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1話:転生

 扉の先は真っ暗だった。自分以外の物は何も見えないし、自分がどこにいるのかも分からない。声も出せない。

 眠っているような、でも意識ははっきりしている。


《魂の存在を検知しました。最高神の加護を受け、��������。》


 けたたましくノイズが走った。

 しかし状況を掴めない。扉に吸い込まれたことはわかるが、俺はこの後一体どうなるのだろうか。このノイズは不安を煽ってくる。


《問題ありません。人型の知的生命体に転生します。》


 どうやら会話ができるようだ。転生するという話だが、俺はこれから記憶が無くなるのだろうか。


《加護の取得に失敗しました。復元を試みます。》


 大丈夫なのか、俺は本当に人型の知的生命体とやらになれるのだろうか。


《失敗しました。復元不可、削除します。》


 生まれる前から人生詰んだかもしれない。加護とやらはよく分からないが、受け取りができないようだ。


《代品の要求に成功しました。最高神の加護を受け、[特殊魔法]『詠唱破棄』と『完全記憶』を獲得しました。》


 代品などと言っているが理解不能だ。

 意味不明な文字の羅列に混乱しながらも、喋っているやつの話を聞くしかないのだろう。


 《加護の付与が終わりました。使命を全うしてください。》


 (ちょっと待てコノヤロウ。)


 理解不能なことを言われただけで俺は無理やり押し出されてしまった。


 (眩しい。)


