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001 どうやら俺の魔力は0らしい

「ここは、いったい……?」


 ふと気づいた時、俺――出水いずみ 悠里ゆうり(18歳)は真っ白な空間にいた。

 戸惑っていると、突如として頭上から透き通るような声が降り注ぐ。


出水いずみ 悠里ゆうりさん。貴方は生前の行いが認められ、転生の権利が与えられることになりました」


「っ!」


 見上げると、そこには白銀の長髪に、この世のものとは思えない美貌を持つ少女が浮かんでいた。

 その美少女はゆっくりと、俺の前に舞い降りてくる。


「どうやら、突然のことで困惑しているようですね。ご安心ください、これから一つずつ説明していきましょう」


 そんな前置きの後、彼女は語り始めた。

 まず、彼女は異世界の女神であり、名をアリスティアというらしい。

 そして俺こと出水いずみ 悠里ゆうりは、トラックに轢かれそうになっている女の子を助けた際に命を落としてしまったとのことだった。


(ああ……そういえばそうだったな)


 言われて、ようやくその時のことを思い出す。

 そんな俺を見て、アリスティアはそのまま説明を続ける。

 彼女曰く、本来ならあの事故で亡くなるのは俺ではなく女の子だったらしい。


「つまり、あなたは定められた運命を自らの手で覆したのです」


「それで自分の命を落としたんだから、喜ぶに喜べないが……」


 少女は助けられたようなので、そこだけは唯一の救いだが……

 そんなことを考えていると、アリスティアは優しい笑みを浮かべて告げる。


「ご安心ください。偉業を成し遂げたあなたには転生の権利が与えられます」


「転生の権利?」


「はい。規則ルール上、地球とは異なる世界にはなってしまうのですが……」


 つまるところ、Web小説なんかでよくある異世界転生の機会を得られたらしい。

 当然断る理由はないため、俺は受け入れることにした。


「分かった。それで、転生先の異世界っていうのはどういう場所なんだ?」


 尋ねると、アリスティアは丁寧に説明してくれた。

 剣や魔法、そしてモンスターが存在する世界。異世界と聞いて真っ先にイメージした通りの、ファンタジー満載な世界のようだった。


「ちなみにユーリさんには、転生者特典としてスキルが三つ与えられることになっています」


「それは助かる。さすがに生身のままじゃ、異世界で生き抜くなんて無茶だからな」


「こちらがスキルの候補になります。この中からぜひ、好きなものを選んでいただければと」


 そういって、アリスティアは一冊の本を差し出してくる。

 まるでカタログギフトだ。


 とはいえ、この中からどれを選ぶかで俺の今後が決まる。

 俺は興奮したまま本を開いた。


 しかし――


「あれ? おかしいな、何も書かれてないぞ」


 本の中は白紙だった。

 想定していない自体に困惑する俺を見て、アリスティアも首を傾げる。


「本当ですか? そんなはずは……っ、まさか!」


 何かに思い至ったように、アリスティアがバッと立ち上がった。


「どうしたんだ?」


「一つだけ心当たりがありまして。ユーリさん、失礼いたします」


 そう告げた後、アリスティアは俺に両手を伸ばした。

 両手からは純白の光が生じ、俺の体を包み込む。

 数秒後、アリスティアは驚いた様子で声を上げた。


「うそ……魔力保有量が0!?」


「そんなに驚くほど珍しいのか?」


「は、はい。生まれた世界にかかわらず、本来なら生物はある程度の魔力を有しているものなのです。しかし、それがないとなると……」


 その後、アリスティアは幾つもの懸念点について教えてくれた。

 まず、スキルの発動には必ず魔力が必要らしい。

 魔力を持っていない俺に扱えるスキルは存在せず、そのため冊子も白紙だったのだとか。


 とはいえ、だ。

 せっかく転生するわけだから、その際に魔力を持っている体に作り替えることはできないのか? という当然の疑問を尋ねてみた。

 しかし転生とは、あくまで元の体を復活させたうえで異世界に送り込む儀式。

 元々の保有量が0であれば、転生後も必ず0になってしまうらしい。


 アリスティアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「申し訳ありません。せめてわずかでも魔力があれば、増やす手段はあったのですが……」


