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エピローグ

 目の前には、崩れ落ちた城と大聖堂。


 そして、腕の中のウェディングドレス姿の最愛の人。


「なんて! なんて馬鹿なことを! あなたを守るのが私の役目なのに!」


「……いいえ、いいえ。 いつも守られてばかりのわたくしが、最後にあなたを守ることができて本当によかった……。」


 美しい人は、にっこり微笑んで私の頬に触れた。


「愛しています、テディ様。 来世も、必ず……」


「あぁ……私も、私もです! シャーロット姫! 来世こそ、必ず……っ!」


 約束ですよ、と微笑んだ彼女は、血の気の引いた顔で私に微笑むと静かに目を閉じた。


 崩れていく瓦礫。


 襲い掛かる凶刃から彼女を守りつつ、城内にあるゲートに向かっていた私は、死角から飛び出してきたアンデッドが振り下ろしたその一撃を裂けることができなかった。


 と、おもった。


 その凶刃に倒れたのは、狙ったはずの私ではなく、私をかばって前に出たシャーロット姫だったのだ。


 慌てて抱きしめたが、ドレスを染める血は止まらない。


 守る、と。


 命を懸けて守ると誓ったのに。


 貴女に守られてしまった、貴女を死なせてしまった。


 悔しい。


 苦しい。


 悲しい。


 憎い。


 自分が、憎い!


 そんな自分が、貴女の前に現われるのは、許せない……。


 そして、貴女の亡骸を誰かの目にさらすことも許せない。


「本当に、愛していました……どうか、そうか貴女だけは幸せに。」


 彼女を抱きかかえ、生まれて初めてのキスをして……


 私は、彼女の体ごと、わが身を犠牲にこの国から魔物の兵を吹き飛ばし、緑で覆ったのだ。








 はらはらと、涙がたくさん落ちて止まらない。


 あぁ、そうだ、思い出した。


 思い出してしまった。


 あの日。


 あの時。


 俺は、目の前で、俺を守って死んでしまった姫に申し訳が立たなくて。


 苦しくて。


 辛くて。


 自分自身が許せなくて。


 もう貴女にそんなことをさせないように。


 そんな思いをさせないように。


 生まれ変わったら穏やかに暮らし、心から幸せになってもらいたくて。


 見守った。


 彼女が何度も生まれ変わり、幸せになったのを見届けて、自分の事をもう忘れてしまったと思えた頃。


 身勝手でもいい、もう、私にかかわらず、幸せになってほしいから、と。


 彼女が新たに母親の体に宿ったと分かった時、そこからはるか遠い異国の地で、彼女を覚えていれば必ず関わりたくなってしまうからと記憶も封じ込めて、元より反対の性別で生まれたんだ……。


「……なのになんで……かなぁ……」


 涙をぬぐい、ゆっくり深呼吸をして起き上がって時計を見ると、まだ日付も変わっていなかった。


 喉がかわいたな、と、とんとん、と、リビングに降りるとそこにはシャルルさんが座っていた。


 そういえば、晩御飯の後、ママに無理やり泊まらされたんだったな、と思いだす。


 声も駆けず、部屋に戻ろうかと思ったが、それでは駄目な気がした。


 そっと、リビングに入ると、彼はこちらを見て微笑んだ。


「……シャルル、さん?」


「テディ様……いえ、夏帆さん。 目が覚めたんですか?」


「はい。 シャルルさんも、ですか?」


「えぇ、はい。 ……気が高ぶっているんでしょう、眠れなくて……勝手にすみません。」


「いいえ。 ……えっと、お茶、飲みますか?」


「いただきます。」


 冷蔵庫から出した麦茶に氷を入れてソファの方に向かう。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 グラスを受け取ったシャルルさんは、にこっと笑ってくれた。


「隣に座ってもいいですか?」


「えぇ、もちろん。」


 そういうと、少し驚いた顔をしたシャルルさんは、にこっと笑ってくれた。


「えっと……」


 どう話していいかわからない私の頭を、シャルルさんが撫でてくれた。


「もしかして……思い出しましたか?」


 こくん、と、頷いた。


「……わたし、は……顔向け、出来なくて……逃げて……記憶も、それから……えっと……」


 にこっと笑った彼の言葉に、私は隠すこともできず息をのみ……ごめんなさい、と、言おうとした。


 言う事が出来なかったのは、彼の大きな腕の中にすっぽりと包み込まれていたからだ。


「シャルルさん?」


 ぎゅうぎゅうと、優しく抱きしめてくれた彼の腕はとても心地よかった。


 生きている。


 心臓の音がする。


 あたたかい体温を感じる。


「……守れなくて、逃げて、ごめんなさい。」


 するりと出た言葉に、耳元でくすくすと笑う声がした。


「大丈夫ですよ。 あなたが考えそうなことは、全部お見通しでした。 ずっとずっと守ってくれた、最後の瞬間まで守ってくれた。 わたくしが何度生まれ変わっても、テディ様は私を見守ってくれていた。

 わたくしも、貴方を守れる人間になりたかった。 だから、あの日、あの時、最後に貴方を守れたことが本当に誇らしかった……ただ、きっとあなたは自分を責め続けると思ったんです、わたくしをまもれなかった、と。 だから絶対に、貴方を見つけて私が幸せにしたかったんです。」


 腕の中から少しだけ話されると、視線が合った。


 あの日と変わらない、真摯で愛に溢れた、美しい瞳。


「あなたを守るために、貴方を守りたくて、わたくしは男に生まれました。 ふふ、大成功でしたね!」


 ちゅっと、触れるだけのキスをしたシャルルさんだけど。



 それ!


 わたし!


 ファーストキスです!!!



「あ……あの、え!? あ!」


 顔を真っ赤にして動転する私に、シャルルさんはもう一度キスをして微笑んだ。


「テディ様、いいえ、夏帆さん。 愛しています、永遠に貴女を愛し続け、わたくしが貴方を守ります。」








『愛しています、心から。 永遠にあなたを愛し続け、守り続けるとこの件に誓います。 結婚してくださいますか? シャーロット姫』






『「はい……。 はい、わた(く)しも、心から貴方を愛し続けます、永遠に。」』

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