50話:帰省に向けて
定期試験を終えると学園には夏季の長期間休暇が設けられる。
理由は経過報告。学園が騎士団に対して生徒たちの成績を報告して……
まぁ、要するに夏休みである。
一応学園の寮はこの期間も使用は可能だが、大概の生徒が帰省するため学園の中に生徒は残りにくい。
そんな場所に残ろうとするのは帰れない理由のある者だろう。
「義兄様!あのお洋服可愛らしくはありませんか!?」
「おいアル!あれ美味そうだぞ!!」
「わかった!わかったから違う方向に引っ張らないでくれ!!」
俺とフェルの二人で帰省するのに土産を買いに出ていたはずなんだけどな、なんでフロガが混じってるんですかね。
「フェルさん?お洋服もいいけれどお土産買いに来たんだよね?」
「そうですよ?ほら、この服を合わせてみてください!」
俺が着るお洋服はお土産に入るらしいです。
それにしても、フェルの私服のセンスはちょっと独特だな。
「なんかフェル楽しそうだな。」
「そうだね。見たことがないくらいに楽しそうだ。」
フェルはあの試合以降は人と距離を感じるような言動が減った。
むしろ、俺とフロガとイフの三人には距離が近いくらいだ。
「ところでその食べているのは美味しいの?」
「あ?食ってみるか?」
紙袋に入っている物を一つ分けてくれたが、なんだこれは……?串に着いた鳥の頭か?
「ギェェェェェ!」
「うわぁ!?」
「落とすなよ!」
生きてんのか!!?
なんかびっくりチキンみたいだな。待って、フロガは一体どうやって食べてるんだ?
「あーあ、勿体ねぇなぁ。」
頭から噛みちぎってるよ……。
さすがにそれは食えない。
「義兄様!次はこちらです!」
「もう疲れた……。」
このテンションでずっと連れ回されていれば一時間もせずにバテるわ。
「じゃあ休むか!」
「そうですね、少し急いでしまいました。」
こうやって振り回されることもあるけど、この二人は気持ちを尊重してくれるから甘えてしまうんだよな。
「近くに喫茶店を見つけたから、そこに行かないか?フロガは甘いものは好きか?」
「おう!俺は食えるもんならなんでも好きだぜ!?」
そうだと思う。
そして、言わずもがなフェルは甘いものは好きだ。反応は良好、リサーチしといて良かった。
確か場所はこの服屋を出てからそこまで離れていない、歩いてすぐの場所だ。
「ここだよ!」
喫茶店 白庵 今日は前に見た時に比べて人が少ないな。
「いらっしゃい!四名様でいいかしら?」
「え、いや三人なんですけど……」
うん?服の裾を引かれてる感じがする。
「ママ?」
ママじゃないです。
小さな男の子が俺の服の裾を引っ張ってる。四、五歳くらいかな。
周りに親御さんはいないし、迷子か。
「こんにちは。君はどこから来たのかな?」
「わかんない!」
「じゃあ、ママかパパは一緒じゃないの?」
「ママがね!迷子なの!」
迷子確定です。
「フェル、フロガ、俺はこの子の親御さんを探してくるよ。
すまないが、二人で喫茶店に入ってくれないか?」
「あ?一緒に探した方が早ぇんじゃねぇか?
