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昔のことを思い出した。
それは小学生の時、幼馴染の女の子と夜に近所のお祭りへ行ったときのことだった。彼女は慣れない浴衣を着ていて、俺は半袖、半ズボンの小学生男児特有の格好をしていた。
見慣れない姿に、一夜限りの非日常に心が躍っていたことをよく覚えている。カラカラと彼女の下駄が音を奏でるたびに俺の心臓はその音に合わせて高鳴り、歩くのが遅い彼女に耐えられず腕を掴んで喧噪へと駆け出した。
俺の右手にはチョコバナナ、左手には彼女の右手。彼女の左手にはりんご飴、右手には俺の左手。お互い迷子にならないように手をつないで各々好きなものを食べて、遊んで、楽しい時間はあっという間で、高揚感とちょっと寂しい気持ちを背後に家へと歩き出した。
お互いに疲れていたのか、満足感からなのか無言で歩いていた。
俺の家は県営住宅の四階の405号室で、彼女は隣の406号室だ。母親同士も中学の時の先輩後輩という間らしく仲がいい。家が隣で母親同士が知り合いだから、俺と彼女が仲良くするのも当然のことだった。
無事に家まで戻ってきたが、名残惜しいからか俺も彼女も手を離すことも家へと入ることもしなかった。どちらから話し出したかは覚えていないが、さきほどの数時間の非日常を確かめるように忘れてしまわないように言葉交わした。
話題が途切れた時に、廊下に優しい光が溢れた。
俺は顔を空に向けると、そこには大きくきれいな月が佇んでいた。目をそらすことはできず食い入るように見る俺につられるように彼女も空を見上げた。
「今日の月は大きくて、すげーきれいだな」
この時の俺は純粋に、他意なんてなく思ったことを口にしただけだった。
「なぁ、お前もそう思うよな?」と同意を得たかった俺の言葉に彼女は、俺の腕を勢いよく振りほどき家へと入っていた。
取り残された俺はわけもわからず、月への感想も同意もくれなかった彼女に対して少しだけムッとしながら家へと入った。
これは俺が幼馴染の女の子に意図せず告白してしまった夜の記憶だ。