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025 善戦 【晴天の四象】Side

 【晴天の四象】と、SSランク魔物【魔人まじん】の戦いが幕を開ける。

 先に動いたのは【晴天の四象】だった。


「私とセレスが前に出ます! ティオとモニカは後ろから援護をお願いします!」


「よしっ、やってやろうじゃねえか!」


「わかったわ」


「了解」


 全員に指示を出した後、素早く前に駆けだすアリシアと、大剣を構えながらその後を追ってくるセレス。

 剣士2人が前衛に立ち、残り2人が援護するという、【晴天の四象】にとって黄金陣形ともいえる形だ。


 それに何より、この場には今()()()がいる。


「【浮遊魔術フローティング】、【身体強化ブーステッド】」


 モニカの付与魔術を受けたアリシアとセレスの体が、緑と白、2色の魔力によって包まれる。

 ――これで、この巨人と戦う条件は整った。


「いきますよ、セレス!」


「上等ッッッ!」


 人の形をとっている以上、魔人の弱点は恐らく心臓か頭のどちらか。

 そこを狙うにはモニカの【浮遊魔術】の力を借り、直接攻撃しに行くのが一番だ。


 これは以前のスカイドラゴン戦でも使った作戦だが、あの時はスカイドラゴンの知力がアリシアたちを一歩上回り、真っ先にモニカが落とされた。

 しかし――


『■■■■ッ!』


 魔人の注意は自身に迫ってくる2人にのみ向けられた。

 魔人はアリシアたちを追い払うべく、その場で巨腕を振るおうとするが――


「させないわ!」


「援護する」


『■■■■ッッッ!?!?!?』


 ティオの放った弓と、モニカの氷魔術が見事に命中。

 腕の勢いが一気に削がれる。


 そしてその隙を見逃す程、アリシアとセレスは甘くなかった。


「せいっ!」


「喰らいやがれッ!」


 アリシアが振るった剣からは複数の魔力斬撃が飛び、魔人の胸部を中心に次々と切り傷を与えていった。

 そこに畳み掛けるようにして、魔力と闘気によって過剰強化されたセレスが渾身の一振りを放つ。


 結果、敵の雄叫びにも負けない爆音を鳴らす程、重々しい圧倒的威力を孕んだ一撃が魔人の胸部に入った。


『■■■■ァァァァァァァァッ!!!』


 痛覚は残っているのか、これまで以上の音量で叫ぶ魔人。

 それを見て、セレスはにっと口元を緩めた。


「なんだ、ティオの言っていた通り、すげぇのはサイズと魔力量だけ。肝心な戦闘知能については大したことなさそうだな」


「……そうですね」


 同意の首肯を返しながらも、アリシアの胸中には一抹の不安があった。


(確かにセレスたちの言う通り、知能が優れているようには見えません。各能力値は飛びぬけているようですが、これならスカイドラゴンの方が何倍も厄介でした。もしかしてこれが、急激に魔人化を進めた弊害でしょうか?)


 もしそうであるなら、討伐できるだけのビジョンも見えてくる。

 時間はかかるが、先ほどと同じようにダメージを与えていけばいずれ魔人は消滅するだろう。


 そう確信できるからこそ、アリシアは余計に眉をひそめた。


(……本当に、それだけで倒せるのでしょうか? 私は何か、大切なことを見落としているのでは――)


