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タイトルいただいて書きました。

今の世界に飽きたので転生しますね?




「はぁ…………もういいや。飽きたわ」

「クラリス? どうしたんだ?」

()()()()()()


 私の隣で一緒に資材漁りをしていたアルフレッドが、怪訝な顔をして聞いてくるけど、それには答えずに手を振って家に帰った。


 家と言っても、野原にある雑木林の中に自分たちで作ったもの。廃材をつなぎ合わせた小屋とも呼べないものだけど、雨風はしのげるし、一応ベッドもある。普通に生きていけいてる。

 だけど、なんかもうゴミ溜めで生きるのも、ゴミを漁って資材を探すのも、嫌だなって思った。


 ベッドに身体を投げ出し、目を瞑る。


『神様』

『なんじゃい、またか?』

『はい。この世界も嫌です』

『転生できるのは、あと二回じゃぞ?』

『……わかってます』




 私には前世の記憶がある。

 そして、私は転生ができる。

 記憶はおぼろげだけど、一番最初の人生でとても悲惨な死に方をしたらしい。それで神様が五回の転生をプレゼントしてくれたっぽい。

 『ぽい』っていうのは、そこらへんの記憶も結構あやふやになってきているから。

 ただハッキリしているのは、今が三回目の転生なのと、生まれ変わっても、アルフレッドだけはいろんな形で必ず側にいる。見た目は一切変わらず、金髪碧眼。

 だから、まぁいいかなぁって。

 

 一回目は、貧しい農家に生まれた。一所懸命に働いていたのに、親から娼館に売られそうになったから。アルは隣の家のお兄ちゃん。


 二回目は、八番目のお姫様。母親が側妃だったから姉たちにいじめられて、もういいやってなった。アルは護衛の騎士。


 三回目の今、貧民街のゴミ溜めのような場所で生まれて、十四歳になっても、資材漁りをしてるだけ。アルは三歳下の弟分。


 なぜ必ずアルフレッドがいるのか、本当の理由は教えてもらえないけど、私が新しい世界でも不安にならないため、らしい。いなくても不安にならない気がするなんて、言えないけど。


『じゃあ、いくぞい?』

『はーい』




 綺麗な木目の天井。

 涙目で微笑む見知らぬ女の人と、男の人。

 出るのは泣き声のみ。


 四回目の転生が始まった。


 母親はいつもいろんな歌を聞かせてくれるから、すぐに寝落ちしちゃう。

 父親はいつも甘さや芳ばしさを纏っていて、抱き上げられると涎が垂れてしまう。

 赤ちゃんって不便。




「クラリスゥ、作業台に涎はやめてくれよぉ?」

「あぅぅ」


 父親からいつも凄くいい匂いがしているなと思っていたら、家業がパン屋さんだった。

 パンを作る作業って今まで見たことがなかった。捏ねて形成して、焼き上げて。ずっとずっと父親の作業を見続けていたら、また涎が垂れてきた。


「うふふ。この娘は本当にパンが大好きね」

「ははは! 将来有望だな!」

「だうぅぅ」


 もうすぐ一歳。

 早く普通の焼き立てパンが食べたい。

 今はミルクに浸したふにゃふにゃパンだから。




「クラリス、これ頼むな」

「はーい!」


 五歳になって、やっとお手伝いをさせてもらえるようになった。お客さん用のトレーを運んだり、空になった陳列用のカゴを裏に引いたりするだけだけど。

 報酬はもちろん、焼き立てふかふかのパン。


「パパのパン、世界一おいしい。幸せ」

「くぅぅぅ、俺はその言葉だけで五年は休み無しで働けるぜ!」

「もぉ、バカね」


 本当に美味しいの。

 本当に世界一だと思う。

 それに、転生してきた世界の中で、一番平和で幸せ。

 この世界なら、ずっと生きていたいな。


 だけど、ふと気付く。

 

 ――――アル、いないなぁ。


 いつも必ず近くにいたアルフレッドが今回はいない気がする。もしかしたら前回みたいに弟分で、凄く歳が離れているのかも?




