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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
94/156

94 二度はない

 光炎と共にヒートアップする。

 火焔の渦巻きは脈々と効力を増すばかり。

 まるで調節するネジが全開のまま破壊されてしまったかのようだ。


 更に危惧すべきは、これらが機械的な動作不良や故障によるものじゃなくて、ジオという一人の人間の所業であること。彼が発現能力に呑まれて自滅するケースや、最悪自らの炎で身体を焼失するケースだって考え得る。

 その中で目下。千尋と苑士郎が留意しなければならないのは、過剰な熱量によりジオの受容力の超過に起因する、逸れた火種共の対処。及び最悪のケースにも直結してしまうであろう、自傷行為にもなりかねない炎の早急な鎮静化だ。


「……おいおいこれはよぉ。完全に俺たちに敵意剥き出しじゃねぇかよ」

「ジオの意志ではない……とはいえ、ねぇ……ごめん苑士郎、前言撤回。一度避けただけじゃどうにもならないかも」


 溢れた火種が卵から孵化したように空中にて展開される。

 さきほど千尋を襲ったものと同様。されど今回は千尋と苑士郎の二人を確実に仕留めんとばかりに、目視では比喩的に無数なんて形容が適切なくらいの(おびただ)しい単一火の粉の(やじり)の集合体と化し、いつになるかと射出の機会を窺う。


「……すげぇな千尋、こんなのをさっき躱したのか?」

「いやいやまさか。僕はあのうちのたった一つを命からがら避けただけ……なのにこの量、これが現実じゃなくて、ビデオゲームとかならとっくに匙を投げてるよ……めちゃくちゃだってね」


 世の中には飛び火という単語がある。

 火の元のある場所では当たり前のように発生する、余分な燃焼で散り散りになって火種となり跳ね飛ぶ些細な現象だ。

 理屈だけを加味すれば、それと全く同義。

 つまりこれは、本質から切り離された燃え滓擬き。

 千尋と苑士郎は、燃え滾るジオの炎の末端に怯んでいる。


「はは……その感想は俺も同感だわ」

「正直、僕らじゃかなり絶望的な状況だよ」

「ああ、でも簡単に諦めてくれるなよ?」

「分かってる。お互いに生きて、また話そう……この感じ、そろそろ来そうだよ、準備して」

「おーけーっ!」


 千尋と苑士郎は唇をきつく結び、瞳孔を拡げる。

 視神経は乾燥もやむなしと鋭気を帯び、身体中の筋肉は凝り固まりの一部も許さないと緩やかに慣らす。


 つま先に重心が乗る。

 爪が突き刺さるくらいの掌握。

 骨関節が迫真を悟り萎縮。

 心拍はなんとか呼吸とシンクロ。

 心臓は熱く駆動し続けている。

 途絶えないように、諦観しないように。

 一縷しか伸びない生命線が無くなる、そのときまで。


「……苑士郎っ」

「俺からか……来るなら来やがれっ!」


 空中に展開された火種の一割ほどが不規則に、校舎曲がり角に立つ苑士郎目掛け、秒速がさっきよりも増して撃たれる。ただジオのコントロールを失っているせいで、千尋の想像よりも幾分バラけた射出となる。だけど紅蓮の火種たちの威力は申し分なく殺傷能力も十二分。


 すなわち触れても、掠めても、身体へのダメージは避けられない。ましてや急所に命中なんてしてしまったら、ありとあらゆる保証は無に還る。


「この数なら……なんとか耐えられるはずっ!」


 放たれた火種が苑士郎が入る地点に到達する刹那、苑士郎は地の利を最大限行使し、校舎越しの死角へと移動する。初撃をどうにかする手段として真っ先に思い付いた方法。さきほど千尋に囮役を申し出たきっかけである一時的な勝算も、この校舎そのものを盾に使う作戦を考案していたからだ。


 案の定。揺らめく火種は校舎隅に衝突し、その姿形を維持するエネルギーの亡失と連鎖して消える。それぞれが小粒で、持続性も皆無かつ耐熱性の建物の恩恵もあり火事には至らないが、豪速球で鉛玉を断続的に投げ付けるのと大差無い物理が、壁面を傷付け先端を欠落させる。


「おぉし………………危ねえ」


 安堵の言葉を吐く。

 火事にはならず、代わりに校舎の一部が破損。

 ここまでは苑士郎の思惑通りだ。

 博打要素もあって、学び舎を身代わりにすることに胸を痛めるが……命には変えられない。付け加えて既にトリノが発現能力の暴走により、別箇所の壁面に亀裂を生じさせているから、双方の異変を補完し合う偽装になるかもしれないと、進んで共犯にも乗り出す。


「意味はちょっと違うかもしれねえか、初見殺しを防ぐための手段……二度はねぇだろうがな」


 そう言って苑士郎は苦笑する。

 これは謂わば、猫騙しのような回避方法。

 学習し対策をされてしまえば終わりで、校舎がとめどない打撃に耐え得るはずもなくて、渦巻いた火焔の本体をぶつけられたとしたなら火災の危険性すらある。

 ぼやいた通り、二度はない。

 仮にあったとしても、二度以降は危険性が増し続ける。


 本来ならここから逃亡劇に方向転換し、千尋が寮に帰すだけの時間を稼ぐ算段だった。追い掛けて来ない場合はジオを煽ってみたり、二度目はないと知りながら二度目も堪える偶然に懸けて試みてみたり、最後は特攻作戦を敢行するつもりでいたが、肝心の千尋がジオとの対峙を選択してしまったために破断となる。その内幕にも、苑士郎の苦笑は似合う。


「次はおそらく、千尋を狙ってくるぜ。どうする?」


 苑士郎は校舎に背中を預ける。

 次なる飛び火のターゲットとなる、千尋を案じて。

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