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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
97/156

97 一筋と収穫

 見限ったはずの触覚が未だに残留する。

 この僥倖を千尋は、まだ受け取れずにいる。

 そんな嬉しい混乱の渦中でも、ジオの発現能力の火焔は、変わらず呼吸をする千尋を仕留めんと、火玉の襲撃を繰り出し続ける。


「無事なのは、本当に解らないけど、何らかのからくりがあると考えるのが妥当、だよね——」


 千尋は火玉を心ここに在らずのままに躱しながら、その患部であったはずの左腕の自由の理屈がジオか、はたまた彼自身にあるのかを推し量り始める。ちなみにさきほどまで苦戦していた火玉を簡単に避けるようになったのは、千尋の慣れ、別件を考えなければならない余裕と冷静さが作用したことによる緊張の緩和、卓越した後天性の洞察力。更にはジオの発現能力の凋落がエネルギーの維持を優先し、例えるなら節約状態に転換したせいだ。幾つもの勝算要素が、千尋へと赴いている。


「——仮にこれがジオのおかげなんだとしたら、やはりこのまま消耗戦を演じるのが最善策。だけどこれがもし、僕の方だった場合に考えられるのは……この島に暮らす原因である誤投与は、人体強化まで施されるものか……もしくは、僕の能力ってこと……だよね」


 仮定として。前者なら衰微中とはいえ、ジオの発現能力の潜在性を考慮すると不確実性があり、時間が経過するにつれ火焔が校舎敷地内の何らかに引火する確率が高まり、このまま千尋が躱せ続ける確証も無く、そもそもジオの限界がどこにあるのかも不明だ。無能力が発現能力を抑制しようとする無謀な状況が継続するだけ。

 しかし後者だとしたら、千尋たちもあながち無能力とは形容出来ない領域に達するかも知れなくて、更に発現能力なんだとしたら、無能力対発現能力という不合理な対峙がようやくイーブンになる。発現能力には発現能力で制する、それがどうな効能であれ、千尋にとって間違いなく事態を好転させる材料になり得る。残るはその実証だけ。


 ついでに不明点もある。

 これが発現能力ならば、なぜ気持ち悪くならないのか。

 それらを踏まえた実験だ。


「うん。なら一つ、試してみようか……危険は重々承知しているけど……早く終わらせるヒントになるかもしれないっ」


 すると千尋はあろうことか、散々忌避を講じてきた轟々とした火玉へと駆けて行く。これはさっき被弾したみたいな、消去法でダメージが軽めで済みそうな方に突っ込むという合理的なものじゃなくて、ただ近来の行く末を決めるギャンブルのために、敢えてジオの発現能力を食らいに奔る。


「僕がやることは、火の玉を避けるけれど、完全には避けない。さっきと同様、左腕だけが当たるように、こうっ——」


 そう述べながら千尋は、ジオの火玉を悠々と避けたあとに、左腕のしなり良く思い切り、あえて灼熱の只中に晒す。

 それは一見すると自殺行為。策があるなら愚かだ。

 その全てを享受した上での結論が行動に表れる。


 確かめることは大きく分けて二つ。

 発現能力が別の発現能力に干渉したときに引き起こされる拒絶反応の有無。

 そしてまた左腕が無事であったときの根源の在処。

 どちらも人工島民の、みんなの未来に関わる事象。

 多少の危険を顧みても、知っていて損はない。


「——うっっ! これは拒絶なのか、ジオの能力のせいなのか、どっち……いやでも——」


 千尋の左腕が火中から引き抜かれる。

 地肌を貫通して筋肉まで焼かれた感覚はある。

 だけどそれが実体験なのか、先入観かは不明瞭。

 されどその左腕が健在か否か……そこが目下重要だ。


「——やっぱり大丈夫。なんともない……ことは精神的にないけど、これで火傷一つもないのは流石に変だ。だけど、理人や塔矢が言ってたような拒絶反応は、よく分からない……でも、思い掛けない収穫ではあるよね……」


 皮膚、筋肉、神経、関節可動域、目視出来る限りの外傷、全てが想定を遥かに上回る自由度を誇る。とても炎に晒された腕とは思えないくらいの穏健さ。はっきりとした拒絶反応は無く、これが発現能力かどうかまでは判別が付かないけれど、人智を凌駕した異能力には相違ないと結論付ける。


「もちろん嬉しい方だけど、こんなの完全に誤算だ……まさか僕にも、あのジオの能力を、早急に、どうにか出来る手段があるなんてね……」


 悠々と掌握した拳を眺めながら、千尋は呟く。

 二度の焼失の危機に耐性を見せた左腕を称賛するように。


「はぁ……はぁ……ううぅぁぁぁぉあっ!」

「と……悠長にしている場合じゃなかった。状況確認は済んだ。なら早くジオを暴走から切り離さないとだ……この不思議な火耐性があるなら、きっとなんとかなってくれる……いや、なってみせるっ」


 ジオの呻き声と共に、火焔の渦の不規則性が顕著になる。

 なのに各段と勢力を増して、余る火玉の混ざり合い、猛々しい炎柱となり、変わらず螺旋回転を続ける。これは千尋が前々から危惧し続けていた、発現能力の最期の足掻きの前兆。この現象を喩えるなら、矮星が粉々になる直前の最期の光明、超新星爆発……さしずめスーパーノヴァといったところだ。


 乱舞する光景を間近で直視し、千尋は戦意を高める。

 正しくは、らしくもない力業を実行する決意を固める。

 そっと吐く息を残して、清く澄んだ双眸は一筋の希みを観測しようとする。

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