 十歳になってもアルフレッドは現れなかった。

 近所の子供たちと時々遊んで聞き込みをしてるけど、『アルフレッド』っていう名前の子はいなかった。

 前世でアルなんていなくても……って思っていたけど、いざいなくなると不安になると知った。


 ――――どこにいるのよ、バカ。




 十三歳の春。

 ちょっと肌寒い朝。

 開店準備で、お店の前を掃いていたら、蹄の音が近付いてきた。


「…………っ! お店は、もう開店する……のかな?」

「はい? あ――――」


 見てすぐわかった。

 アルフレッドだ。

 馬に乗ったアル。

 金髪で、碧眼。

 髪は今までよりちょっと長めかな?

 服装は――――。


「騎士様?」

「あっ、はい。()()()()()()

「……はじめまして」


 あと十分で開店だし、準備はほとんど終わっているから、いいかな。と店内に招き入れた。


「おや? もうこんな時間か! いらっしゃいませ! いまね、これが焼き上がったところだよ」


 父親のこういうところが好き。すごく優しい。時間前だとか何にも言わない。笑顔で出迎えてくれる。


「パン・オ・ショコラですか。ぜひ」

「うちの娘がチョコは多い方がいい!と言ってね、他の店の三倍は入ってるよ」

「娘さんですか……」


 店の奥に掃除用具を片付けて手を洗っていたら、アルフレッドが私に視線を送って来ているのがわかった。

 無視して手を拭いていると、父親とアルフレッドが何やら楽しそうに話し始めた。


 名前はアルフレッドだとか、見習い騎士の期間を終えて、この都市に赴任してきたとか、今は十八歳なのだとか。

 

「昨日こちらに着きまして、始業前に町中を軽く見て回っていたんですよ」

「おっ! 新たな常連さんゲットかな?」

「ははは! ええ、もちろん。常連になります」


 今度のアルフレッドは調子がいい人みたい。

 にこにこしながらパンを選んで、会計に持ってきた。


「こんなに食べれるんですか? 三八〇〇マルスです」


 色々なパンを七個、パン・オ・ショコラは三個。

 そんなに入るの?


「朝と、昼に! ちゃんと、しっかり、味わって食べますから!」


 会計台を乗り越えるんじゃないかってくらい、前のめりになって答えられた。


 ――――近い近い近い。


 ちゃんと食べてくれるのなら文句はないけど。父親のパンは本当に美味しいから。

 

 その日から、アルフレッドは本当に毎日のように来るようになり、常連になった。




「お、おはよう。クラリス」

「……いらっしゃいませ」


 調子がいい人なはずのアルフレッドは、なぜか私の前だけ、急にモゴモゴした感じになる。

 朝一番にお店に入ってきて、パン・オ・ショコラを三個と他のパンを五〜七個を手早く選んで、会計台に来る。

 

「今日……少し暑いね?」

「そうですね。三〇五〇マルスです」

「っ……あ、はい」


 代金を受け取り、紙袋に入れたパンを渡していると、アルフレッドがもじもじとしだした。


「明日、お店、休み?」

「はい。お休みですよ」

「クラリス……予定ある?」


 出逢って一年近く経つのに、カタカタと話すアルフレッドに段々とイライラしてきた。

 なんで今世のアルフレッドは、こんなにもじもじとするんだろう?

 

「言いたいことは、ハッキリと言ってください!」

「あああああ、あしたっ、で…………」


 ――――で?

 

「デートしてくれませんか!?」


 ――――デート。


 予想はしていたし、好意はヒシヒシと伝わって来てたけど、『デート』。

 今年で十四歳だけど、十九歳のアルフレッドがデートに誘うってどうなの? この国では十六歳から結婚できるけど、どうなの?


「幼女趣味?」

「ちがっ! クラリスは昔っから――――っ!」


 やっぱり。

 なんとなくそうなんじゃないかって思ってた。

 店先で出逢ったときの慌てようとか。

 アルフレッドも前世覚えてたんだね?


