59話:鳥の老人
収まったか、だがこの匂いは何だ?鉄が燃えたような、とにかく不快な匂いだ。
顔を上げれば、爆発の中心にかけて土煙が立っている。多分……建物が残っているとは思えない。
「イフ、大丈夫か?」
「大丈夫なのです。あの、アルタロムさん近いのです。」
仕様がないだろう、急なことだったんだから。
怪我をしている様子はないな。
音と衝撃は物凄かったが、ここまでは爆発が届いていなかったということか。
「アルタロムさん、これは一体なんなのです……?」
「俺も聞きたいよ。」
空にいたやつが落とした魔力の塊は地面に落ちる直前に爆発した。
だとしても、街を半壊させるほどの威力だとはな。
今も空にいるあいつは、確実に今までのどの刺客達より強いな。
「降りて来てる。イフ、君に逃げ遅れている人の避難を頼みたい。」
「アルタロムさんは?」
「俺はあの爆弾魔をぶっ飛ばしてくるよ。」
言ってみたけれど、あの爆発で多くの人が死んでしまっただろうな。
こんなことをイフに頼むのは酷だろうか。
「わかったのです。気をつけてなのです。」
そう言う背中を見せてくれると頼もしく感じる。
さて、あの場所はフェルとフロガがいた場所だ。二人は大丈夫だろうが、心配だな。
これ以上被害を出させないよう急いで向かうしかないか。
距離は走ればあまり遠くないはずなのに、瓦礫と炎で進みにくい。
炎のせいか周囲の視界が赤に染まっていて視界も悪いな。
「うっ……。」
その上、炎の近くに来ると不快な匂いが強くなった。
瓦礫が燃えた匂いとも、死体が燃えた匂いとも違うな。一体なんだこの匂いは。
ようやく到着した時には既に何人もの無惨な姿を見た。
こちらの世界に来てから身近に感じるようになったが、死というのを見るのは慣れるものじゃないな。
「なんじゃ、一番に辿り着いたのは其方だけか?」
瓦礫を抜けて見えてきたやつはどこか見慣れた姿をしている。
話しかけてきた声も聞き慣れている。
「フロガ……か。」
空にいた時から見た事のある姿をしていたけど、そうであると思いたくなかった。
そういう考えのせいでこの可能性を一番に除外したのかもしれない。
いや違う。日常で接するフロガからは敵意も、ほんの僅かな害意すらなかった。
よく見ればフロガにそぐわない魔力量。そして知性的な古風の口調。
考えられる別の可能性がある。
「そうだけど、どうしてこんなことをしたんだ?」
もっと別のことを聞きたい。聞かなきゃダメだったんだ。
最近は目の前で散々見てきた。
俺の憶測が正しければ、 俺もフロガのことをもっと知ってやらなきゃいけなかったんだ。
「記憶を見るに、其方はこの餓鬼の友であったな?
にも関わらず、その態度。其方は洞察眼に長けているようじゃの。」
「いいから答えろ。」
「……その態度は不愉快じゃが、先んじてやって来た其方に褒美をやるのも悪くはないな。」
いちいち話が長いなこいつ。さっさと話を進めろ、爺さんかよ。
「この体の餓鬼との契約だからじゃ。
この体を差し出す代わりに人間を滅ぼせというな。」
……契約か。想像通りであって、今までの俺の行動が悔やまれるな。
フロガは乗っ取られている。
背中の翼を見るに鳥なんだろうが、鳥の特徴を持ったまま相手の体を乗っ取る魔人なんていただろうか。
「フロガは生きているのか?」
「はっ、儂も無償で答えるほど優しくはない。そうじゃのぉ、儂に攻撃を当てたら答えてやろうかの!」
直線的な攻撃。だが、速い。直撃した。
腹が痛いけど骨はイッてなさそう。
「簡単に死ぬでないぞ!?」
殺意を感じられても速すぎて見えない。
反撃どころか、防御もままならねぇよ!
「そう急ぐなよ、名乗り合うくらいしたっていいだろう!?」
攻撃が止んだ……!
でもダメだ。街中で影を使えない状態じゃこいつには勝てない。
面目は立たないけど、騎士団が到着するまで出来るだけ時間を稼ぐしかないか。
「……其方はつまらんの。」
つまらない?何を言っているんだこいつは、勝つために行動して何が悪い。
いや、フロガにも似たようなことを言われたな。
勝ちだけが戦いじゃないって。
あいつは戦いを楽しんでいた。だから強いんだ。
ついさっき、過去の行動を悔いたんだろう?
昔からそうだ、俺は変わろうとしなかった。
試験のことを思い出せ。
フロガがフェルを変えてくれた。それで上手くいったじゃないか。
俺だって変わってみないと、何も上手くなんていかないよな。
「考え込む餓鬼に付き合うのも飽きてきたの。」
「悪いね、もう整理が着いたよ。戦ろうか。」
ただの真似でもいいから、本気でぶつかってやる。
眠ってるフロガを叩き起してやるんだ。
それが、「俺」のいつもの仕事だろ。
「はっ、はははっ!愉快な餓鬼じゃのぉ。突然雰囲気が変わりおった!
いいじゃろう、気に入った。冥途に送る前の手土産を持たせてやろう。
我が名は"ホムラ"忠実なる魔王様直属の下僕じゃよ。」
なるほどね、今までのやつらが下っ端だとするとこいつは幹部ってことね。
誰の部下……なんて、宣戦布告もせずにこの範囲の攻撃を命じるのは白しかいないだろ。
「さぁ、望み通り。狂い死ぬまで戦うぞ。」
なんか言ってること変わってるんですけど。
「さすがに、そこまでは遠慮させてもらおうかな。」




