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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
81/156

81 邪推と待機と最高の風景

 校門からも雄大に広がる海を眺望出来る。

 学校が坂の上にあるという地の利の恩恵といえるだろう。

 管制室に輸入港、木製ベンチが設置された憩いの場もはっきりとではないが、辛うじて見えなくもない。

 勾配を歩きやすくするための舗装道路に、冬季の訪れを告げるかのように僅かに褪せた草木の青々さ。それらを照らす謙虚な人工の太陽。陸海空の自然と人類の叡智が結集された、人工島でも指折りの景色。

 みんなにとっては飽きるくらい馴染みのあるものだ。

 だけど待ち惚けている間も、いつまでも退屈はしない。

 特に相手の考えを待つときには最適かもしれないと、千尋が再度顔を上げるまで、苑士郎は情景に思いを馳せる。


「苑士郎?」

「ん? 考えに整理ついたか?」

「んーところどころ? でも、ちょっと不自然な点はあるかな」

「ほお、不自然?」


 苑士郎が引っ掛かった単語だけ訊ね返すと、千尋は校舎とは逆側を見据える。それはさきほどまで苑士郎が眺めていた、静かな海に輸入港や管制室が建設されている方角だ。


「もし先生が管制課の人に呼ばれたとするよ。となると、ここからあそこにある輸入港や管制室の方まで行かないといけないよね?」

「ああ、そうなるだろうな。大抵はそこか、学校かのどちらかでしかない。事実校内にはいないわけで、必然的に管制室が妥当だな」

「うん。でも見て分かるように、学校から管制室までって坂道で、普通に遠くもあるんだよ」

「ああ……でもまあそれは、要請されたからっていうのがあるんじゃ——」

「——じゃあその要請は、どうやって行ったのかな?」


 千尋に指摘されて、苑士郎は眉を顰める。

 もちろん人工島民には極秘の連絡ツールはあり得る。

 二〇四二年現在、【ハルトマカロウ】の発見により急速に文明が築かれ、人為的に気象を生み出し操作する技術すら確立された時代だ。無線通信の発達で目視不可能レベルの超小型化送受信機くらい容易い。

 しかし政府管制課がその手段を講じるとすれば、信用問題の関係で同役職に就いた間柄だけである蓋然性が高い。水島が新規の現場役員である場合は考えられるが、それなら教師の経歴を前面に押し出す必要はそこまでなくて、現職の高校教師である情報を大々的に披露しなくてもいい。


 千尋と苑士郎の違和感は、水島が身の上話をあまり包み隠そうとする気兼ねが無かったところ。彼ら及び人工島で暮らすみんなは周知の事実だが、政府管制課は秘密主義だ。だから完全に否定は出来ないが、やや統一性に欠ける教鞭の執り方だったと回顧する。


「……これは苑士郎は知らないことだろうけど、僕とトリノは先生の案内役をしていたとき、管制課の厳し過ぎるチェック体制に文句を言ってたんだよ。もし連絡室みたいな機能を所持したとすれば、あんな発言を僕ならしないなと……」

「そうか、なんらかの連絡手段自体は可能なのか。いや、俺たちにはちょうど解りかねるが」


 人工島民には電話などの無線機に触れる機会が連絡室を除いてほとんどない。マイクやスピーカーなど、一般的な学校で古くから使われているものもあるが、料理などで使用する電子機器も一式レトロなものばかりで、そもそも本土の同年代と比較しても機械関連に著しく疎いと言える。なので一般的に普及していない要素がうっかり抜け落ちるのは仕方のないことだ。


「本土の家族とモニター越しの会話が可能だからね」

「でも、あんなでかいのをどうやって——」

「——僕らの基準に合わせて……うんん、制限しているかもしれない。だって電子レンジとか、ゲーム機とか、モニターとか、かなり細かく精巧に部品が組み合わさっているわけらしいし、不可能じゃなさそう」

「……そう言われれば」


 千尋たちの日々は、実際の年代に不相応な生活だ。

 そのことをまだ、大半の子たちは知らない。


「話を戻すけど、この道のりを往復すれば確実に午後の授業には遅れる。付け加えるなら初来島で道に迷うことだってあるよね? なのに僕らの中の誰にも、一言も無しに出掛けるとは思えないかな?」

「だから半分くらいって言ってたのか。でもそれならトリノに伝えようとして、急にどっか行っちまって伝え損ねたってこともあるんじゃないか?」

「確かに、苑士郎の言うことも一理あるよ。そうだね……じゃあ僕と同じ方向を見て欲しい」

「ん? ああ、いいけどよ」


 千尋の言葉に倣って、苑士郎は隣に肩を並べる。

 苑士郎がこれで何になるんだと一瞥したところで、再び千尋を口を開く。


「ここは見晴らしが凄くいい……」

「おう、同感だ」

「もし先生が管制課に呼ばれて戻るとしたら、ここから分かるよね?」

「ああ……え?」


 思わず生返事をしてしまう。

 千尋と苑士郎。二人の視点は同じなのに、反映される視野が異なっていたからだ。


「管制室が輸入港から戻れば独自の連絡手段がある、もしくは政府管制課の人間。それ以外の場合は、トリノを……授業よりも生徒を取る真っ直ぐな教師、または僕らでも政府管制課でもない勢力が関与したときかな。他にももっと平和的な考慮の余地はあるし、手広過ぎるかもしれなけど」

「いやいや……」

「色々考えたけど、ここに居るのが得策ってことだね。寒かったら僕一人でも大丈夫だけど、苑士郎はどうする?」

「は……はははっ、なるほどな。気長に待とうっつーことか。なら俺もここで残って見届けるわ。千尋の話し相手くらいには、なってやれるだろうからな」

「そっか。うん、心強いよ」


 千尋の思考はあくまで推測の域に留まる。

 けれど述べたうちのどれかに該当してもしなくても、この前提で校門付近で待機するなら、自然豊かな景色よりも退屈するわけがないと苑士郎は腕を伸ばしながら笑う。

 相変わらず、冷涼の外気が肌を撫でる。

 身体を縮小するように、二人は他愛のない言葉を交わす。

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