「っあ……今のは気にしないで……」

「いいよ。デートしよ」

「え?」

「デートしないの?」

「するっ! してください!」


 アルフレッドが勢いよく頭を下げてから、キラキラとした笑顔で手を振りながら出て行ってしまった。

 待ち合わせの場所も時間も決めてないのに。


「くくくくくらりぃすぅ……でぇと、あるくんと、でぇぇぇとぉ!?」


 父親が厨房から店内を覗き込んで来ていた。柱にしがみついて……なんだか握り潰しそうな勢いがある。


「パパ! 娘の成長を喜びなさいっ!」

「だぁってぇ」


 母親が父親の耳を引っ張って厨房に連れて行ってくれた。

 両親の力関係は母親に軍配が上がっている。こういう両親が本当に好き。この家に生まれて本当に良かったなって思っている。




「おおおはよう!」

「……早すぎない?」


 嫌な予感がして起きてはいた。

 お店の開店時間である七時に。

 家の玄関に花束を抱えたアルフレッド。


「アルくん……ちょっと入りなさい」

「はっ、はい!」


 父親が持てる威厳を全力で表現しようとしていた。

 母親いわく、朝髭を剃らずにいたらしい。威厳ってソレ?と思わなくはないが、まぁ、この父親だからそんなものだろうなぁと、横に置いた。


 なぜかアルフレッドと横並びで座らされ、四人で朝ごはんを食べることになった。

 前日の残りのクロワッサンを横にスライスして開く。切り開いた面をバターを引いたフライパンでしっかりと焼いたあと、間にハムとチーズを挟んで、クロワッサンをフライパンに押し付けながら両面をしっかりと焼く。

 スクランブルエッグとチーズとレタスを挟んだものも作った。


「クラリス特製の、クロワッサンパニーニだ! 本当は家族以外は食べられないものなんだぞ! 味わって食べろよ!?」

「どこ目線なの……」


 父親の謎のドヤりを無視しつつ、アルフレッドの前にパニーニを出すと、なぜか両手を組み合わせて神に祈られた。


「……冷める前に食べなよ?」

「っ! はいっ!」

「あら。あらあらあら」


 母親が含み笑いをしながら、アルフレッドにスープを渡していた。




「行ってきます」

「暗くなる前に帰るんだぞ!?」

「はーい」


 さて、どこに行こう?

 静かなところがいいけど、草原とかって人がいないけど日陰がないから暑いんだよね。

 この時期で涼しいのは植物園だけど、あそこは人がいっぱいだし。


 そんなことで迷っていたら、アルフレッドが手を差し出して来た。


「なに?」

「っ…………繋がないか?」


 しょんぼりとした顔でそう聞いてきたアルフレッドを見て、前世の弟分のときの記憶が蘇ってきた。いつでも手を繋いで私と同じ場所に行きたがっていたっけ。


「いいよ」


 そう返事をすると、向日葵のような晴れやかな笑顔が咲いた。


「あ、向日葵畑に行こうか?」

「ん」


 ここからは歩いて十分くらいの超近場。

 向日葵畑の中には、散歩をしているおじぃちゃんやおばぁちゃん用の休憩所みたいなところがある。

 若者はほとんど来ないという穴場。

 なぜ知っているかというと、何種類かのパンに向日葵の種を使っていて、オーナーと顔見知りだから。


 畑に到着して、オーナーに挨拶したあと、向日葵畑の中をぶらぶら。向日葵と言っても、色んな種類がある。背が高くて一輪をドーンと咲かせるものや、背が低いもの、小さな花を沢山咲かせるもの。


「あそこよ」


 休憩所には誰もいなかった。

 おじぃちゃんたちは、この時期は基本的に早朝か夕方しか来ないから、たぶん誰もいないと思ったけど、正解だったらしい。


 テーブルを挟んだベンチに腰掛け、アルフレッドを見つめる。

 

