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第4話

 それから、さらに数時間後。


 スマホでおすすめの動画を見せあったり、仕事のグチを言い合ったりして時間をつぶしているうちに、時刻は十二時を過ぎていた。

 特に根拠はなかったけど、もしかして日が変わったら全部もとに戻ってここから出られるんじゃね? ……なんて期待もあったんだけど。やっぱり、状況は何も変わらず。

 このまま起きててもしょうがないってことで、今日はもう眠ることにした。


 相変わらず、店内はライトが点きっぱなしで明るいし、店内放送も流れっぱなし。

 多分スイッチをオフに出来ればいいんだろうけど、それらがあるのは入口がなくなっちゃったバックヤードの方っぽい。仕方ないから、私たちはトラベルコーナーのアイマスクと耳栓で、なんとか眠れそうな環境を作っていた。



「ミクさん……まだ、起きてます?」

 キャンプコーナーのウレタンマットとクッションを敷いて、小さめブランケットをクリップでくっつけたものを掛けただけの簡易ベッドに横になっている私たち。隣でマンガ風の目が描かれたアイマスクをつけているミクさんに、声をかけた。

 耳栓してるから聞こえないかもしれないし、別に、それでもいいと思ってた。でも……。

「……どったの?」

 やっぱりダイソーの耳栓は安物で、完璧じゃない。こっちの声はミクさんに届いていたみたいだし、ミクさんのつぶやきも、割とはっきり聞こえてきていた。


 

「私……今日、ここに閉じ込められて……こんなわけわかんない状況で、一番最初、すごいショックな気分だったんですけど……。ミクさんがいてくれたから、全然辛くなかったです……。ミクさんとなら、こんな変なダイソーでも、我慢できるっていうか……。むしろ友達と遊んでるみたいで、楽しかった……」

 普段なら言えないような恥ずかしいことも言えてしまうのは、今がこんな異常な状況だからかな。

「ミクさんがいてくれて、本当によかった……っていうか……。もしもミクさんがいなかったら、どうなってたか……。きっと不安でいっぱいになって、自暴自棄でどうにかなっちゃってたかも。私が今も平気でいられるのはミクさんのお陰、っていうか……。むしろミクさんって、私にとって、都合が良すぎるっていうか……」

「ん……」

「あ、あの……それで、ちょっと、思っちゃったんですけど……」

 少し冗談っぽく、ごまかすように続ける。

「私が今日、このダイソーに来たのって……ミクさんに会うためなんじゃないか、って……。実は今日の私、ダイソーに何かを買いに来てたはずなんですけど……それを忘れちゃってて……。でも、もしかしたらそれって、ミクさんだったんじゃないかって……。いや、ミクさんは売り物じゃないですけど……。でも、私はずっとミクさんみたいな人のことを探していて……だから、それを与えてくれるために、神様的な人がこの不思議ダイソーとミクさんを出してくれた……なーんて……」

「……」

 リアクションは返ってこない。

 イタすぎる言葉に、引いてるのか。それとも……。


「だから……だからだから……。そういうことを考え出すと、余計に不安になっちゃったんですけど……。さらに変なこと、考えちゃったんですけど…………」

 私は意を決して、言う。

「ミクさん、って……本当に、実在する人……ですよね? 私の妄想が作り出した、架空の人とかじゃなく……。私と同じように、普通に実在するん……ですよね?」

「……」

「あ、あの……ミクさん? ミ、ミク……さん?」


 アイマスクを外して、ミクさんの方を見てみる。

 すると、彼女はすでに眠ってしまったあとだったのか、毛布をかぶって胸を上下させているだけだった。やっぱり安物とはいえ、アイマスクと耳栓の効果はゼロじゃないみたいだ。私の言葉の最後の方は、ミクさんには届かなかったらしい。

 仕方ないので、私もまたアイマスクをつけて、その日は眠りについた。




 次の朝になっても、やっぱり私たちは不思議ダイソーに閉じ込められたままだった。でもまあ二人でバカやったりして、それなりに楽しく過ごすことが出来た。

 昨日の夜のことは、あれっきり。私もミクさんも、あのときの言葉を掘り返すことはなかった。


 そして……それから更に、同じような不思議な生活が数日続いたあと……。


 突然始まったのと同じように、このおかしな状況は突然終わってしまったのだった。


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