57話:栗色の親子
頭がズキズキする。目を開いたら知らない天井が広がっていた。
「ここどこ。」
「お、起きたかい。まさかあんなことになるなんて。家のが悪かったなぁ。」
この人は確か食堂の店主さん、てことはここ食堂か。
そういえば、なんか頭にフライパンが飛んできて?
そのまま気絶してたってことかな。
「あの、あれからどのくらい経ちまし……ん?」
服が掴まれている感覚。なんだ?
「兄ちゃんモテモテだよな。」
なんでイフとクリムが俺の横で寝ているんだ?イフに至ってはマロンを抱えたまま寝てるし。
「一体これはどういう状況なんですか?」
「いやなぁ、兄ちゃんがぶっ倒れた後三人とも心配そうにしとってな。気がついたらコトンだよ。寝てた時間は三時間くらい?」
ガッツリお昼寝しちゃってますね……。
つまり二人とも寝落ちということか。それでこんな状況になるかといえば分からないが、疲れてたのかな。
「マロン君のお母さん探さないと、このお店に来ていたりしませんか?」
「あぁ、ツユリならさっき来た馬の兄ちゃんと話してるよ。」
そう言うと店主は店のテーブルを指さした。
そこでホースと栗色の髪の綺麗な姿をした女の人が優雅にお茶をしばいとる。
「おはようホース。」
「人探しを頼んでおいて自分は眠っているとはな。」
いや、俺は気絶してたの。しっかり頭にたんこぶできてるよ。
「おはようございます。えっと……」
「あ、アルタロムと申します。」
「アルタロムさん。今日はマロンのことをありがとうございました。何かわがままとか言っていませんでしたか?」
「いえいえ、とってもいい子でしたよ。」
礼儀の正しい人だな。この世界の親はこういうものなのだろうか……?
いや、この世界の父やエルと比べるのはちょっと違うか。
「イフ、クリム、起きて。」
「むぅ……。」
寝ぼけながら辺りを見渡すイフと、欠伸をして目を擦っているクリムで普段の生活の違いがよく出ている。
「おはよう。」
「おはようなのです。」
イフは完璧に起きて寝癖を整えているのに対してクリムはまだ半分夢の中だな。
「クリムさん、起きてくださーい。」
「起きてましゅ……。」
ダメだこれ。
……まぁ、別に無理に起こす必要も無いか。
「イフさんですね?マロンの母です。
今日は本当にありがとうございました。」
「お母さん?合流できて良かったのです。
マロン君、起きてなの。お迎えが来たみたいなの。」
イフが軽くマロンを揺すると眠そうに目を覚ました。
「まま?」
「おはよう。帰ってパパにご飯作ってあげよ?」
あんな街中ではぐれたようだから想像してたけど、やっぱり買い物をしてたみたいだな。
大丈夫かな、ちゃんと全部揃えられたかな?
「ほら、お兄ちゃん達にありがとうは?」
「うん!お兄ちゃんありがとう!」
途中から寝てしまっていたけれど、お礼を言われるのは嬉しいことだな。
「もう迷子になっちゃだめだよ?」
「うん!あと、イフちゃんもありがとう!」
「はいなの。また一緒に遊ぼうなの。」
イフには名前呼び。それだけ仲良く遊んでくれていたのかな。
お礼をし終えるとツユリさんはマロンを連れて帰り、二人は見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「それでは、俺達も帰らせてもらう。」
「あぁ、って待て。もしかしてそのまま帰るつもりじゃないだろうな?」
「いつもの事だ。気にするな。」
寝ている状態で抱えられるっていつものことなのか。
というか、最後まで起きなかったな王女様。子供より目覚めが悪いって大丈夫なのかな。
「失礼する。」
うん。速いのはわかった。
だけど、人ん家の屋根を無闇に歩いていかないで欲しい。
「やっぱり、アルタロムさんも綺麗な女の人が好きなのです?」
「急にどうした?」
「マロン君のお母さんを見てた時、ちょっと緊張してるみたいだったのです。」
やばい、そんな変な対応していたのか?
いや、でも好きなのかって言う質問の意味がわかんないな。
「年上で初対面の人だったし、緊張はしてたかもね。」
「そうなのですね。」
イフの反応だけだとわかんないな、もう直接イフにどんな感じだったか聞いた方が早いかな。
「じゃあ、アルタロムさんが好きな人って誰なのです?」
「え、親とかフェルとか?もちろんみんなも好きだよ?」
「……なんでもないのです。」
多分イフが言ってる好きな人って親愛じゃないよな。
でも、そんなこと言われてもどうもこの世界の人間に対して恋愛感情を持てないんだよな。
「そういえば、なんでイフはこの食堂にいたんだ?
一人でこういうところに入るイメージなかったんだけど。」
「買い物に出ていたのです、でもお店の前で店主さんが魔動車の故障で困ってたのです。治したらご馳走してくれたのです。」
つまり、店主を助けた後続け様にマロンの面倒を見てくれたということか。
「やっぱりイフは優しいんだな。」
「全然なのです。」
謙遜している様子ではないな。
優しいけれどこの子は謙虚というか、自己肯定感があまり高くないのだろうか。
他者への好感は高いんだけどなぁ。
「買い物って何を買いに行こうとしてたんだ?」
「魔道具整備の道具なのです。」
「よし、それなら俺が買おうか。」
「でもそれ高いのです。悪いのです。」
これまでイフには色々と世話になった。依頼の時も、フェルのことも。
その上今回だって色々と助けてくれたんだ。たまにはお礼を返さないと罰が当たる。
「いいさ。それくらいで破産するような経済力じゃないから安心しな。」
「それじゃあ、お願いするのです!」
「任せておきなさい!」
魔道具用の工具と言えばあそこの店だろうな。それならフェルたちにも追いつけるだろうか?
いや、三時間も経ったんだ。さすがにもう帰っているかな。
今頃二人は何をしているんだろう。
「イフ?立ち止まってどうした?」
「アルタロムさん、あれはなんなのです……?」
上を向いて、空に何かあるって言うのか?
なんだ?背中から翼を生やした人影が空中に立ってる?
あの姿……どこかで見たことがあるような気がする。
「……っ!?伏せろイフ!」
あの野郎、かざした手のひらから魔力の塊を地上に落とした!
回収できる距離でもない。何が起こるか分からないが、絶対にまずいやつだ!!
ドォォォォン!
空中にいたやつが落とした魔力は、物凄い音と光と共に街中に爆炎を撒き散らした。