「最初から0の場合だと、どうすることもできないと?」


「はい。そうなってしまいます……」


「…………」


 ついさっきまでは、物語で見てきたようなチート能力で無双する異世界ライフが送れると思っていた。

 そのため正直なところかなりショックを受けているんだが、この反応を見るにどうしようもないんだろう。

 だったら、切り替えていくしかない。


「スキルの代わりに、何か武器をもらえたりはするのか?」


「もちろんそれは構いませんが……今のユーリさんでは、武器を手にしたところでスキルなしでは低級モンスターにも敵わないでしょう」


「うっ」


 元々分かっていたこととはいえ、直接言われたせいでグサッときた。

 とはいえ、そう落ち込んでばかりもいられない。

 アリスティアはあくまで、()()()()()と言った。


「それじゃあ追加で、異世界に転生する前に修行する時間をくれ」


「修行ですか?」


「ああ。せめて低級モンスターに問題なく勝てるくらいの力は欲しいからな」


「……そうですね、分かりました」


 俺の決意が伝わったのか、アリスティアが真剣な表情で頷く。


「では、【時空の狭間】を用意しましょう」


「時空の狭間……?」


「ユーリさんと同じように、転生前にスキルを試したいという方はいらっしゃいます。【時空の狭間】では外界と時間の流れが変わるため年を取らず、さらに内部でどれだけのダメージ・疲労があろうと瞬時に回復する仕組みになっているのです。そこでならユーリさんが納得いくまで鍛えることができるかと」


「そうか、助かるよ」


「いえ、これが私の役目ですから」


 方針は決まった。


 その後、アリスティアから一振りの剣をもらった。

 銀色の刀身が目立つ、いたって普通の剣だ。


「これが俺の武器か……」


「準備ができましたよ」


 興味津々で剣を眺めていると、いつの間にか目の前の空間がぐにゃりとゆがみ、別の次元に繋げられていた。

 どうやらこの先が俺専用の【時空の狭間】らしい。

 俺はゆっくりと、そのゆがみに向かう。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「はい。ユーリさんが仰っていたように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で連れ戻させていただきますね」


「ああ、頼む」


 具体的に低級モンスターがどれだけの強さなのかは分からないが、そこはアリスティアに任せておけばいいだろう。

 俺は改めて、【時空の狭間】の中に入るのだった。



 ◇◆◇



 ユーリが【時空の狭間】に向かった後。

 残されたアリスティアは、改めて申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「まさかユーリさんが魔力を少しも持っていなかったとは。せめて異世界では、安寧に暮らしてほしかったのですが……」


 そんなことを考えていると、突如として目の前の空間にゆがみが生じる。

 ユーリの身に何かイレギュラーがあったのかと考えるアリスティアだったが、すぐにそれが杞憂であることに気付いた。


「アリスティア様、ただいま戻りました」


 ゆがみから現れたのは、アリスティアの配下である一人の少女だった。

 少女はアリスティアの様子を見るや否や、不思議そうな表情を浮かべる。


「アリスティア様? お困りのようですが、何かございましたか?」


「実はですね……」


 アリスティアは配下にここまでの経緯を伝える。

 ユーリを異世界に転生しようとするも魔力がなかったこと。

 そのため、スキルの代わりに剣を渡すと共に、最低限の実力がつくまで【時空の狭間】に向かわせたこと。


 最後まで話を聞いた配下は、何かが引っかかったのかきょとんとしていた。


「【時空の狭間】ですか?」


「ええ。あなたもよく知っているでしょう?」


 転生者の魔力が0というのは今回が初めてだが、【時空の狭間】自体は以前から何度も活用している。

 だからこその確認だったが、少女は首を横に振った。


「いえ、そういうことではなくて。その転生者に魔力がないのでしたら、追跡マーキングはどうやって行うのですか?」


「……え?」


「ですから、【時空の狭間】は無限の空間の中に点在する極小の拠点エリア。その中から対象を見つけ出すには、魔力の痕跡を辿る以外に方法がないはずじゃ……」


「……あ、あああああああああああっ!?」


 ようやく合点がいったアリスティアは、清楚さと高貴さをどこかに放り出すかのように、叫びながら立ち上がった。

 魔力を持たない存在などこれまでに存在しなかったため、アリスティアはその懸念点を考慮していなかったのだ。

 そんな主の様子を見て、配下の少女の顔がどんどん青ざめていく。


「アリスティア様、まさか……」


「ど、どうしましょう。このままだと、ユーリさんが【時空の狭間】に一生囚われることに……」


 さらに厄介な点が一つ。

 【時空の狭間】は外界と時間の流れが異なる。

 基本的には外界より流れが早いことが多く、倍率に至っては確認されている限り最大で10000倍に達する。

 もしその場合なら、アリスティアがこうして話している間に数日以上経っている可能性すらある。


「こ、このままではいけません。一刻も早く、ユーリさんが向かった【時空の狭間】を見つけ出さなくては」


 このままだとユーリが最低限の力を得る以前に、無限の牢獄に囚われる苦しみによって魂が滅んでしまう。

 そのことを何より恐れたアリスティアは、無限の空間からユーリを探すことを決意した。



 ――そして、そんなアリスティアの焦りも知らず。

 【時空の狭間】にたどり着いたユーリは、さっそく修行を始めていたのだった。

新連載です!

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◇カクヨム版


『世界最強の<剣神>は、自分を低級剣士だと思い込みながら無自覚に無双する』


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― 新着の感想 ―
せめて帝級モンスターに問題なく勝てるくらいの力は欲しいからな(違
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