「アル、いつから覚えてるの?」

「っ! 急に本題…………」

「時間が無駄じゃない」

「クラリスは変わらないな」


 アルフレッドは全部ハッキリと覚えてるらしい。

 私はわりとあやふやなところがあると言うと、少し残念そうにしていた。


「ねぇ……前回、私が転生したあと、アルフレッドはどうなったの? あの世界の私はどうなってるの?」

「………………っ、神様との約束で言えない」

「そっか。なんか、アルを巻き添えにしてるみたいなんだよね。ごめんね」

「えっ!? いや、あっ……」

「なに?」


 アルフレッドはキョドキョドとしながら何かを話そうとしては口を噤んで、また何かを話そうとしては口を噤んでの繰り返しをしていた。


「また神様?」

「……うん。ごめん」

「そっ。でも良かった。またアルが側にいてくれるなら、心強いや」


 一回目も、二回目も、三回目も、ずっと側にいてくれたから。今回は出逢うのがちょっと遅れたけど。

 アルフレッドいわく、予想外に外出しづらい家に生まれて、私を探しに出かけられなかったらしい。


「私が生まれた場所知ってたの?」

「っ…………あ、うん。聞いたから」

「ふーん」


 神様はアルフレッドには教えて、私には教えてくれないのか。


「俺が、クラリスを護れるようにって。教えてくれるんだ」

「……ふーん。ま、アルなんていなくても幸せだったけどね」


 つい、そう言ってしまった。

 そうしたら、アルフレッドの顔はみるみるうちに曇ってしまっていて。物凄く罪悪感が湧いてきてしまった。


「ごめん、言い過ぎた! 幸せだったのは本当だけど……その、今回はアルがいないなって…………私もちょっと探してたよ」


 本当は結構探してたけど。

 まさか、別の都市で歳上だなんて思ってもいなかった。


「前回は弟分で可愛かったけど、アルはやっぱり歳上の方が落ち着くなぁ」

「っ!」


 アルが顔を真赤にして喜んでいた。

 ふと、傍から見ると、少女に赤面する青年ってギリギリのラインだろうな、とか思ったのは内緒にしておこう。


「で、なんでそんなにキョドキョドしてるの?」

「……クラリスが、幸せそうに笑ってる姿が……眩しくて…………嬉しくて………………泣きそうになるんだ」

「えぇ?」


 良くわからない理由でキョドられていた。


「変なの」

「ん、ごめん」




 それからも毎日のようにアルはパンを買いに来た。

 騎士団では『パン屋で散財するアル』と有名らしい。

 大丈夫かと聞いたら、それだけじゃ絶対に破産しないから大丈夫だと胸を張られた。そりゃ騎士様のお給料だもの、大丈夫なんだろうけど。

 ちゃんと将来を考えてやり繰りしなよ? と言うと、なぜか肩を落とされた。


 デートも何度も繰り返した。

 父親がキーキーとうるさいから、ちゃんと清いお付き合い。

 キスくらいは良くない? とは思ったものの、アルフレッドもキーキー言っていた。『我慢する!』らしい。

 アルフレッドと父親って変なとこでそっくり。




 十五歳も終わりに差し掛かった時だった。

 都市内で急に流行り病が蔓延し、高熱でどんどんと人々が亡くなり始めた。

 一ヶ月もしないうちに人々は家から出られなくなってしまった。感染を防ぐために。

 この流行り病は、薬はあるものの、一回飲めば治るというものではなく、数日飲み続けなければならないもので、大きな病院や個人の医院関係なく品薄状態だった。


 ある日、アルフレッドが家を訪ねてきた。


「クラリス、王都まで行ってくる」

「え? 急にどうしたの?」

「薬の配送が野盗に狙われて滞っているんだ。王都には余裕があるから、騎士団が配送も担う。クラリス、帰ってくるまで待ってくれるよな?」

「そりゃあ、もちろんだけど。……気を付けてね?」

「ん!」


 アルフレッドは冬に差し掛かった今日も、向日葵のような笑顔で走り去っていった。

 王都まで、片道で約三日。往復では一週間掛かる。雪はまだ降っていないけど、馬で駆けるから物凄く寒いと思う。手袋やマフラーはちゃんと持ってるのかな、なんて心配していた。


