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7.たこ焼きを、作ります

私は調理が始まる前に、一旦トイレに行くことにした。


「水代節約ライフハック〜♪」


小さく歌いながら廊下を進む。

私の生活信条の一つ。トイレは絶対に家でしない。

友人宅、公共施設、学校、どこであれ外でする。

家賃、光熱費と並んで水道代は馬鹿にならない。

トイレから戻ってくると、リビングからは奇妙な機械音が聞こえてきた。

不思議に思って部屋に入ると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。

期待していたたこ焼き器の代わりに、テーブルの上には見たことのない機械がポツンと置かれていた。

それはおもちゃのロボットのような外観で、上部には材料投入口らしき穴があり、本体はフタが開閉できる構造になっている。

そしてその機械の下部の穴からは、きれいな球形のたこ焼きが次々と排出されていた。

桜井はスマホでSNSをチェックしながら、蒼真はノートパソコンを広げて仕事の続きをしているようだった。

そして真田は携帯ゲーム機に夢中になりながら、排出されたたこ焼きをスナックでもかじるみたいにダラダラと口に運んでいる。

私は思わず立ち尽くした。


「何、それ?」


私の声に、真田がゲームから目を離さず答える。


「何って、全自動たこ焼き器。さっき桜井に頼まれて作ったんだ」


桜井は機械の上部から足りなくなった小麦粉を追加しながら解説した。


「材料を上から入れてスイッチを押せば・・・ほら、たこ焼きが転がり出てくる。便利だろ?」

「いやいやいや、違うでしょ!タコパってのはさ、材料をホットプレートの穴に注いで、焼き上がる匂いに食欲を掻き立てられながら『まだかなぁ、でもそろそろ焦げるか?』って注意深くタイミングを見計らって、竹串で綺麗にクルンってひっくり返して、失敗やら成功やら笑い合うみたいな、素人の手作り過程を楽しむものじゃないの!?青春の1ページってそういう風に刻まれていくものでしょ!?友達と協力して作って、ヘタクソな形のたこ焼きを『お前のココロと同じだな』とか言いながら笑いあうみたいなさ!」


私は思わずヒステリック気味に気持ちを吐き出してしまった。

だが、真田は冷静に反論してきた。


「でもそれじゃ、均一に火が通りにくいし、形が崩れるかもだし、具材も偏りが出るんじゃないのかい?」


彼はゲームを一時停止して、初めて私の方をまともに見ながら言った。


「このマシンなら出来上がりの待ち時間もほぼないし、楽に作れるよ。みんなで食べるなら、品質の安定が一番じゃないか?」

「これだから効率厨はっ・・・・・・!」


私は眼前で拳を握りしめた。


「あのね、私は生産ラインで流れてきた糧食が食べたいんじゃない!そのためにタコパを開いたわけじゃないの!」

「主催者、俺だけどな?」


桜井がSNSの画面をスクロールしながら揚げ足を取ってくる。


「でも君、思い出云々よりタダかどうかで参加決めてなかった?」


私は正論すぎる真田の言葉を遮ると、機械のスイッチを切った。


「ほら、たこ焼き作るよ!」


まあでも、既に排出された分は処理しなきゃいけない。


「出来ちゃったのは仕方ない。あげる蒼真!」

「いや、俺は・・・・・・」


蒼真は困惑した表情で言いかけたが、既に私はたこ焼きの入った受け皿を彼の前に押しつけていた。


「せっかく来てくれたんだから、これくらい食べなよ。それに、ちょっとだけでも味見してよ。効率化された味がどうなのか気になるでしょ?」


蒼真は渋々皿を受け取り、1つずつ食べていった。

私は部屋の隅々まで目を凝らして古き良きたこ焼き器を探し始めた。


「桜井、あんた一般的なたこ焼き器は持ってるでしょ?」

「まあ、確かキッチンの下の棚にあったかも」

「あった!」


キッチンの奥の引き出しを開けたら、ほこりを被った使い古されたたこ焼き器が顔を覗かせた。


「なあ有村、そこまでマジにならなくても・・・・・・」


リビングに戻ると、桜井に呆れた言葉をかけられる。


「じゃあ、みんなで作ろう!真田、ホットプレートのセッティングよろしく!桜井は具材を切って!蒼真は・・・まあ、見てるだけでいいよ」


私は小麦粉、卵、だし汁を混ぜて生地を作り始めた。

なんとなく意地になっているのは、友達と料理を作るという経験に憧れを抱いていたというのもあるのだろうか。

しばらくして振り返ると、桜井が切ったタコの姿に愕然とした。

大きさがまちまちで、形も不揃い。

まるで爆弾が炸裂した後のような惨状だった。 


「下手くそすぎる!」


私は目頭を押さえながら叫んだ。

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