50話:死に物狂いの思い出
ぐったりと、部屋に入った途端寝ちまった。それが悪かったのか、嫌な夢を見た。
昔も昔、ガキの頃の夢。
人間なんてクソだ。
人間なんて、みんな居なくなっちまえばいいんだ。
六つでお袋が死んだ。
病気だったんだろ、飯もまともに食えねぇ汚ぇ場所だったから。
てめぇのために皆奪って殺していた。
力がねぇやつは頭使って騙し取ってた。
「俺はあんな奴らみたいにはなりたくない」なんていう甘い考えはすぐにどうでも良くなった。
「グルルルルル……」
「おいおい、なんつーもん持ってんだこのガキは。」
見た事のねぇ格好をしたヤツが現れた。ボロボロのポンチョに汚らしい様相。
なにか奪い取れねぇか、ナイフで襲いかかったんだ。
でもあのスラムにいる奴らに比べたら綺麗なもんだったな。
「ガァウ!」
「危ねぇだろ!?」
ありゃ痛かったな、腹にモロに蹴りを食らった。
それまで食らったどんな蹴りより痛かった。
大人と子供ってのは体格差だけでほとんど勝負が決まっちまうもんだ。
簡単にナイフは取られて、「飯にはありつけなかった」って思ったっけ。
「ほれ、なんも食ってねぇんだろ?」
俺を蹴った男……シークは俺に飯をくれた。
あの時の俺は差し出されたもんにはなんでも食い付いたけど、あれは特別美味かったな。
それ以来、シークは俺のことを旅に連れ出した。
「親が居ねぇガキをスラムにおいて置けなかった。」とか言ってたっけ、今思えばどんなお人好しだって話だな。
シークとの旅はすげぇ楽しかった。
見た事ねぇもんばっかで、食ったことねぇもんばっかで色んなもんが満たされてた。
特にあれは美味かったな。なんて名前だったっけ。
パスタだっけ……?
細けぇ肉が入ってて格別に美味かったな。
そういえば、あれが初めて食ったまともな料理だったか。
シークは色々食わせてくれたけど生の果物とか野菜ばっかりだったからなぁ。
たまに肉を焼いてくれたりしたけど。
旅をしているうちに色々な知識が嫌でも身についた。
金勘定の仕方、ナイフの使い方、飯の食い方、世界の歴史、女の口説き方。
最後の以外全部教わった通りにやれば完璧にできたから、シークはすげぇ優秀な先生だったと思う。
「なぁ、どうしてシークはいつもそんな変な呼吸してるんだ?」
「あ?これか?お前にも教えてやろうか!」
気術を教えてもらってからはすげぇ便利で、毎日使ってたら引かれたっけ。
あいつはずっと傍にいてくれたし、俺が大人になるまで傍にいるって約束もしてくれた。
「そうだなぁ、そうしたら名前がなかったら不便だな。」
「じゃあJr。」
「あ?Jrって、自分のガキにつける名前だぜ?」
「だって、俺、シークの子だもん。」
本心だったなぁ、ああ言った時シークすげぇ泣いてたっけ。
ダセェって思ってたなぁ。
今考えるとすげぇ恥ずいこと言ってたんだよな。
「バカ!そんな名前許せるわけねぇだろ!
ん、そういえばこの銅像の名前……いいな。よし、お前の名前はこの銅像から取ろう!不滅の炎鳥からよ!」
名前をつけてくれて、すげぇ嬉しかったのを今でも覚えている。
あいつが教えてくれたことは今でも役立つし、教えてくれた当時はすげぇ革新的なもんに感じた。
俺はもっとシークから教えて貰って、いつかシークに恩返ししてやるんだって、そう思っていた。
ある日、目を覚ますといつも一緒に寝てくれてたシークの姿がなかった。
「ねぇおばちゃん?シークは?」
「ん?朝出ていったけど、買い物にでも出たんじゃない?」
宿屋のおばちゃんは呑気にそう言ってた。
俺はその言葉を鵜呑みにして、シークに贈り物をしてやろうと小遣い握りしめて港町を一人で歩いていたっけ。
贈り物って言っても何を送ればいいかなんてわかんねぇから、色んな店に行って聞いて回った。
みんな優しくて聞けば色々教えてくれた。
特に優しく教えてくれたのは花屋の姉ちゃんだっけ、おかげで花には多少詳しくなった。
ガサツで雑なシークからは聞けない情報だったから面白いくらい聞き入ってたな。
最後に入った店は刃物の店だったっけ。
シークのナイフがもう刃こぼれしちまって修復できねぇって悩んでたのを思い出して、俺は色々と聞いて慎重に選んだ。
なんたって小遣いが少ねぇんだ。一本しか買えねぇし、 簡単に選んでガッカリされたくなかった。
喜んだ顔を見たかったんだよな。
シークがありがとうって言ってくれるのを想像しながら、買ったナイフ抱きしめて帰ったっけ。
そしたら宿屋の前にシークと見た事のねぇ男たちがいっぱい集まってた。
「おかえり、何してたんだよ?」
「ただいまシーク!あのね、これ買ってきたんだよ!」
早く撫でて貰いたくて俺はシークにナイフを差し出した。
なのに、シークは俺の買ったナイフを弾き飛ばした。
「こんなもん買ってきて、遅くなったのか?」
「あ、え? ごめんなさい……。」
シークのあんな顔は見たことがなかった。
怖くて悲しくて、俺は俯いて泣いちまったっけ。
いや!泣いてねぇな、そんなガキでもなかったような気がするわ。
「もういいか?」
「いいぜ、早くしろよ。」
シークと話してた男は俺のことを持ち上げて連れてこうとした。
なんでシークが助けてくれないのか分からなくて必死に助けを求めてたな。
何も出来なくて、ガキは力がなくて嫌だったし、今も嫌いだ。
シークは、あのスラムにいた大人たちと同じような目をしていた。
欲望にまみれた汚ぇ目だ。
それを見たら、「こいつはダメだ」って感じたよ。
俺を担いでいる男の指を噛みちぎったら叩き落とされたけど、その先には俺が買ったナイフが落ちてた。
すぐにナイフを拾ったよな。
躊躇ったさ、だけどキレた大人が突っ込んできたら怖くて刺すしかなかったよ。
俺より大柄な男がナイフが刺さっただけで簡単に倒れたのを見てたら、人は簡単に死ぬんだってことが分かった。
そしたら……簡単だよな、嫌いな奴は片っ端から殺していけばいい。
あと二人いた奴隷商の男達の一人はナイフをぶっ刺して、ナイフが抜けなくなったから、もう一人は首を噛みちぎった。
あと一人、シークはどっかに逃げ始めてたな。
俺の足じゃもう届かねえ、一か八か死体に刺さってたナイフを投げつけたら頭に突き刺さって脳味噌が地面に撒き散った。
すげぇ気持ち悪かったのに、あの時はどうしても楽しく感じてたな。
そのあとその街の自警団に捕まりかけるわ、色々と散々な目にはあったけど。
今は元気にやってるよ……
俺の目的を果たすために。




