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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
95/156

95 駆け引きと消耗戦

 攻撃は全方位どこにでも射出してくる。一応は炎の渦を形成する等速に法則として倣ってはいるため、実質上の制限が掛かった状態だが油断はならない。今回はたまたま、ひとしきり苑士郎への襲撃が集中したが、いつまた千尋を標的にするかと、自らに危機を煽る。


「ナイスだよ苑士郎、そのまま逃げ帰ってくれても良いからね」


 校舎角の一部の壁が欠け、ガラクタと成り果ててグラウンドに転がる最中、苑士郎当人の耳に届くかどうか分からないけど、千尋は殊勝に彼を讃える。

 千尋にとってせめてもの救いは、ジオの発現能力が手短な障害物ではなく他者の生体反応に過敏なこと。千尋と苑士郎の両方をいっぺんに襲う志向性が幸いにも今のところ無かったこと。そして肌身の感覚から、火焔の物量の温度が下降していったことが分かる……要するに弱体化していっている。


「外の寒さが戻って来てる。ジオの能力にも限界があるみたいだね……だけど、苑士郎が離れたことで、次に狙われるのは僕だ。考えろ、この場所で苑士郎と同じやり方は出来ないし、背を向けて逃げるか……いやダメだ。攻撃が届いた瞬間に終わりだし、逃げ延びたとしてもまた苑士郎に向かうかもしれないし、無差別攻撃に切り替わらない保証もない。これが弱まっているだけじゃなくて、最後の悪あがきをするための蓄積のケースだってある——」


 千尋は最適解の掘り探す。思考回路の過熱によるパンクを未然に防ぐための生理現象、また予測推移を、つらつらと述べて分散し冷却させる。身体の悪寒、精神の不安定、共感性の悲愴、両膝は武者震いで重心がブレて、呆気の果てのように顔面の口角が吊り上がって思わず微笑する。

 この状況を愉しんでいるわけじゃなくて、寧ろ(うと)んでいるまである。だけど停滞した全てを打開するには、彼自信が望む円満を一緒に、なにより一番錯乱しているジオを護らなきゃいけなくて、そのジオが千尋を一瞥したときに痛ましく思う感情を少しでも軽減するために、苦渋にも笑うしかない。


「——火流が今、少しズレた……そろそろ火の玉が、さっきみたいに浮かびそうだ。となると……うん、僕はジオと間合いを取りつつ、一つでも多く躱して時間を稼ぐか」


 千尋の言う通り、ジオを取り巻く火の渦の安定度が揺らぐ。発現能力の別途行使に変換する新たなエネルギー供給が、彼の防衛力を弛緩させる。さきほどまではここまで露骨な変換は生じなかったが、盛りあれば必衰は常、限度が顕著になった格好だ。


「ここからは消耗戦だよ、ジオ。能力が限界を迎えるか、僕が先に捕まって燃やされるか……どちらに転んでも、ジオは悪くない、これだけは先に言わせて」


 発現能力の火種は大気中の元素の助熱性と結び付いて肥大化させていく。苑士郎に対して降り注いだものよりも数が減少し、量よりも品質を重視される。巧妙に弱体化をカバーしていく。


 サイズを例えるなら避球に使うボールと同じくらいだ。

 それでいて最低でも個数が二十個ほどある。

 同時に射出されて全部を回避するのは、正直無理がある。

 対峙する千尋も、当然ながら気付いている。


「……せめてさっきみたいに、急所は回避し続けないとね」


 変わらずジオの意に反して、肥えた火玉が放たれる。

 だけど既に暴徒化の消耗が始まっていたせいか、微かに規格が大小して、放出のタイミングも二十個あまりが総じてバラつき、ジオから離別することで減速と不活性化を露わにしながら千尋目掛けて飛んで行く。


「……うんっ——」


 これは千尋にとって不幸中の救い。

 一度は見切った攻勢の下位互換。

 火の粉が肥大化したとはいえ、千尋の基礎身体能力には優れないとはいえ、命のせめぎ合いによる極限状態で研ぎ澄まされた交感神経を纏い警戒網を敷く千尋が、少なくとも初撃を被弾するわけがない。


「——この流れ……左っ! ふぅ……一発目はよし。でも、問題は追撃の方なんだけど……——」


 ジオの火の渦と、揺らめく波動から逆算し、千尋は左側へと横跳びをして無事に回避する。その後初撃の火玉は役割を見失い空中にて霧散し、無情にもストックを減らす。

 ここまでは千尋の想定通り。苑士郎のときのような一斉射撃じやなかったことに安堵しつつ、同時にジオの発現能力の二撃、三撃に視線を遣る。畏怖すべき対象は次弾からだ。


「——僕の駆け引きは、ここから」


 同時に火玉が放たれなかったのは確かに千尋にとって都合が良かった。だけどそれはあくまで、時間稼ぎの観点から抜き取った要素だ。初手被弾を免れたのは経験則と万全の回避体勢があったからであり、横跳びによる重心バランスの乱れ、追撃の到達地点を把握する脳内処理が遅れ、更に火玉の射出が等速一定ではなく不揃い。要は一回ずつ無事で居られる正答と捉えつつ、行動として実行までしなければならない。


 正解の道筋をひたすら脳内に描く。

 同時に、思考に身体を追い付かさせる膂力。

 これをジオの発現能力の限界まで交互に継続。

 回数を重ねるにつれ、不利に働きもする。

 そして千尋には逆襲のすべがない。

 発現能力の前に現状、打破が出来ない。

 勝算は限りなくゼロ、されど勇敢にも時間を奪う。

 その特異能力が力尽きるまで。

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