会わせたい者がいる。」


 誰だろう。

 多分その子供ということはわかるのだが、何故俺に会わせようとするのだろうか。


「良かったねアル! 友達ができるよ!」


 なるほど、単純に交流を持たせて仲良くさせようということか。

 友人を作ることは大切だ。これも親心というものなのだろうか。


 年上だろうから、虐められないといいが。


「行くぞ、アルタロム。」


 パパが俺のことを抱き上げた。


 こんなこと初めてだ。


 いや、正確に言えば生まれた時に一回だけしてくれたみたいだが、珍しいを通り越して感動を覚える。

 それにしても暖かい。これがパパの温もりと言うのだろうかポカポカとする。


「エル、着いてこい。」


 (え、嘘でしょパパ、もう終わりなんですの?)


 パパは抱き上げたあとすぐにエルに押し付けてしまった。

 そしてすぐに歩き始め、案内してくれた。


 せっかくならパパに抱えられながら歩きたかった。


「入るぞ」


 (パパさんお客さんでしょ!? ノックはどうしましたか!?)


 ノックもなしに思い切り扉を開いた先に反応には銀髪の獣人の父娘(おやこ)が居た。

 驚いた、娘の方は俺と同年代だろうか。


「お、お待ちしておりました。 」


 父親がお辞儀をすると同時に娘もお辞儀をした。礼儀の正しい子だ。


「楽にしろ。」


 そういうと父親は恐る恐る椅子に座った。こういった場所には慣れていないようだ。

 それに対して、娘は見た目に反して場慣れしているように見える。


 パパは俺とエルに座るように促し、自分も座って対談が始まった。


「貴様らにはここで働いてもらいたい。」


 格好を見て予想はしていたが、今まで従者をあまり増やしている印象がなかったからか少し驚いた。


「はい、貴方様に忠誠を誓いましょう。」


 忠誠とは大層なものだ。

 飽くまで執事として雇うだけの話だろう。そんなに重く考える必要はないのではないだろうか……。


「アルタロム。」

「え、あ、はい!」


 急に呼ばれて反応が遅れた。

 どうしたというのだ、俺はなにか変なことをしたのだろうか。


「お前は、あの娘に何を感じる?」


 (……は?)


 何を言っているんだろう。初対面で何を感じるって言われてもわかんないよ、まだあの子は喋ってすらない。

 第一印象ということだろうか、それならば色々思いつく。


 子供離れしている。


 思いついて何だが、今の俺が人のことを言える立場なのだろうか。


 人のこと……?


