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「お前ら30分あったら何して過ごす?」
塩澤莉奈のクラスでは数学の授業が行われており、数学担当の大本という50代の男性教師が生徒たちに話を振った。
「課題します」「勉強します」
といった真面目な回答もあれば、スマホゲームやSNSやYouTubeなどと答える者もいる。サッカー部所属でみんなの中心にいることが多いお調子者の男子生徒が
「俺は……」
と言いかけると、大本先生は彼に
「お前の30分はエロ本読む時間だろうが!」
と返した。すると教室中に大爆笑をもたらしたけれど、莉奈のクラスだけ校舎が揺れるほどの勢いだったのだ。
「いや違いますって! エロ本とか読まないですし、俺だって真面目に勉強してますよ」
彼がすかさずそう言うと、大本先生は「本当か?」と半ば疑うように言った。それもさらに爆笑を招くことになる。
*
「莉奈、ケセラセラって知ってる?」
昼休み、莉奈は友人の原田なつきからこう話を振られた。なつきはiPhoneでケセラセラのインスタグラムのページを見せてくる。
「ケセラセラ? 私よくわかんないや……」
莉奈が答えると、なつきはケセラセラについていろいろ語った。キッチンカーでたこ焼きやたい焼きを売っていること。平塚直幸という男性店長がイケメンで有名なこと。そんな直幸が「キッチンカー王子」としてメディアでもてはやされていること……ーー。ケセラセラがどれほど有名かということを、なつきは10分近く莉奈に語っていたのだ。
「え、そうなんだ……。じゃあ今度行ってみようかな」
莉奈はなつきの話を聞き、ケセラセラに一度行ってみようと決意する。土曜日は部活が午前中で終わるので、ランチとしてたこ焼きを買いたいと考えた。