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014 新人育成のウォルター

 Cランク冒険者歴約10年。

 通称、【新人育成のウォルター】。


 そんなウォルターが初めて冒険者を志したのは、まだ彼が幼かった時のこと。

 きっかけは、町に襲撃してきた魔物の群れをかっこよく倒していく冒険者を見て憧れたからという、ごくごくありふれた出来事だった。


 15歳の頃、冒険者になったウォルターは比較的才能に恵まれていたのか、Cランクまで一気に駆け上がることができた。

 しかし、そこで大きな壁にぶつかることとなる。

 やがて自分の限界を知った彼は、成長を諦めるようになった。


 だが、決してそこから何もしなかったわけではない。

 長年の冒険者生活で溜め込んだ知識や経験を、新人冒険者に余すことなく伝えることにしたのだ。

 そちらには十分な素質があったようで、指導した者の中からAランクに到達する冒険者が現れたりもした。

 そのことにはウォルターも誇らしさを感じていた。


 しかし。

 そんな出来事を経てもなお、ウォルターの中にはくすぶり続ける何かがあった。

 冒険者として最低限の実力を得たうえ、【新人育成のウォルター】と称される程の実績も残してきた。

 ただ、ずっと、どこか物足りなさを感じるのも事実だった。



 ――そんな中で出会った、ユーリという青年。

 魔力を持たず、さらには魔物との戦闘経験がないにもかかわらず冒険者になろうとしていることから、特殊な出自であることが窺えた。


 そんなユーリに対し、いつものようにサポートしようとウォルターは考えた。

 それは彼にとってほとんど習慣に近く、これまでも当たり前に行ってきたこと。

 しかしその果てでウォルターは、しばらく抱くことのなかった感情を思い出すこととなった。


 ユーリとケイオススライムの戦闘。

 それを見てウォルターは心の底から驚いた。


 それも当然。

 魔力がないにも関わらず、ケイオススライムを圧倒する実力。

 その境地に至るまで、はたしてどれだけの才能と研鑽が必要だっただろうか。

 ウォルターに分かるのは、ユーリが人の身で辿り着ける最高到達地点にいるという事実だけ――


 ――そう思っていたからこそ、続くユーリの言葉に、ウォルターはさらなる衝撃を受けることとなった。



「あの程度の敵を倒したくらいでいい気になるわけにはいかないからな。もっと強い相手にも勝てるよう、まだまだ努力しなくちゃ」


「――――ッ!」



 Sランク魔物(ケイオススライム)を相手にして()()()()()()と言ってしまうほどの豪胆さ――いや、そこまではまだ分かる。

 確かにユーリの実力は、そう断言できるだけの域に達していたからだ。


 ウォルターが衝撃を受けたのはその後の部分。

 既に人類の高みに君臨していながら、ユーリはさらなる強さを求めて努力しなくてはいけないと言ってのけたのだ。


 それを聞き、ウォルターは自らの愚かさを悟った。


(……そうだ。俺はここまで何をしていたんだ)


 自分の才能の限界を知ったから、他人を育成することに心血を注ぐ――

 聞こえはいいが、それはただ目の前の事実から逃げているだけ。

 初めから限界なんて存在しないにもかかわらず、自分でそう思い込んでいた。


 本当は、強くなるための努力にゴールなど存在しない。

 どれだけ苦しくても、愚かに思えても、手応えがなくても、ただひたすら突き進む以外にできることなど何もない。

 そのことをウォルターはユーリから学べた気がした。



「……そうだな。確かにお前の言う通りだ」



 だからこそ、ウォルターは自身に言い聞かせるようにそう呟いた。

 もう手遅れかもしれない。

 それでももう一度前に進むための意思を、彼は確かに手に入れるのだった。




 ――話はここで終わらない。


 その日を境に、ウォルターは一から自身を鍛え直すことにした。

 もう二度と同じ過ちを犯したくなかったからだ。


 そして、一度挫折を知ったうえで立ち上がった男は強かった。

 自身の持つ知識と経験を総動員することで、かつては乗り越えられなかった壁を少しずつ突破していった。


 その結果、ウォルターは10年以上の時をかけてAランクにまで昇格。

 そこからなんと、かつての教え子たちとパーティーを組み難関ダンジョンを攻略することになるのだが――


 それはまた、別の話である。

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◇カクヨム版


『世界最強の<剣神>は、自分を低級剣士だと思い込みながら無自覚に無双する』


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