 目が開く、しかしいきなり強烈な光が目の中に飛び込んで来て周りの状況を読み取りずらい。


「■■■■■■■■■■■■!■■■■■■■!」


 声が聞こえる、俺の周りには何人もいるようだ。

 知らない言葉で話していてよく聞き取れない。


 「■■■■、■■■■■■。」


 目が慣れてきて何となく周りの様子を読み取れるようになってきた。

 俺の周りには一、二……七人の人間がいるようだ。頭に何かをつけている人もいる。


 「■■、■■■■■■■。」


 驚いて俺は声を上げそうになった。

 いきなり大きな手が伸びて来て、俺の抵抗も虚しく抱き上げられてしまった。


「■■、■■■■■。」


 抱かれ心地は良い。暖かくて今すぐにでも眠ってしまいそうだ。

 しかし、俺を抱いてくれていた人は俺をすぐに元の場所に返した。というより譲渡された。俺は最初から誰かに抱かれていたようだ。


「■■■、■■■■■■■■■。」


 光に慣れて目が完全に見えるようになって、周りにいる人間たちの様子がはっきりとわかった。

 犬耳に猫耳、しっぽまで生やした執事服、メイド服の人達に囲まれている。間違いない、アニメとかゲームでよく見る獣人というやつだ。


 更に、俺を抱いている人を見て驚いた。


 高校生くらいの女の子だ。


 白衣一枚のみ羽織り、息を切らしている。それはまさに、分娩を終えたばかりの産婦のようだ。

 成人男性がこんな所にいたらおかしい。まずありえないだろう。


 つまり俺は転生したのだ。


 「■■、■■■■■■■■。」


 俺が色々と考え事をしていると、女の子が誰かに話しかけた。

 相変わらず意味は分からないが、女の子の視線の先を見るとイケメンがこっちを見ている。

 首元にモコモコとしたものがついているマントを着ていて、その装いは黒髪の黒ずくめであることを除けばヨーロッパの貴族のようだった。

 幸せそうに話をしている様子を見るとおそらくこの男が父親なのだろう。


 いや、ダメだろう。


 新皇歴169年。俺は「アルタロム」という名を受けて転生を果たした。



 生まれてから1年が経った。

 這って動くことができるようになった俺は転生してきたこの世界について調べることにした。

 調べるにしても資料がどこにあるのか分からない。まずは資料探しからだ。


 なんの説明もなく放り出されたせいでなんで記憶がある状態で転生したのか、そもそもこの状況が普通なのかすら分からない。


 それにしても、やたらと家が……というよりも屋敷が広い。部屋を一つ一つ探していたのでは時間がかかりすぎるな。


「おや、アルタロム様じゃないですか?」


 まずい、メイドに見つかってしまった。この声は、ナナだろうか。

 逃げようとすると触手で全身を包まれて捕まった。


「こんなとこにいては危ないじゃないですか。」


 半年くらいこの屋敷で言葉や常識は何となくわかるようになってきた。

 だが、この屋敷はおかしい。


 使用人の五人全員が普通の人間ではないのだ。


 犬耳や猫耳はもちろん、ナナのようにタコかイカみたいな触手の生えたメイドもいる。


「さ、お母様の元に帰りましょうねぇ。」


 抱えられたまま寝室の方まで運ばれてしまった。

 まぁ、赤ん坊が一人で広い屋敷を歩いていたらこれが普通の反応なんだろうけど。


「あ!どこに行っていたのアル!」


 俺をアルと呼んで心配しているのは母親のエル・ダレスだ。長くて艶のある金髪はよく目立つ。


「ナナ、いつもありがとうね。」

「いえいえ、子供といえば元気なものですからねぇ!」


 ナナとエルは同年代ということもあり、いつも仲が良さそうに話をしている。

 ナナは俺をエルに引き渡してその場を後にした。


「もう、一人で出歩いたら危ないでしょ?」


 エルは俺の頭を撫でて安心した様子を見せている。残念だが、今日は探索は打ち止めだな。


「もうおねんねしようね。」


 エルがベッドに乗せて寝かしつけてくれる。いつもの事だ。

 しかし、子守唄を歌われてもあんまり寝れない。


「もう、アルってばいつも寝てくれないよね。」


 そう言うとエルはゴソゴソと何かを取り出した。


「今日はご本を読んであげるね!」


 おぉ、半ば諦めていた本を読み聞かせてくれるとは。

 やはりお母さんは子供の考えていることがわかるのかな。中身は違うけど。


「えっとねぇ……


 エルが読み聞かせてくれたのは魔王と女勇者が恋に落ちるというような話だった。

 この世界ではこんな話を子供に読み聞かせるのだろうか、理解できるとは思えない。


 相変わらず暇だ。

 エルが本を読み聞かせてくれるようになってから1ヶ月も経っていないだろうが、何週間も同じ話をされれば飽きが来る。

 いい加減別の本を読んで欲しいと思うのは自然のことだろう。


「最近アルが活き活きしてないんだよね、なにか病気かな。」


 話し声が聞こえる、寝室の外からだ。

 エルと誰だろうか。


「見せて見ろ。」


 嘘でしょ、パパのようです。

 名前は分からない。どうしてもこの男の名前だけはノイズが走って聞き取れないのだ。


「エル、普段これには何をしている。」


 「これ」呼ばわりですかこのパパは。


「もう、アルって呼んであげなよ。普段は本を読んであげてるよ?」

「それだけか?」

「うん、抱っこしてもあんまり反応無いし、ベッドから出すとすぐにどこかに行っちゃうから出せないの。」


 実際、1歳にも満たない赤ん坊を一人で歩かせるなんて有り得ないだろう。エルの言っていることは正しいとは思う。


「……。」


 何故だろうか、パパが俺のことを見て黙ってる。無言で見つめられるのがいちばん怖い。


「エル、アルタロムは自由にさせろ。」

「えっ!?」


 何言っているんだこのパパは。

 俺からすれば助かるのだが、赤ん坊を自由にさせるなんて頭がおかしくなったのだろうか。


「この屋敷の中で死ぬことは無い。多少の怪我なら私やお前であれば治せるだろう。」

「だとしても怖いよ。」

「ベッドに寝かせたままのほうが成長に悪影響だろう。」


 なんか物騒な話しているんですが、怖くなるから死ぬとか言わないで欲しい。

 だが、「屋敷の中なら死なない」とか、「私やお前であれば治せる」というのは興味がある。

 世間知らずのパパなだけかもしれないけど、ここは異世界だ。そういった魔法が存在するのかもしれない。


「わかったよ、ちゃんと見ていてね?」

「あぁ。」


 エルに抱かれて床に降ろされた。これは自由にしても良いということなのだろうか。


「あんまり遠くに行ったり、隠れちゃダメだからね!」


 エルに釘を打たれたが、赤ん坊にそんなことを言ったところで意味が無いだろう。

 いや、赤ん坊を広い屋敷の中で自由にさせる時点で普通ではないのか。

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