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9話:悩み

※このお話の中で視点移動があります。

 最初はフェルから始まっています。

 初めて魔法を使ったが、その魔法は私の意識とは別に肥大化し破裂した。


「失敗は誰にでもあるよ!」


 お風呂の中で奥様はそうやって慰めてくれた。


「しかし、アタイにもそんなことはなかったんだがねぇ、狐っていうのはあまり情報がないからわかんないもんだ。」


 私の体を洗いながらナナはそう言ってくる。


「あんまり気にすることないんだよ?

 アルも前に同じような失敗してるけど、今日は大丈夫だったでしょ?

 フェルもすぐに慣れるよ!」

「アルタロム様がですか?」


 彼も失敗をしているのか。


「しかし、それが不思議なんですよねぇ……。」


 ナナが気になる話をし始めた。


「魔法っていうのは本来詠唱をすれば自動で発動するはずなんですよ。

 火球(ファイアボール)と水球(ウォーターボール)は本来発射までが発動の範囲なんです。

 だから失敗したって爆発するとは思えないんですよねぇ。」


 異質な存在であるからなのだろうか。

 私とあの男は純粋なこの世界の住人ではない。

 だから、世界の理とは違うことが起こっているのかもしれない。


「ということは、二人とも私たちより天才なのかもしれないね!」

「そうかもしれませんねぇ!」


 ケケッと笑う姿は楽しそうだ。

 だが、そんな単純な話ではないだろう。


「ところで、やっぱりアンタ細いねぇ。ちゃんと食べているのかい?」

「食べさせていただいております。」


 あまり執拗に触手を身体に絡めないで欲しい。石鹸のせいでヌルヌルとして気持ちが悪い。


「あんまりしつこくすると嫌われちゃうよ?」

「あら、そうなのかい? 悪かったねぇ。」

「いえ……。」


 別に体に絡めてくるだけなら構わないが……


「あっ、ちょっと待って!」


 まずい、拒否してしまった。


「おや、尻尾に触られるのは嫌だったかい?」

「その……はい。」


 今までない部位なったからか、尻尾を触られると過敏に反応してしまう。

 撫でられればゾワゾワするし、少しでも強く触られればすごく痛い。


「尻尾を嫌がるのって珍しいね?」

「そうなんですか……?」

「うん。キキとかは自分から尻尾のブラッシングとか頼んでくるよ?」


 キキ、確か馬の獣人……だったか?

 私たちより二つ年上の執事見習いが主人にそんなお願いをするのか。


「たしかに、アタイも触手を触られるのは嫌いじゃないねぇ。」


 どうやら私が変なようだ。そうだとしても尻尾を触られたくはない。


「フェルってなんだか不思議な時があるよね。」

「そうですねぇ。

 アルタロム様も、そういう所も可愛らしいとは思うのですが……今回の失敗もその違いとやらが関係しているんですかねぇ。」


 周りの人たちは何となく勘づいてはいる。当然だ、あんな目立つ行動ばかりしていればそうなる。

 ここは私が弁明した方がいいだろう。


「それこそ、神様に選ばれたのかもしれませんねぇ。」

「そういうのは天使じゃないの?」


 神様に選ばれた……?


 そういえば、私は閻魔の力がまだ使える。

 閻魔の力といえば、神通力(じんつうりき) か。

 今は人の思考までは読めないけど、魔力に干渉することは出来る……


「あ……。」

「どうしたの?」

「あ、いえ、なんでもありません。」


 暴発の理由がわかった。


 恐らく私は無意識的に 神通力(じんつうりき) を発動させてしまっていたんだ。

 神通力は魔力に干渉する。つまり、私は私の魔力を増幅させて魔法を発動させてしまったんだ。

 だから思っていたよりも強く出力されて暴発してしまったということだろう。


 ということは、あの男にもそういった能力が与えられたということか……?


「アルタロム様!?」


 隣の浴場から大きな声が響いた。


「え、何どうしたの!?」


 慌ててお風呂から上がると、風呂の外でアルタロムが布一枚被った状態でザザに抱えられていた。


「ザザ どうしたの!」

「奥様、それが……」


―――アルタロムが新たに覚悟を決めた時に戻る―――


「アルタロム様 そろそろ上がりますか?」

「うん、そうしようか。」


 そういえば、俺とフェルはどうして魔法を暴発させたのだろう。

 本には詠唱を唱えれば勝手に魔法が発動すると書いてあった。


 俺とフェルが普通と違うこと……。


 転生する前に言われたことを思い出せ。


 《 特殊魔法 『詠唱破棄』と『完全記憶』を獲得しました。》 だったか。


 一体どういう意味なのかは分からなかった。

 今も予想はできても、片方の 完全記憶 とやらは証明することは出来ない。

 ただ、俺の想像が正しければもう一方の 詠唱破棄 とは……。


「アルタロム様?」


 魔法を使った時の感覚を思い出せ。


 手のひらに魔力が集まっていく感覚。

 手のひらに伝わる水球の冷たさ。


 今だ!


「はぁっ!」


 一気に魔力が手のひらに集まっていく。

 発動した!詠唱しないでできた!


「うわぁ!?」


 だがすぐに破裂した。

 しかし発動できたんだ。これは進歩と言えるだろう!


「アルタロム様 大丈夫ですか!?」

「うん!だいじょう……ぶ?」


 あれ、クラクラする。


 あ、やばい。これ、意識を保てない。


―――そして現在に戻る―――


「ただの魔力切れで寝ちゃっただけだね。」

「そうですか……良かった。」

「良かったじゃないよ! お風呂の中でアルに魔法を使わせるなんて!」


 奥様に怒られてザザは慌てているが、おそらくザザが使わせた訳ではない。

 やはりこの男もなにかを与えられていた。そしてそれに気がついたのだろう。


 魔力切れを起こしたということは魔力消費の大きいものではあるのだろうが、それだけ強力な 特殊魔法なのだろう。


 目を覚ましたらこの男を解いただそう。

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