プロローグ
「セオドア様っ……テディ様! 来世もわたくしと共にと、おっしゃってくださったではありませんかっ!」
「うわぁぁぁん! 人違いですぅぅ!」
大地を揺るがすような轟音とともに、霞む山かと思うような土煙の残像を背負って、私を追いかけて走ってくるグリズリーの様な俊敏な巨体。
無理! 無理! 本当に無理!
50m10秒半くらいという小学校低学年平均速度しか出ない悲しい運動神経しか持ちえなかった私は、今、自己最高記録をたたき出せるくらい必死に走って逃げる。
もう、めっちゃ走る、本気で走る、死ぬ気で走る!
今までの人生の中でこんなに本気で走ったことはないってくらいに本気の全力疾走をしているのだけど……。
「お待ちくださいませ! テディ様!」
「違います、私そんな名前じゃありません、人違いですぅぅっ!」
心臓バクバク、脇腹激痛!
そんな体に鞭打ちながら、大きな声で叫んで逃げているのに、あぁぁぁぁ、めっちゃ近づいてきてるぅぅ!
半泣きの私だけど、熊相手に闘牛とかなんかしてた?! って勘違いするくらい地鳴りが違づいてくる。
「テディ様!」
「ひっ!」
ぐわっと私の腰にぐるっと、がっちり筋肉のついた両腕が巻き付いたかと思うと、私の体はぐわ~ん! と半回転の上、地面から一気に急浮上した。
「テディ様! ようやく捕まえましたわっ!」
今度はそのまま高い高いをされる。
あぁ、やめてください、やめてください!
脳みそが揺れてグラングラン、ついでに酸欠でガンガンします!
「……ぉえ……。」
止めて、酔っちゃう……。
このままではこの揺れと恐怖で、星屑エフェクト吐き出しちゃう、と両手で顔を覆ったのだが、指の間から見えたのは、ぶら下がる私の足と、そんなわたしを太い腕で高い高いしている、どこから湧いたのか、どう作ったらそうなるのかを教えていただきたいほどの、筋肉フルスロットルの超絶イケメン!
ガチイケメン!
テライケメン!
でもわたし
『先輩! ナイス上腕二頭筋です!』
とか
『ナイス! ナイスバルクッ! やっぱり土台が違います! 最高デスッ!』
って言う掛け声をかける趣味はないんですぅ!
好みのタイプは細マッチョイケメンなんです!
いや、でも、それより、待って、ちょっと待ってっ!
そんなに高い高いされたら、このイケメンに今日のイ・ケ・て・な・い・お・パ・ン・ツ・(お腹まですっぽり隠れる3枚1500円の小さいクマさん柄)が丸見えになっちゃうっ!
「やめ、やめてくださいぃぃ~。 降ろしてぇ~。」
右手で口を、左手で短い制服のスカートを抑えながら、私を力いっぱい高い高いしている、美術の教科書の古代ギリシアの彫刻のようなイケメンさんに叫びました。
「お願い、離してくださいっ! 私、テディって名前じゃありません、人違いですぅぅぅっ!!!」