「あの、私から発言よろしいでしょうか。」


 娘が口を開いた。

 何を言う気だろう、答えるのが遅くなったから責められたりしないだろうか。


 いや、ないな。


「いいだろう。」


 パパが許可すると娘は俺に近づいてきた。

 近づくとよくわかるが、綺麗な銀色の髪と瞳だ。でも、この目つきはどこかで見たことがあるような気がする。


「貴方は、私を覚えていますか?」

「……え?」


 斜め上の質問に変な声が出た。

 覚えているも何も俺はこの世界に来てからこの屋敷を出ていない。両親と執事たち以外のとは面識が無いはずだ。


「えっと、俺と君は初対面じゃないかな……。」


 バチンッ


 頬にじんわりと痛みが広がる。

 突然のことすぎて分からない、尻もちを着いて腰も痛い。


 なんで俺は叩かれたんだ。


「……最低。」


 娘は扉を抜けて外に逃げ出して行ってしまった。


 最後に俺に向けた顔は、どこかで見たことがあった。

 どこで見ただろうか、この世界ではない。もっと前の記憶だ。


「も、申し訳ございません!」


 突然父親が大声で謝罪した後に土下座し始めた。

 まぁ、これから雇ってもらおうという家の息子を娘が引っ叩いたんだ。これが普通の反応だろうか。


「アルタロム、お前はどうしたい。」


 パパは俺に聞いてきた。

 俺に丸投げしてきますか、俺としては結論は決まっている。


「あの子と、もっと話がしたいです。」


 ちゃんと話したい。

 恥ずかしい話だが、叩かれてようやく質問の意味がわかった。

 本当は、一目見ただけで気づけただろう。


 彼女がそうだったのだから。


「……好きにしろ。」


 パパの許しが出た。

 俺はすぐにあの子を追った。扉を開いてどこに行ったかは分からないけど、とりあえず探そう。


「……あれ?」


 扉を出てすぐに、あの子は壁際に寄って蹲って座っていた。


「何の用ですか。」

「あの、さっきはごめん。 君に言いたいことがあるんだ。」


 彼女はすぐに逃げ出した。

 やり直すチャンスもくれない気なんだろうか。


 速い、全力で走って追いかけているのに追いつくどころかどんどん引き離されている。


 でも大丈夫だ、この先の曲がり角は行き止まりになっている。


 バンッ!


 やばい、何かがぶつかった音がした。

 怪我をしていないか不安になりながら急いで曲がり角の先を見る。


 しかし、彼女の姿はそこにはなかった。


「どいて!!」


 声が聞こえる、どこから聞こえるだろうか必死な声が。


 上だ。

 

 俺は上に視線を送ると、たちまち真っ黒に覆われた。


 バタンッ というものすごい音と同時に頭に衝撃が走る。


「も、もしもし、大丈夫ですか?」


 彼女は震えていた。心配そうな顔で俺を覗き込み、手を振っている。


「あ……らいじょうぶれす。」

「大丈夫じゃないですね。」


 慌てているようだ。

 一体何が起こっているんだろうか、頭がぼうっとしてフラフラする。


「アル!?」


 エルの声だ、エルも心配そうな声を出しているけれど一体俺はどうなっているんだろう。


 「どうなっているの……。

 生命の神よ 我が命に応え、その力をお貸しください。

 治癒(ヒール)


 暖かい。頭がはっきりとしてきて何となく思い出してきた。


 俺、顔面を踏みつけられたんだ。


 壁を蹴って飛び上がった彼女に顔面を踏まれてそのまま倒れ込んだってことか。


「さて、フェルちゃん。これは一体どういうこと? 説明して。」


 治癒が終わると、エルは彼女に対して威圧するように声をかけた。

 こんな風に話しかけられたら子供でなくても怖いだろう。


「お母さん。」

「……アル? どうしたの。」


 俺に気が向いたから多少威圧感は減ったけど、依然怖いままだ。

 いや、本当に怖い。子供に向けていい殺気ではないよお母さん。


「その、驚かせてしまった僕が悪いんです!

 逃げるその子の後を追いかけて僕が壁にぶつかっただけなんです!」


 変なことは言っていないと思いたい。

 表情があまり変わらないと本当に怖い、 何を考えているか読みずらいし、怒られているようで萎縮してしまう。


「……はぁ、わかったよ。 パパが呼んでいるから戻ろう?」


 納得してくれたようだ、不満はありそうだがそれでいい。

 本当、意図を汲んでくれる良いママだ。

 手を繋いで戻ろうとするのだが、一向に進もうとしない。


「ほら、フェルちゃんも行こう?」


 やはり、俺のママはすごい。

 フェルに手を出して三人一緒に手を繋いで部屋に戻ることになった。


「戻ったよー!」


 似た者夫婦というのだろうか、エルもノックをせず思い切り扉を開けて部屋に入った。


「話は済んだのか?」


 そういえば、ちゃんと話が出来ていない……。

 どうしたらいいか分からずもごもごとしてしまった、彼女……フェルも同じ様子だ。


「……よい、後でゆっくり話をしろ。」


 うちの両親は何と寛大なのだろうか、迷惑をかけて申し訳ない。


「フェルと言ったな、貴様はアルタロムに仕えろ。」


 本当、この両親は俺のことをよくわかっている。


「ゲイル、お前はフェルのことを支えてやるといい。」

「……ありがとうございます。」


 ゲイルは泣いていた。

 感激か安堵か。理由は俺には分からないが、少なくても負の感情ではないだろう。


「アルタロム様、先程は申し訳ございませんでした。

 私はアルタロム様に忠誠を誓います。」


 フェルさんや、急に跪かないでくれびっくりするから。


「……忠誠とかあんまり堅苦しいのはやめてくれ。」


 フェルはこの日、俺専属のメイドとなった。

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