102話:本気の殺意
魔力がどんどん吸われていく、呪詛の魔力を無効化しなければ。
腕から大量に血が出てる、影で縛って止血しなければ。
「……君ってさ、強いよね。」
白がいきなり語るように話し始めた。
いきなりなんの話をしているんだ?
「君は普段から相手を殺さないように魔力をセーブしている。
そのせいで君は余計に魔力を消費するようになっているんだ。」
「何が言いたいんだよ……。」
「それなのに君があの少年の体を乗っ取ったホムラを倒せたのは、殺すつもりがあったからだろ?
それに、君は機転が利く。
だから、あのちびっ子と協力したとはいえこの迷宮をほぼ魔法を使わずに攻略した。」
だから、こいつは何が言いたいんだよ。
「端的に言えば、君は厄介だった。
バカでお人好しのくせに全然死ななくて目障りだったさ。
……だから、君が這いつくばって、僕が君を殺せると思えば嬉しくてね。
そのおかげか、口が回ったみたいだよ。」
いつも通り、ただやかましいだけの不愉快の塊だった。
……しかし、機転が利くと思われていたのか。
「僕だって痛みはあるのに、馬鹿みたいに切られて……少しは僕の痛みはわかったかい?」
「知るか。」
「あっそ。それじゃあ、これ以上変なことされる前に殺しちゃうね。」
白が大鎌を構え始めた。
頭上に刃を持ってきて、確実に殺しに来ている構えだ。
早く、なにか対処方法を見つけなきゃ!
この侵食する魔法の……。
侵食……毒……蠍…… 。
あぁ、思いついた。
まるで連想ゲームみたいだな。
全くもって確証は無い。できるかどうかなんて五分も可能性があれば繰り上げて十分だろう。
白は初撃の俺の影の蠍を食らったはず。
体内で影を暴れさせたのに、その後に何事も無かったかのように振る舞っていた。
それは、影を無効化することに成功したからだ。
あの時白は何をしていた?
回答はシンプルだ。死の粒子を体内で暴れさせることで影と相殺させ続けていただけ。
当然、相当のダメージは負うだろうが、自身の治癒が可能な白には関係ない。
俺には治癒する手段なんてない。
とはいえ、死ぬよりはマシだ。
死んでたまるか。
影の蠍
自分に突きさせ!
「何をしようとしてるか知らないけど、やらせるわけないよねぇ!」
何とか尻尾を生成した様子を見てか、白は鎌を振り下ろし始めた。
「させっか!!」
俺の胸辺りからひょこっとカナメが顔を出し、両前足を前に出して必死に攻撃を止めようとする姿を見て白は一瞬攻撃を止めた。
「えっ、君は……」
その一瞬だけでいい。尻尾で牽制をするくらいの時間は稼げた。
死角から振り回された尻尾に遅れて気づいた白は大きく後ろに飛び退き、時間が出来た。
好機……!!
尻尾の鋒を自分の右腕の断面付近に突き刺す。
針はできるだけ細くすることで出血は抑えたが、刺さった感覚は注射みたいだ。
「……ぐっ、ぁあああ!!」
全身に影を流し込んで暴れさせるということがどれだけ痛いのか、身に染みてわかった。
痛みで気を緩めれば影の効力を失いそうだ。
ダメだ、耐えろ……耐えろ!
確実に死の粒子とは相殺していってるから!もう少し耐えてくれ!
「無効化しようとしても、そんな這いつくばってたら意味ないでしょ?」
また白の攻撃が来てる。
きっと今度はカナメでも対応しきれない。
自分でどうにかしなきゃ……!
「痛ッ……!? 」
白の影の中から影の狼が飛び出し、攻撃を繰り出している白の腕に噛み付いた。
俺はまだ何もしてないはずなのに……。
畳み掛けるように、天井のマーキングから鰐顎を咥えた影の狼が、白の首に刃をかけた。
「邪魔をするな!」
白は怒りのまま首に刃をかけている狼を破壊して地面に撒き散らした。
影の蠍
「うぐッ……!?」
狼が稼いだ時間はたった二秒。
されど、それは俺が動けるようになるには十分な時間だ。
尻尾は心臓にまで届いていない。
正直、これで殺せるなんて思ってないがな。
「なんでまだ諦めないのかなぁ!」
白は激情して腕に噛み付いた狼の首をもぎ取り、胸に刺さっている尻尾を切り裂いた。
しかし、激情しているというのは隙を晒すと同義。
こちらに攻撃をしてきたとして、避けるのは容易いことだ。
大鎌による振り払い攻撃は、スライディングして紙一重で避ける。
背後を取った。それだけじゃ白が即座に攻撃してくるのは目に見えてる。
ここで決めなきゃ先が見えない。
「魔力切れギリギリの今の君に何ができるって言うんだよ!」
もう、俺には触手一本を作る程度の魔力しか残ってない。
もう雉の外套による高速攻撃はできない。
だけど、それをこいつが知っているからこそ意味があるんだ。
「まさか、本当にこいつで最後の攻撃をするとは思わなかったよ!」
さっき破壊された狼が咥えていた、鰐顎を拾って攻撃を繰り出す。
「そんな間合いからじゃ当たるわけ……」
「いいや当たるさ。」
白は、間合いを見誤った。
鰐顎の切っ先が白の首を捉えた。
「なっ、なんで?この剣はさっき折れたはず……」
「知ってるか?人と違って、鰐の歯っていうのは何度も生え変わるんだよ!」
左手、しかも逆手で持っているから力が入らない!
