パパママ、助けてぇ!
「さぁ、テディ様。 おうちにつきましたよ。」
イケメンゴリマッチョに抱っこされたまま、知らないおっさんに扉を空けられ、黒塗りのでっかい車から降りると、そこは確かに私のおうちの前だった。
少しホッとしたのもつかの間、普通の住宅街にこんな黒塗りのでかい車が止まり、しかもイケメンゴリマッチョのでかい男に抱っこされたまま、この家の娘が下りて来たことで、周囲に人が! 集まってる!
いやぁぁぁ! 目立ってるぅぅ!
「おろ、降してください!」
「そんなことをしたらテディ様、また逃げてしまわれるでしょう? 大丈夫、おうちまでお運びしますよ。」
「いえいえいえいえ! 大丈夫じゃないですぅ!」
当たり前だ! と思ったけれど、そんなことしたら絶対降ろしてもらえなくなるから、私は首を思いっきり振った。
「そんなことしないので! 大丈夫なので! とりあえず本当に恥ずかしいから降ろしてください!」
と、必死のお願いをしてみれば。
「そうですか? わかりました。」
いい笑顔で私を降ろしてくれたイケメンゴリマッチョさん。
ちょろい!
「そんなわけあるかぁぁぁ!」
ばぁん! と、両手でイケメンゴリマッチョさんの雄っぱいを押しのけ(いやもしかしたら腹筋かもしれない)うちの門を何とかこじ開けると、鞄から鍵を探すのも無理と判断し、叩くように何度もピンポンを押しまくり、扉を叩いて大声で助けを求めた。
「パパ! ママ! 助けてぇ!」
背後には、大変穏やかに、周囲に集まった人達に向け、笑顔を振りまき手を振りながら我が家の玄関に迫ってくるイケメンゴリマッチョを確認し、私はさらに大きな声で叫んだ。
「助けて! パパ! ママぁ!」
「まぁまぁ、どうしたの? そんなに大声出して。」
ガチャッ。
玄関のノブが動いた瞬間、のんびり開けられるのを待ってられなかった、私は思い切りドアノブを引いて中に入った。
「どうしたんだ? 大騒ぎして……。」
「パパぁ!」
私は靴を履いたまま、リビングの入り口に立っているパパのもとに走り、抱き着いた。
「やだ、靴はいたままよ、どうしたのそんなに怯えて。」
突然扉をあけられてキョトンとしているママを振り返って、私は叫ぶ。
「ママ! 早く扉閉めて! 来ちゃう! 誘拐犯が来ちゃうよぉ!!」
「「誘拐犯?」」
最近、テンプレート反抗期の私に抱き着かれてあっけにとられているパパと、玄関を開けたまま首を傾げているママに、私は半狂乱で叫ぶ。
「今! 今、変な外国人に追われてるの! ほら! そこにいるじゃん! 入ってきちゃうから早く……」
玄関の目の前まで迫っているイケメンゴリマッチョに恐怖を感じて私が叫んだ時、だった。
イケメンゴリマッチョとママは、お互い顔を見合わせて……破顔した。
「お母様! お久しぶりです! ようやくお会いすることが出来ましたわッ!」
「まぁ! まぁ! シャーロット! ようやく会えたわね! 会いたかったわ!」
「なんてことだ! 本当にシャーロットなのかい?!」
「お父様!」
「ようやく会えた! 我が最愛の娘よっ!」
ずるずるっと力が抜けて床に座り込んだ私の頭をなでたパパは、玄関先に立つ満面の笑みのイケメンゴリマッチョさんのもとに向かったって嬉しそうに笑ってる。
「……え?」
ごめんごめん、なんでそんなに馴染んで抱きしめあってんの?
「……パパ……? ママ?」
「何百年ぶりかな? 私たちの自慢の娘にまた会えるとは。 本当に今日はうれしい日だ。」
って言いながら微笑むパパと。
「本当に。 あの日からずっと心残りだったよ。 あれから大変だったでしょう? 守ってあげることが出来なくて本当にごめんなさいね。」
って本気で涙ぐむママ。
「いいえ、いいえ! お父さまとお母さま……お会いしたかった。 会えただけでわたくしはしあわせです!」
って超絶いい顔で微笑むイケメン。
ちょっと待って、まじ待って。
「パパ、ママ……なんでそんなに穏やかに話してんの!? そのイケメンゴリマッチョに、この可愛い娘が誘拐されそうになったんだよ?」
目の前に光景に混乱しつつ、そう叫んだ私に、お前は何を言ってるんだ? みたいな目を向けてくるのはやめて。
ちょっと、ちゃんと話聞いて。
「そもそもなんであんたがそんなにパパとママに馴染んでるのよ!」
「事前に連絡させていただいておりましたから。」
にっこり笑って言ってるし、うんうん頷いているけど、もう! 其処じゃないでしょ!?
「そうじゃなくて、なんで私の住所とか知ってるの? それにパパとママ、お父様とお母様って何!?」
パパとママから離れ、腰を抜かして座り込んでいる私の方へやってくると、しゃがんで靴を脱がしてくれたイケメンゴリマッチョ。
「申し上げたではありませんか、またお会いできてうれしい、と。」
「いや、何のことかわかりませんって言ったじゃないですかぁ!」
うわぁん! と泣き出した私の頭をなでなでしてくれたパパが、にっこり笑ってわたしに言った。
「まぁまぁ、玄関先じゃなんだから、奥で話そうじゃないか。 積もる話もあるんだから。」
「うわぁん! 全然意味がわからないよぉ!」
ぱたんと閉じた玄関に、私はもう一度、大きな声で泣きだした。