005 二戦目の相手もただの鳥でした
「うんうん、いい眺めだ!」
今のジャンプによって、俺は木々より数倍高い位置に浮遊していた。
上空からなら、周囲の様子がよく見える。
とはいえ、現時点ではまだ森しか見えない。
しかもこのままだとすぐに落下してしまうだろう。
ゆえに、
「【空歩】」
今度は地面ではなく大気を足場とすることで、前方に加速した。
空歩は【時空の狭間】で体術を鍛えている時に獲得した技術。
これさえあれば、どんな状況でも縦横無尽に駆け巡ることができて便利だ。
加えて、今の俺にとって嬉しい誤算が一つ存在していた。
「うおっ! やっぱり移動制限がないと、どこまでも加速できて気持ちいいな!」
【時空の狭間】にて、俺に与えられた空間には一定の広さしかなかった。
それゆえ、加速できる回数にも限界があったのだ。
だけどここは違う。
どこまでも広がる空に、終わりの見えない地平線。
1000年ぶりに味わう外の空気を堪能するように、俺は幾度となく大気を蹴り加速していった。
加速、加速、加速。
ものの1秒足らずで速度は音速を超え、それでも留まることなく加速していく。
ああ、なんて爽快感。このままどこまででも飛んでいきたいくらいだ!
(いや、落ち着け俺。わざわざ空を飛んでるのは上空から森の出口を見つけるため。もっと言うなら、人がいるであろう町を探すためだ)
俺はいったん加速を止め、左右をキョロキョロしながら空中を突き進んでいく。
移動すること約30秒。
右方に顔を向けてみると、ようやく目的の物が視界に飛び込んできた。
多くの城や居住が立ち並ぶ円形の街並みに、それを取り囲む巨大な城壁。
確かに人の営みを感じる町がそこには存在していた。
まず間違いなく、あそこに行けば誰か人に会えるだろう。
俺はまだ異世界に来たばかりで、こちらについてほとんど何も知らない。
アリスティアも教えてくれなかったし。
そのため、情報収集のためにもまずはあの町へ向かうべきだ
そんな風に、空を駆けながら考え事をしていたからだろうか。
――俺がそれに気付いたのは、取り返しのつかないタイミングになってからだった。
『グォォォオオオオオ!!!』
(ッ、なんだ!?)
突如として尋常ではない威圧感を感じた俺は、慌てて視線を前方に戻す。
するとほんの10メートルほど先に、視界を覆いつくす程の巨大な何かが存在していた。
大きすぎて全身を見ることはできない。
(しまった! 空中だから何もないだろう思って、つい前を確認せず加速してた! このままだと衝突してしまう――)
しかも、相手が大きすぎるせいで回避すら間に合わない。
いったいどうするべきか。
そう思った時には既に、俺の体は反射的に動いていた。
腰元にある剣を引き抜き、あえてもう一度加速を行う。
その勢いのまま、光速の剣閃を瞬かせた。
「――――シッ!」
その渾身の一撃によって、目の前の巨体は軽々と両断された。
そうして生まれた隙間を、俺は加速しながら悠々と潜り抜けていく。
どうやら上手くぶつからずに済んだようだ。
そのまま500メートルほど突き進んだタイミングで、俺はふと今の正体が何だったのか気になり、減速しながら振り返ってみた。
するとそこでは、巨大な羽を持つ生物が真っ二つになりながら地面に墜落し始めているのが見えた。
……うん、なるほど。
「羽があるってことは、ただの鳥だったのか」
その割にはかなりサイズが大きく、肌もやけにゴツゴツしていた気がするが……
まあ、異世界ならそういうこともあるんだろう。
俺に一撃でやられたことから考えても、モンスターじゃないだろうし。
「まあいいや。鳥なんかより、やっと見つけた町の方が大事だしな。さっそく向かってみるとするか」
俺は方向を変えると、先ほど見つけた町を目がけて颯爽と駆け出すのだった。
◇◆◇
一方。
ユーリがその場から立ち去った後、残された彼女たちは混乱の只中にあった。
「今のは、いったい……?」
「おい、何が起きたんだ!? 竜がいきなり真っ二つになったぞ!?」
「一瞬だけ、流星のようなものが見えた気はしたけど……」
そこにいたのは、美しい容姿を持つ三人の少女。
彼女たちがそんなリアクションを取ってしまうのは当然のことだった。
この大森林に出現した最強のSランク魔物――スカイドラゴン。
天竜とも称されるその魔物との戦闘中、彼女たちの目の前で突如としてスカイドラゴンが真っ二つになって墜落してきたからだ。
(わ、訳が分かりません。私は夢でも見ているのでしょうか?)
冒険者の町『グラントリー』唯一のSランクパーティー【晴天の四象】。
そのリーダーを務める金髪の美少女アリシア・フォン・スプリングは、この異次元の事象を整理するため、これまでの経緯を思い出すことにするのだった――
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