 アリシアが疑問の答えを探ろうとしたその時、下から声が聞こえた。


「アリシア! まずいわ!」


 それはティオの声だった。

 普段は冷静な彼女とは裏腹に焦った様子。

 ただならぬ事態が起きていることを証明していた。


 アリシアは魔人に視線を向けたまま、そんな彼女に対応する。


「いったい何があったのですか!?」


「今、私の『気配感知』に魔物が引っかかったの! こっちに来ているわ!」


「っ、こんな時に……! どの方角からですか!?」


 魔人だけでも厄介だというのに、ここで新しい魔物の相手などしていられない。

 Bランク以上の魔物が1体でもくれば、一瞬で状況は悪くなるだろう。


 そう考えていたアリシアだったからこそ、続くティオの言葉に目を見開くことになった。


「――()()()からよ! この場所を取り囲むようにして、数百体の魔物が進行してきているの! しかもこの感じ、恐らくSランクも混ざってるわ!」


「なっ!?」


 あまりにも衝撃的な内容だった。

 もしそれが事実であれば、魔人の討伐はおろか撤退すら危うくなる。


 アリシアは一時的に魔力感知の精度を上げた。

 そして確かに、ティオの発言が正しかったことを理解する。

 今はまだ距離があるが、5分と経たないうちに魔物たちは到着するだろう。


 そうなれば敗北は必死。

 まさかこんな不幸な事態に陥るとは――


「いいえ、違いますね」


 そこでアリシアは首を横に振り、改めて真正面にいる魔人を見据える。


「これは決して偶然などではありません。あなたが魔物たちをここに呼んでいるのですね?」


『■■■■ゥゥゥゥ』


 質問の意図が理解できでもしたのが、唸り声で応じる魔人。

 その反応を見てアリシアは小さく舌を鳴らした。


(まずいですね、この状況で魔物を呼ばれると退路が封じられます。いえ、それだけならまだいい……)


 恐らく魔人は、先ほどのように魔物を吸収して自身を強化するつもりに違いない。

 ……SSランクからさらなる覚醒を遂げられれば、どれだけの怪物になるか想像もつかない。


 もしそうなった場合、冒険者の町『グラントリー』はおろか、この国全体が滅亡の危機に陥ってしまうだろう。

 一刻も早くこの敵を片付けなければ。


(しかしどうやって? ()()を出すにはタメが必要ですが、それだけの時間が稼げるとは到底思えません。何か他に手段は――)


 その時だった。

 アリシアの魔力感知が信じられないものを捉えた。




 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「――……は?」


 理解しがたい状況に、一瞬だけ思考が停止するアリシア。


「はあ!? 何よこれ!?」


 下ではアリシアと同様に、ティオが驚愕の声を上げていた。

 どうやら魔力感知の結果は間違いではなかったらしい。


 しかしなぜ、そんなことが起きる。

 まさか魔人はこれだけの距離が開いていてもなお、魔脈を通して魔物たちを吸収することができるのだろうか?


 仮にそうなら、事態は最悪程度の表現ではとてもすまなくなるが――


『■■ッ!? ■■■■ゥゥゥゥゥゥ!?!?!?』


 ――驚くべきか、滑稽に思うべきか。

 魔人はその場で顔を左右に振りながら、困惑を隠しきれないとばかりに声を漏らしていた。

 この状況に衝撃を受けているのは、敵方も同じようだ。


「……まったく意味が分かりません」


 とはいえ、最悪の事態は避けられた。

 それだけが分かっていればいい。


 すると、そんなアリシアを見てセレスが怪訝そうな表情を浮かべる。


「おいおいアリシア、いきなりどうしたんだ。下にいるティオと一緒に突然変な声を上げて。昨日食ったもんが当たりでもしたのか?」


「ち、違います! それより、今は絶好の機会。()()を使うので時間を稼いでくれませんか?」


「っ、もうか? 敵はまだ弱ってないぞ」


「それでもです。どうやらあまり猶予はなさそうですから」


 現在進行形で魔物たちは消滅し続けているが、これがいつまで続くボーナスタイムなのかは誰にもわからない。

 この奇跡に頼り切るよりは、博打であっても今すぐ行動に移すべきだとアリシアは考えた。


 アリシアはそのまま、下にいるティオとモニカにも呼び掛ける。


「ティオ、モニカ! アレを使います、準備を!」


「――っ、いいわ! その代わりしっかり決めなさいよ!」


「おっけー」


 アリシアの指示により、それぞれの行動方針が決まった。


 セレスはこれまでのように遊撃隊として時間を稼ぎつつ、隙を見つければ大火力の一撃をお見舞いする。

 ティオは一時的に気配感知を切り、セレスの援護に集中。

 そしてモニカとアリシアは自分たちの持つ有り余る魔力すべてを、アリシアの持つ長剣に注ぎ始めた。


 アリシアは長剣の魔力が膨れ上がるのを感じながら、改めて魔人を見る。



(さあ、覚悟してください。この一撃で全てを終わらせてみせます!)



 ◇◆◇



 ――その一方、数時間前。




「そうだ、森に行こう!」




 宿屋で目覚めたユーリは、そう叫んでいたのだった。

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◇カクヨム版


『世界最強の<剣神>は、自分を低級剣士だと思い込みながら無自覚に無双する』


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