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「どうやら、私は死んでしまったらしいの」
「は?」
死んだ?それは生命の終わり。誰もがたどる結末であるけれど、目の前の彼女が死んでいる?今まさに、見て、聞いて、言葉を交わしている。なにより透けてないのに信じられるがはずがない。もとより俺には霊感なんてものはない。
「証拠は?」
「小学生みたいな返しね」と握りこぶしで口元を隠しながらクスクス笑う彼女を見て、昔の彼女もそうやって笑っていたなと思い出した。
「幽霊になって知ったんだけど、生きているものに触れないみたい」
「だから、佐藤君にも触れない」と俺の腕を掴もうとした彼女の手は俺の腕をすり抜けていった。
「——」
「これで信じてくれた?」
俺は彼女の問いに対して首を縦に動かしたが、正直まだ半信半疑だ。
なんとも言えない空気を壊すように俺のスマホが着信を知らせた。これ幸いと画面を見たら母からであった。彼女に背を向けて電話に出た。
「……もしもし、悠真?」
「そうだよ。で、どうしたの?」
母さんが、電話の向こうで息を吐きだしたのがわかった。
「驚くなというのは無理だろうけど、落ち着いて聞いてほしいの」
「うん?」
「真希ちゃんがね……その……亡くなったって……」
俺は後ろにいる彼女に振り返ると、彼女はつまらない顔をして「私のことか」と呟いて俺から目をそらした。
「母さんは、真希ちゃんのお母さんが心配だから通夜から出るけど、あんたはどうする?葬式だけでもいいよ」
「……いや、俺も通夜から出るよ」
「そう、わかったわ。じゃあ、またあとでね」
つーつーと無機質な音の冷たさが俺の耳に残った。
「後藤、お前……本当に死んでるのか……?」
「さっきから、そう言っているでしょ」
「……とにかく、お前の通夜と葬式に出るから」
「そう、私のためにありがとう」とニコリと笑う彼女。
「お前さ!もっと、なんかあるだろ!!なんで、自分が死んで、そんな!そんなに、笑えるんだよ!!」
怒鳴る俺に対して困ったような、つまらないような顔をして「死んだ実感がないから、かな」と答えた彼女の声は確かに震えていた。
俺は彼女の答えを無視して目の前の彼女の通夜に参加するべく準備を始めた。
「それにしても金曜日に死んだ私はタイミングがいいな!」
俺は無言で彼女の頭をグーで小突いてみたけど、その手はどこにもぶつかることはなかった。