 アルフレッドが出発して二日目だった。

 両親ともに朝から頭痛がすると言い、夕方には母親が高熱で倒れた。


「ママ……」

「クラリス、伝染るから、部屋にいなさい」

「でも!」

「「クラリス!」」


 父親も熱が出ている、お互いに世話をするから、と二人に諭され部屋に戻った。

 翌朝、病院に行ったけれど、一家庭に一人分の一日分しか渡せないと言われてしまった。

 本当に薬が底を尽きかけているらしい。


 家に帰り両親に説明し、一回分の薬を半分に割るか、一回分ずつ飲むかは自分で決めて欲しいと医者に投げられた事を話す。


「お医者様も大変だな」

「そう……ね……ゴホッ」

「俺はまだまだ平気だからママが飲みなさい」

「パパ……」

「ほら」


 ドア越しに聞こえる両親の会話に涙が溢れた。

 

 ――――アル、早く帰ってきてよ。


 


 アルフレッドが王都に向かって五日目の朝だった。

 ドア越しに食べれそうなものはあるかと話しかけても返事がなく、不審に思って部屋に行くと、母親が冷たくなって死んでいた。

 父親は、その横でほとんど意識がない状態だった。

 

「ママ……パパ…………?」

「クラ…………リス、部屋から…………」

 

 父親は最後まで私の心配をしながら、その日の夕方に永い眠りについた。

 

 なんで、こんなことになったの?

 幸せいっぱいだったのに。

 今までで一番楽しく過ごしていたのに。

 なんで神様はこんなにひどい人生しかくれないの?

 転生って特典じゃなかったの?


 ――――この世界も、もう嫌。


「クラリス!」


 また転生しよう、って両親の亡骸の横に寝そべった時だった。

 

「アル?」

「っ…………あ……そんな…………ごめん。間に合わなくて…………ごめんっ」


 金色の髪を振り乱して、空色の瞳に涙を浮かべたアルフレッド。その手には、薬の袋が握られていた。

 薬、持ってきてくれたんだ?

 

「うん、間に合わなかった。でも、ありがとう――――()()()()()()

「っ! 駄目だ!」


 目を瞑ろうとした瞬間に、ガクガクと体を揺すられてしまった。

 

「邪魔しないでよ」

「逃げるな!」

「――――っ!」


 アルフレッドにそう怒鳴られて、イラッとした。

 逃げてもいいじゃない。転生はあと一回出来るんだもん。今度こそ幸せいっぱいな人生が来るかもしれないのに。

 こんなにつらい人生なんて嫌だよ。


「パパさん、ママさんの娘だった事が嫌だったか!?」

「っ……」

「幸せだったんじゃないのか!?」

「っ……幸せだったよ…………でもこんなふうに死んじゃうなんて……やだよ…………なんで、私の人生はこんなにも嫌なことばっかりなの?」

「――――っ、ごめん」


 アルフレッドがギュッと抱きしめてきた。

 久しぶりに抱きしめられた。

 いつもそうしてくれていた母親も父親も冷たくなってしまっていて、もう二度と抱きしめてなんてもらえないんだと思うと、ボロボロと涙が零れ落ちた。


「なんっで……アルが、謝るの?」

「全部、俺のせいなんだ――――」

 



