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「お前、本当に死んだんだな」
「うん、そうみたい」
外にあったベンチに二人で並んで空を見上げた。そこには、いつかの夜のような大きくてきれいな月が佇んでいた。
「どうして、俺にしかお前が見えないんだろうな」
「さあね」
彼女の横顔を見ても何も読み取ることができなかった。
「そういえば、最初に俺の部屋でしゃべってた時のお嬢様口調、あれなに?」
「あー。あれは、ノリかな?」
「ノリかよ!」
もしかしたら、横に座っている彼女も自分が死んだことに対してパニックになっていたのかもしれない。
「そういえば、お前どうやって死んだんだ?」
「さあね」とさっきと同じ答えを返した彼女は、どうやら答える気がないらしい。正直、聞いた俺も素直に死因を教えられても、どんな反応していいかわからないから彼女の返答に胸をなでおろした。
俺は月を仰ぎ見ながら、ぼんやりと隣の彼女の生前を思い出してみた。
母親同士が中学時代の先輩後輩関係で、俺と彼女は同じ病院で生まれた。保育園から中学校まで一緒。同じクラスになったことは、九年間同じ学校に通っていたけど半分もなかった。
世間一般では俺と彼女の間柄を幼馴染というが、漫画や小説みたいに、あんなに仲良くなければ、俺も彼女も下の名前で呼び合うことはなかった、でも家族でいるときは苗字だとだれを呼んでいるかわからないから俺は彼女を「まき」と、彼女は俺のことを「ゆうくん」と呼び合った。あーそれと、小学校を卒業するまでは、よく二人だけで遊んだっけ。
俺と彼女が幼馴染と知っているやつはいない。登下校も分団だったし、学校でも特に話すこともなかったから関わることもなかった。なかったけど、それとなくお互いを確かに気にかけていた。
俺も彼女もお互いの連絡先を知らない。知らなくても親同士の仲がよくて家が隣なのと、気恥ずかしさから連絡先の交換なんてしなかった。俺と彼女は別の高校へ行き、大学で会うなんて物語みたいなことはなく、俺は大学を無事に卒業して社会の一員として働き、一人暮らしも始めた。
そして今日、幽霊の彼女が俺の部屋のベッドの端で座っていた。今は俺の隣に座っている。
「いい加減、中に戻ったら?」
「そうだな、だいぶ眠たくなってきたし」
手持ちのスマホで時間を確認してみたら、外に出てから二時間ぐらい経っていた。
中に戻り眠りに落ちるとき、話し声が聞こえた。