なぁ?」
まぁ、本来ならそうなんだろうけど。
「びゃぁぁあ!」
「うぉ!?おい泣くなよ……。」
フロガのガタイと態度は子供には怖すぎる。
フェルを連れていくでもいいんだが、せっかくの休みを潰させる訳にも行かないし俺一人で行った方が良さそう。
「俺一人でも大丈夫だから。せっかくの休みなんだ、二人は楽しんでくれよ。」
「……わかりました。それではよろしくお願いします。」
フェルは物分かりが良くて助かる。
そうだ、フロガの世話はお前に任せた。
「じゃあ行ってくるね。
僕?もうあの怖いお兄さんはいないから大丈夫だよ。」
「ほんと?」
「あぁ本当さ!一緒に君のママを探そうね」
「うん!」
とっても素直でいい子だ。
この子のお母さんはすごく心配してんだろうな、すぐ見つけてあげないと。
「まずは、君が普段行くところを回ろうか。」
子共というのはそう遠いところには行けないものだ。
多分親とはぐれたのはこの辺だよな。
問題は親の方だ。 子供がいないことに慌てて変な方に行っていたりすると探すのに苦労する。
「よいしょ、見えるところにママはいる?」
「いない!」
「居ないかぁ。ママもきっと探してるよね、早く見つけてあげようね。」
「うん!」
こうやって抱えればこの子は高いところから母親を探せるし、親の方も子供が見えやすいはずだ。
こうしていれば多分すぐに親は見つかるよな。
なんて考えは甘かった。
「あれなに!?あれも!」
子供の体力恐るべしだな、何にでも興味を持ってすぐにその方へ向かおうとする。さっきから振り回されっぱなしだ。
「ちょっと待ってね、ママを探すんだよね。あれはママを見つけてからでもいいんじゃないかな?」
「うん!あ、あれは!?」
やはり子供だ話を聞かん!
いや、うん、そりゃそうなんだけど。この前の試験より体力を使うな……。
「アルタロムさん?」
「え、ホースにクリムさん……?」
なんだその仮面は。
顔を隠しているつもりなのか?いや、顔を隠しても目立ってどうする。
「二人は何してるんですか?」
「それはこちらの台詞です。その子は?」
「さっき喫茶店で話しかけられて、はぐれた母親を探しているそうなんです。」
「つまり迷子か。」
そんなド直球に言わんでもいいだろう。この子が ママが迷子 って言ったからわざと遠回しに言ったのに。
「休日なのに国民のために立派ですね。ねぇホース?手伝ってあげましょう。」
「そうですね。」
そう言うとホースはすぐに飛び上がり、民家の屋根を走り去ってしまった。
「この子のお母様はホースが見つけてきてくれます。
我々はこの子のお世話をしましょうか。」
なるほど、捜索はホースに任せて自分はこの子が下手に動かないように気を紛らわせてやると言うことか。
「それじゃあ、その仮面は外さないと怖いですよ。」
この子も仮面に脅えている。今にも泣きだしちゃいそうだ。
「えぇ、でも。」
「いいから外してください?」
認識阻害
「これで他の人からは認識されにくくなります。話しかければ話しかけた人には効果が無くなりますが。」
「そんな魔法が……!ありがとうございます!」
どうやら王女様はこの魔法を知らなかったらしい。知ってると便利なのに……。
それからクリムは子供と遊ぶことを提案してたので子供を地面に下ろしてみることにした。
子供も案外すぐにクリムに懐いて楽しそうにしている。
「あぁ、待ってください!?」
「おねぇちゃんおそいよ!」
ダメだこのポンコツ王女様。
ガッツリ子供に振り回されている。
「あんまり走ると危ないよ?」
「あ、捕まっちゃった!」
やはり抱えていた方がいいな。
クリムが合流してきてから俺の仕事が増えただけな気がする。
「す、すみませんアルタロムさん。
私じゃ、お役に立てないようで。」
正直にそんなことを言われたら、 はいそうですね なんて言えるわけないだろう。
「お腹空いた!」
そういえばもうお昼時か。あんなに動き回っていればお腹も減るよな。
「近くのどこかご飯を食べられるところに入ろう。
何か食べている時は落ち着いてくれるさ。」
「そうですね。」
「ねぇ僕、何か好きなご飯はある?」
「えっとね、あそこ!」
好きなご飯と尋ねたんだが建物を指さしたな。
あれ、あそこは食堂か……。
もしかしたら普段から行っている店なのかもしれないな。そしたらこの子についてなにか聞けるかも……。
「それじゃあ、あのお店に行こうか!」
「うん!」
とりあえず、こっちも腹ごしらえしながら情報収集といこう。
認識阻害について
無属性の魔法です。
魔法の効果は文字通り相手に認識されにくくなります。
類似した効果の魔法は階級が変わっても名前が変わらないことがあります。(身体強化とか治癒とか解毒とか。)
今回は認識されにくいだけで見られますし、話しかければ効果が切れますから下級ですね。上級にもなれば本当に居ないものとして扱われます。