 ◆◆◆◆◆




 クラリスは、私の婚約者だった。

 侯爵家嫡男と、伯爵家の娘。

 仲睦まじく過ごして、翌年には結婚式を挙げる予定だった。


 クラリスとは毎週我が家の庭園で二人だけのお茶会をしている。クラリスは我が家の庭園が大のお気に入りだからだ。


 そんな日なのに、急用があると公爵家に呼ばれた。格上からの呼び出しには出向かざるを得ず、両親とともに出掛けることになった。

 事情を知らないクラリスが来たら、すぐに戻ることを伝え、もてなしておくようにと使用人たちに伝えていた。


 公爵家での用は、『伯爵家とは婚約破棄をし、公爵家と結び直さないか』という、とてつもなく不愉快な内容だった。

 流石の提案に両親も頑として首を縦に振ることなく、公爵家を後にした。

 公爵家のご令嬢が私の見た目に執心しているといった噂はちらりとあったが、まさかそれが本当で、こんなことになるとは思ってもいなかった。


 公爵家から戻る途中、馬車が野道で燃えており、人だかりができていた。

 その人だかりが言うに、野盗のような者たちに襲われて、火を掛けられたのだという。

 燃えている馬車はクラリスの家のものとそっくりだった。

 中の人はと恐る恐る聞くと、馬車の中で殺されていたと言われた。

 

 私は火の中に飛び込んだ。

 そこには、焼け爛れてしまっているが、私のクラリスがいた。抱きしめて、二度と誰にも奪わせないと誓った。




 そうして、気付いた時には、神様と名乗る老人が目の前にいた。


『お主の願いが煩くてのぉ。五回じゃ』

『は?』

『その娘に好きなタイミングで転生する能力を授ける。五回以内にその娘を不幸から救い出せ』


 不幸は、どんな形で現れるかわからないこと、クラリスには『嫌だ』とか、『面倒臭い』とか感じたら転生していいと伝えること、他にも色々な条件が与えられた。




 ◇◇◇◇◇




 アルフレッドから伝えられた内容に、ポカンとしてしまった。一番最初の人生。本当の私の人生は…………私、何も覚えていない。

 今までアルフレッドを巻き込んでると思っていたけれど、本当はアルフレッドに巻き込まれていた?

 でも、私のタイミングで転生してたから、やっぱりアルフレッドは巻き込まれてる?


「毎回、助けようとしてたんだ……いつも後手後手になってたけどっ、助けたかったんだ………………ごめん。巻き込んで、ごめん。つらい人生ばかりしかあげられなくて、ごめん」


 アルフレッドの腕に力が入って、抱きしめられているのが苦しくなった。

 ベシベシと腕を叩くと、少し緩めてくれた。


「クラリス、今はとてもつらいと思う。愛してる二人が亡くなったんだ」

「うん」

「二人をこのままにして、クラリスはまた違う世界に行ってしまうのか?」

「それは…………」

「二人をちゃんと寝かせてやろう?」

「……うん」




 アルフレッドと役場に届けを出して、葬儀をして、二人を埋葬した。

 

「クラリス、つらい思いばかりさせてごめん。でも、お願いだ。簡単にいなくならないで……どの人生のクラリスも大好きだったんだ。全部全部助けたかったんだ」

「……うん」

「パパさんとママさん、二人から受け継いだもの、大切なもの無くすのは惜しいもの、クラリスにはあるだろう?」

「…………うん」

「それを二人で守っていきたい」

「っ……うん」




 ◇◆◇◆◇




「いらっしゃいませー」

「よぉ、クラリスちゃん今朝も元気だな!」

「はい!」


 常連のおじさんと話していると、居住スペースの方からバタバタと足音が聞こえてきた。


「いってきます!」

「はいはい、いってらっしゃい」


 アルフレッドが頬にキスを落として、足早に出て行った。


「カァーッ、今日もラブラブだねぇ」

「うふふ。()()()()()()ですから」


 全部で五回分の人生の。

 今世は、最後の最後までちゃんと懸命に生きようと決めた。

 何があっても。

 

 ――――もう二度と、飽きたからって転生は、しない。




最後までお付き合いありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ

ブクマや評価などいただけましたら、作者が大喜びで小躍りします(*´艸`*)

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[一言] 治りかけが一番危ないから、養生してくださいね(*・ω・)ノ
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