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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
80/156

80 少し寒い門前での会話

 無風の真昼に殺伐とした寒気。

 指先から神経を伝うように可動域がやや鈍る。

 防衛反応で身体が縮こまり、固まっているせいだ。

 それが今日の島内における低温度。

 あまり長時間の外出はしたくないところだ。


「トリノ……朝から寒がってたし、思い返せばちょっと元気が無かった気がするし、体調を崩してたって言ってたし、僕が気付くべきだった……今日に限定すれば、一緒にいる時間がもっとも長かったんだから」


 墨花とトリノは校門を抜け、寮へと並んで歩いて行く。

 そんな後ろ姿を、遠巻きに千尋は切なく見送る。

 幾つか言葉を交わし合っているけど、お互いにまだ不安が残るのか、未だ殊勝な面影になる。


「あれ? ああ……理人と塔矢は少し離れてるのかな。まあ、言い訳くらいならどうにでもなるし、二人で協力してる方が有効に働くって、墨花も判断したみたいだね」


 千尋は敢えて具体的な言及はしていないけど、理人と塔矢の二人は理人による【無色透明化】の発現能力により、その姿形を隠しての行動。昼食時には墨花が能力行使の禁止を告げていたが、その当時の呑気な状況とは一変し、トリノのサポートへの処置を優先する。臨機応変といえる。


「いやー、やっぱ外はさみーな」

「あっ、おかえり苑士郎——」


 両手をポケットに突っ込んだまま、寒さを紛らわそうと擦る所作を増やす苑士郎が、校門付近で立ち尽くしていた千尋の元へと戻る。墨花により学校内での待機を命じられた二人は、千尋が校門の門番役を、苑士郎が校舎内を捜索をする役割に分担して宛てがっていた。どちらも教師である水島を見つけ、トリノの体調不良による早退を伝えるためだ。


「——それで、先生は?」

「校舎の中にはいないみたいだな。教室にも戻ってない」

「うん。この時間に教室にいないということは、やっぱり外だろうね」

「そうだな。一応みんなには野暮用が出来たってことにして誤魔化したけど、良かったか? 多分自習時間になると思うが……」

「良いと思うよ、不用意な混乱を招くよりは。いつも通りの進行だしね」


 既に午後の授業時間すらも超過する。

 水島の姿は、千尋たちが三階の置き物部屋から眺めたときを最後に消息を絶っている。


「僕らのことはどうなったの?」

「トリノはそのまま体調不良、墨花は付き添い、理人と塔矢はどさくさのサボり扱い、千尋は先生が迷子にならないための見張りで、俺はその伝言ついでのサボり……トリノを心配した伊波奈を鎮めるのは骨が折れたぜ、まったくよー」


 そう言いつつ苑士郎はやたらと肩や足首を回し始める。

 まるで物理的に骨が折れたわけじゃないと体現しているみたいだ。


「……伊波奈ならやりかねないね。というか半分サボりなのはいいのかな? 特に理人と塔矢なんて勝手にそんな設定にされているわけだし」

「まあ良いんじゃね? んなことあいつらが気にしねぇだろ」

「それはそう……って、簡単に片付けるのもどうかと思うけど、二人ともトリノのことが優先だって考えるはずだがら、根に持たれはしないだろうね……冗談で文句を言ってくることはあるかもしれないけど」

「ははっ、そのときはしゃーねぇわ」


 ゆとりに満ち溢れる明朗な苑士郎の返答は、氷点下までは至らず、降雪の気配もない半端な天候をひとときだけ忘却させる。空気による肌寒さと、両手を擦った際の仄かなぬくもりも巻き込んで、彼による緩やかなフィールドに(いざな)う。


「そうだっ。千尋の分、誰かから上着を借りて来れば良かったな。せっかく一旦教室に戻ったのによー」

「いいよそんなの。寒さ対策はある程度出来てるし」

「強がってないか?」

「そこまでじゃないよ。それよりも今は先生のこと……苑士郎はどうおもっているのかな?」


 俯き気味に千尋は訊ねる。

 少し憚られるセリフである自覚があったからだ。

 案の定、苑士郎も寸時だけ怪訝な表情になる。

 その意図をどうにか、汲み取ろうとするように。


「どうって……普通にいなくなったトリノを探したとか、迷子になったとか、もしくはその両方とかじゃねぇのか?」

「うん……あとは、政府管制課の誰かに呼び出された場合もかな」

「おー言われてみれば、それもしっくりくる。管制室やら輸入港に向かう理屈は通るな」

「付け足すと僕とトリノが先生を迎えに行ったとき、政府管制課の人たちが来てなかったのを間近で見てるわけで、だからその線も無くはないなと予想しやすくはあったね」

「ほおん、なるほどなー」


 本土からの来訪者が人工島に足を踏み入れるとき、政府管制課の職に就く大人が高確率で同行する。それが無かった辻褄合わせとして、昼休みを活用し水島を呼び寄せたとするなら都合が良い時間にはなり得るだろう。ましてや授業や教職についての補足内容ならば尚更だ。


「でも、ちょっと自信はない。パーセンテージで表すなら半分か、半分に満たないくらいの確率だと思う」

「かなり低いな。俺的にはおおー結構説得力あるなーって、感心したくらいだけどな」

「うーん……こればかりは本人にしか分からない事情だからね」

「それを言っちゃあ元も子もないだろっ」

「はは……そうだね」


 空笑いで答える。いや少し面白くはあったけれど、感情を剥き出しする雰囲気じゃないと抑制した。

 千尋の思考ではまだ、半信半疑の行動原理になる。

 仮に是とした場合、今朝から昼頃までの水島の言動と噛み合わせが悪いなという印象が、何故か胸に痞えたまま。

 その痞えをありのまま言語化するのに時間を要する。

 千尋は俯き足元に視点を落とす。

 苑士郎はゆっくりで問題ないと、対照的にはにかむ。

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