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2話:魔法

 パパに自由にさせてもらってから数ヶ月が経った。

 俺はあれから屋敷内で見つけた図書室に入り浸っていた。


 図書室まであるとはこの屋敷はやっぱりすごい大きい、すごいとこに生まれてしまったのかもしれない。


 政治に巻き込まれるのではないだろうか。貴族と思ったが、もしかするともっと上の階級のお家なのかもしれない。


「もう、アルったらこの本読めてるの?」


 図書室で本を広げているとエルが話しかけてきた。

 心配無用だ。約1ヶ月もの間本を読み聞かせてくれた事でそれなりに文字は読めるようになってきた。


 それにしてもこの本は興味深い。この世界に生きている種族やその種族の住んでいる環境について載っている。


人間族(にんげんぞく)

 七つの種族の内最も能力が低い。それなりに知能が高く、繁殖能力が高い。中央大陸に都市を作っている。

獣人族(じゅうじんぞく)

 魔獣の特徴を有した人間に近い種族。身体能力が高く、元となった魔獣の[固有魔法]を受け継いでいる。中央大陸で他種族と共存して生きている。

小人族(ドワーフぞく)

 七つの種族の内最も手先が器用と言われている。身体が小さく筋肉が発達している。大人の小人族(ドワーフ)でも人間族の子供と同じ程度の身長。中央大陸で鍛治をして生活している。

巨人族(きょじんぞく)

 七つの種族の内最も肉体が大きい。それ以外は人間族と大差はなく、多少知能が低い。火山島と呼ばれる島に村を作っており、他種族からは忌避されている。

妖精族(ようせいぞく)

 七つの種族の内最も魔力が高いが、代わりに身体能力が人間族にも劣っている。半透明の羽を生やしており、別名蠱虫族(インセクター)とも呼ばれている。森のある場所であればどこにでも集落を作っている。

天使族(てんしぞく)

 白い鳥のような翼を生やした人のような姿をしている。[固有魔法]は光を操り、傷や病気を癒し、天使以外の魔力を滅ぼす。天界にある城で神の意思を代行する。

魔人族(まじんぞく)

 ほか六つの種族に当てはまらない者を指す。多種多様な特徴をがあり、多くの魔人は魔王に従い魔大陸で生活をしている。


 異世界でよく聞く種族のオンパレードだった。


 何度か[固有魔法]とか書いてあったのも気になった。そういえば転生する時に不思議な声が[特殊魔法]とか言っていたが、それとは違うのだろうか。


 魔法と聞くと火や水を出したりするイメージがあるが、この本に書いてある内容やあの声が言っていたものはどうもそういったイメージが湧かない。


 魔法について知りたい、他に魔法について書いてある本はないか探してみようか。


「あれ、その本はもういいの?」


 エルが俺の行動に気づいて本を片してくれた。この体だと持ち上げるのも一苦労だからとても助かる。

 いっそ魔法に関する本も探してもらうのが良いだろうか。


「あぅ……ま、まう!」


 やはりちゃんと発音できない。当然か、まだ1歳にもならない赤ん坊だ。もう少し時間が経てばきっと話せるようになる。


「ま、ママって言った!」


 (おっと、なんと言っただろうか。)


どうやら俺が「ママ」とエルを呼んだと勘違いしたようだ。

 有無を言わさず抱き抱えられ、ぴょんぴょんと跳ね始めた。

 ものすごい勢いと速さで飛び上がるもんだから慣性で体が吹っ飛びそうだ。


 (ん?)


