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月の下で  作者: 梅木しぐれ
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7

「まさか、自分の葬式に出ることにはなるとは」

 俺は早々に焼香をして、隅の席でお坊さんのお経を聞き流しながら彼女の遺影を眺めていた。その写真はまるで、悩みなんてないような柔らかな笑みでこちらを見つめ返していた。それこそ自殺なんて考えている人には見えない。彼女は自分の写真を見て「もっと変顔してるやつがよかったな」とぼやきながら、お坊さんの周りをグルグル歩いたり、飾ってある花を見ていた。

 頼むからじっとしていてほしい。気になって仕方がない。そんな俺の願いが通じたのか、彼女は俺の横に戻ってきて聞いてもないのに遺族席に座る身内の紹介をしだした。動き回るよりましだけど、言葉を返せないのが心苦しいから静かにしてほしい。

 無事にお経が終わり、彼女の父親が喪主としての挨拶を始めたときチラリと隣にいる彼女を盗み見てみたが夜と同じく何を考えているかなんてわからなかった。

 「出棺する前にみんなで花を入れて最後のお別れを」とのことで、出席者は順番に白い花を片手に最後の別れの挨拶をしていった。俺の番も来て前の人に倣って、右手の白い花をそっと彼女の棺桶に入れた。昨日の夜は白い布が被さっていたが、今は白い布が取り払われていた。彼女の血の気がなくなった青白い顔。想像していたよりも普通の顔をしていた。本当にただ眠っているだけのように見えた。俺には死体愛好の趣味はないが、キスをしたら瞼が開きそうだ。瞼が開いている彼女は俺の後ろの遠くの壁に持たれて、こちらを暇そうに見ているけど。

全員が彼女との最後の挨拶を終えた。食器が割れる音とともに彼女の入った棺桶を乗せた車は火葬場へと走り出した。

 俺と幽霊の彼女は車が見えなくなるまで見送った。




 ただ、見送った。







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