でも切り落とせ!
根性論はあまり好きではないんだが、今は火事場の馬鹿力というのに頼るしかないんだ。
「あぁぁぁあ!!」
焦って更に大雑把になった白の攻撃は容易に避けられた上、更に距離を詰め、鰐顎の刃を押し込むことに成功した。
「ざっけんなよ、クソガキが!!」
ここまで距離を詰められたら大鎌を必要としなくなったらしい。
白は空いた手を使って俺の方を掴み、呪詛の魔法を使い始めた。
俺はもうほとんど魔力が残ってない。
生命力を吸われてすぐに死んでしまう。
鰐顎の形状じゃ引かなきゃ切れない。
でも抑えつけられてもう体は動かせない。
なら押し込むしかないが、押し込むには腕力が足りない。
いや、まだだ。まだどうにかする方法はある!!
「来いよ!影の狼!」
俺の呼びかけで、首のない狼が飛び出して鰐顎を更に押し込んだ。
行ける!このまま切り落とせる……!!
「……で?楽しめた?」
その声を聞いて、見えていた希望が闇に包まれる。
紙が捲れるような音が響き、白の発した言葉の意味を理解できてしまった。
「なんで魔術禁書が戻ってきてるんだよ……。」
回収した訳ではなかった。
だとすれば魔術禁書自体の特性か。
所有者の元へ戻るという。
抑えつけられているせいでなんの魔法か分からない。
影も、反魔法が使えない。
無明の裁き
発動したタイミングはすぐに分かった。
押し込まれていたはずの鰐顎の刃が筋肉によって無理やり止められたからだ。
動かなくなったとわかった時には、肩を手放され、腹を蹴り飛ばされていた。
影で身を覆っていた時には気が付かなかったが、身体強化をした状態での攻撃は決して生身で食らうようなものではない。
絶対に肋が折れた。というか、内蔵がいくつか破裂したと思う。
でも、まだなにか……
顔を上げると、もう既に大鎌を振り下ろしている白の姿が見えた。
今日何度目の走馬灯か……。
しかし、もう挽回の手は思い浮かばない。
魔力もない状態で、王級の魔法を連発できるこいつに勝てる気がしない。
思い出せることももうない。
ただゆっくりと、時間が過ぎて鎌が俺の体に刺さる瞬間を待っているだけだ。
”ドゴォォンッ”
だが、そうはならなかった。
ゆっくりと見えている俺の視界に収まらないほど速い何かが白を吹っ飛ばした。
「アル!!」
その幼そうな、高い声は聞き覚えがある。
最近は、ずっとそばにいて聞いていた声だ。
「……シャカ?」
腕は鳥のような翼と化し、足は鉤爪という異様な姿はしていたが、息を切らしたシャカが目の前に立っていた。
俺の姿を見てか、シャカは泣きそうな顔をしていた。
こんな顔は見たことがなかったな。
「ごめん、俺がもっと早く来ればこんなことにならなかったのに。」
そう言いながら、シャカは自分の、元に戻った手首を深く切り裂いて俺に流れた血を浴びせてきた。
「何……してんの?」
「いいから。もう、お前は寝てろ。」
「はぁ?」
”グキッ……”
首辺りから嫌な音を聞こえたような気がするが、その瞬間から意識が真っ暗な世界に吸い込まれて言った。
そして、目を覚ました時。
俺は知らない天井を眺めていた。
最後まで読んでいただきありがとうごさいます。
「わぁ、すごく唐突な展開だー」と思いながらもこれで三章は最終回です。
四章に期待してくれるようでしたらブックマークしてくれると嬉しいです。
三章見ての通り、すごくグダるので感想書いて色々言ってくれると凄く助かります……。