「まぅ!まぅ!」

「あれ、どうしたの?」


 俺の訴えに気づいてエルは俺の指を差す方を見てくれた。


「『魔法教本』……?これが欲しいの?」


 そうです。抱えてくれたおかげで魔法の本がある場所がわかって助かったよ、ママ。


「なんだ、この本のこと言っていたのね……。」


 あからさまに残念がっている。

 ごめんよ、近いうちに「お母さん」って呼ぶから許しておくれ。


 取り出してくれた『魔法教本』を読んでみたが、多分これは俺が思っていたものとは別のものかもしれない。


『魔法は詠唱を行い体内にある魔力に命令を下すことで発動する。

 発動する魔法には八つの属性が存在しており、「炎」「水」「風」「雷」「地」「空間」「生命」「無」である。』


 魔法を使うには詠唱が必要なのか。まぁ、戦わないなら関係は無いだろう。


 しかし、魔法を使って戦うとなれば戦士やら剣士に守ってもらわないと、一人では戦えないだろうな。


『魔法の詠唱は魔法の階級により変化する。

 階級が上がれば詠唱の量は多くなり、消費する魔力の量も多くなる。

 魔法の階級には「下級」「中級」「上級」「王級」が存在する。』


 よく聞く話だ。魔力はゲームでよく見るMPのようなものだろう。階級があれば詠唱と魔力の消費量が増えるのは当然な話だ。

 しかし、[固有魔法]や[特殊魔法]の記載がない。それらにもこの階級は反映されているのだろうか、それとも全く別のものとして区切られているのだろうか。


「ねぇ、アル?」


 エルが頬をつついてきた。

 悪戯っぽく笑っているが、一体何を考えている顔なのだろうか。


「見ててね?」


 エルが一息吸うと周りの空気が変わったような気がする。


「炎の神よ 我が命に応え、力をお貸しください 

 火球(ファイアボール)


 エルが詠唱を唱えると手のひらからソフトボール大の火の球が出現した。

 こんなもん見せられたら興奮しない男はいないだろう。


「はしゃいじゃって、どうしたのアル?」


 おっと、そんなに分かりやすかったのだろうか、エルは火の球を消してこちらをニコニコと見つめている。


 それにしても素晴らしい。どういう原理なのか、どういう感覚なのか興味が尽きない。

 魔法という存在があると分かれば使いたくなるのも男の性というものだろう。えっと、詠唱は確か……


「ほののかみよ、わがめにこたえ、ちかりゃをおかしくださ」

「アルには無理だよ?もっと大きくなったら教えてあげるから……え?」


 出ました。


 エルのに比べて大分小さいが、確かに火の球が出現した。暖かい。

 全身の血が手のひらに集まるような感覚になっていたが、これが魔力というものなのだろうか。


「■■■■!!

 来て!アルが!!」


 エルが慌てて出ていってしまった。なんだろう、変なことをしたのだろうか。

 いや、赤ん坊が本を読んで魔法を使うなんて、変なこと以外の何物でもないだろうな。


「そんなに慌てて、どうしたというのだ。」


 パパの登場。

 「見て見て魔法使ったよすごいでしょ」っていう雰囲気ではないな。

 あれ、子供の頃に魔法を使ったら異端児として牢屋に放り込まれるとか言わないよね。


「アルタロムが……なるほどな、これは一大事だな。」

「そうなの!」


 (何が一大事なの!?)


 本格的に怪しくなってきた、俺の異世界ライフはこれで終わりになってしまうのだろう……。さらば第二の人生。


「この歳で魔法を使えるなんて天才よ!すごいすごい!」


 どうやら純粋に喜んでいるようだ。ぴょんぴょんと跳ねてパパを困らせている。

 これなら牢屋に入れられるなんてことはなさそうだな。


 そういえば、俺の手のひらの火の球はいつになったら消えるのだろう。そろそろ熱いんだけど。



 制御の出来ない状態で魔法を使えば暴走する。

 無意識に魔力を供給し続けてしまった火球の勢いはどんどん強くなってしまう。

 自動的に制御される範囲を超えた時にどうなるか、想像に難く無い。



 「バンッ!」という激しい音と共に俺の腕に冷たい感覚が広がった。

 どうしたのだろうか、パパが慌てて近づいてきている。その後ろでエルが目を見開いている。なにか、変なことでも起こったのだろうか。


「生命の神よ 我の命に答え力を示せ 治癒(ヒール)


 何をしているんだろう、右手が暖かい。太陽の光に照らされているみたいだ。

 エルが慌てて近づいてくる。一体何があったんだ。


「大丈夫なのアル!?」


 耳がキーンとしていて何を言っているのか聞き取れない。右手を見ているみたいだ、一体俺の右手は今どんな状態になっているんだ……。


 「っ……!?」


 全身から血の気が引いた。

 右手全体が血だらけだ、手のひらの感覚はない。


 火の球が爆発したんだろう。


 ドクドクと脈打ってちゃんと見たくない。


 痛いが、それよりも熱さが勝る。


 頭の中で色々な言葉がぐるぐると回って思考がまとまらない。


 恐ろしい。


 前世でもこんな想いはしたことが無い。治るのか分からない、俺はこれからどうしたらいいのだろう。


 俺はただ泣きじゃくることしか出来なかった。


 結局、パパの魔法のおかげで手は元通りになった。二人は俺の手が完全に治ったことを確認すると安心したように大きく息を吐き、空を仰いだ。


 その後、エルは泣きながら俺を抱きしめ、パパからはしばらく魔法の本を読むことを禁止させられた。

 こんなことになったから魔法はしばらく使いたくない。

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