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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
71/156

71 わんぱくとニヤニヤ

 踊り場を経由して、ちょうど教室のある二階に差し掛かったところ。苑士郎が二階の平地より三段上に居て、塔矢がその平地に出鱈目な着地をして、理人と千尋がまだ階段の中盤辺りに立つ。そして高低差からすぐに、苑士郎が立ち止まった理由が判別する。というより、判別が付く前に主因である彼女から話し掛けたからと表するべきかもしれない。


「おお〜みんなっ! 仲良しさんだねー」

「……椎」


 そこには立ち塞がったわけではないけど、身長とさほど大差ない、やたらと木棒へと包帯のように巻き付けられた布幕を大事そうに抱えている大井 椎が行方を狭める。苑士郎が急停止したのも、致し方ないサイズだ。


「おいおい、なんだその大荷物は?」

「ああこれ? これはね、今度の祭り使う垂れ幕だよっ。いまから当日のために屋上に用意して置くんだっ」

「それ、一人じゃ大変だろ?」

「わたしが一人で問題ないって言ったんだー。このくらい、ちょっとした運動ついでだよ。ほらほら〜」


 そう言いながら椎は、自身の力量を披露するように垂れ幕を上下させる。小柄な彼女との比率で肝を偏見的に冷やしてしまうけれど、実際の椎はスポーツ万能で筋力も体幹も申し分ない。重荷の分散技術も感覚かつ論理的と捉えているから、日常にも有効利用出来る。つまりこの程度なら昼餉後ではあるが朝飯前だ。


「……相変わらずの怪力だな」

「それ嬉しくないっ……みんなは教室に戻るんでしょ? 避けて避けてー」

「いやまだちょっと寄るとこあるから」

「んー? それってもしかして、墨花が関係ある?」

「ええっ!?」


 きょとんもした表情で、椎が首を傾げる。

 いや寧ろなんで分かったんだと、逆に塔矢が驚く。

 塔矢ほどに無いにせよ千尋も苑士郎も理人も疑念を持つ。


「なんで、墨花だって思ったの椎?」

「えっ? そのー、わたしが二階空き部屋に置いてたこれを取りに向かっているときに、上から降りてくる墨花と逢ったから」

「その墨花はやっぱり一階の方に?」

「そうみたい。なんか急ぎだったのかな? 声掛けたんだけどあとでって言われちゃった……あっ、でも代わりにハイタッチはしてくれたよっ。わたしは片手だけだったけどねえ——」


 椎は墨花との遭遇場面を再現しようとする。

 右手を挙げ、垂れ幕を左手だけで支えていて、ちょっと危なっかしい。


 そのとき、コンクリートにハンマーなどの金属を打ち付けたような反響と共に、学校内が微かに震動する。

 皆がすぐに地震だと判別出来る。

 椎とっては全くもって運の無いタイミングだ。

 震度のパラメーターにして最低レベル。

 両足を踏ん張っていればよろけもしないレベルだ。

 大陸に擦れ合うプレートの影響をほとんど受けない人工島だけど、モデルとなった国柄の反映やアップデート時のバグで地震となり生じることはある。

 だからあまり動じず、余計な所作を慎むだけに留まる……椎以外は。


「——わわっ! っと、危ない危ない〜」


 案の定バランスを崩し、慌てて両手で抱き締める。

 流石の椎の腕力でも片手では難しい重量と揺れだ。

 それでもすぐに立て直したのは、彼女の反射神経が成せる技術だろう。


「大丈夫?」

「うんっ、ありがとね千尋」

「なんだ? 地震なんて珍しいな」

「ったく。仕方ねえから、俺が運んでやろうか?」

「塔矢は多分弄ぶからダメ。あげないよ〜」


 椎が半回転して、発言通りの意思を示す。

 さっきよりも強く抱き締めながら。

 まるで大好きなぬいぐるみを離さない駄々っ子のように。


「どんまい塔矢君、日頃の行いだよ」

「馬鹿っ、慰めが慰めになってねぇわっ!」

「そりゃあ……慰めようともないから?」

「正直過ぎるっ!」

「ごめんごめん。埋め合わせとして今度、また一局指してあげるからさ」

「それ俺をボコボコにする気しかねぇだろ……つか、謝る気もないのが透けたんだよ」


 わざわざ理人は塔矢に近付いてまで、慰め(もど)きの追撃を繰り出す。双方とも乱暴な言葉遣いだけど、そのくらい言い放っても受け入れてくれると理解し合う信頼が成せる仲の証でもある。


「ねえねえ?」


 理人と塔矢による寸劇のようなやり取りの最中、おずおずと椎が訊ねる。巻かれた垂れ幕に顔が隠れないようにちょっこりと覗かせ、両手が塞がっていなければおそらく挙手をしているであろうニュアンスだ。


「なんだ?」

「あのさあのさ、四人とも三階から来たよね?」

「そう、だけど……」

「墨花のこと、気にしている感じだったよね?」

「そりゃあ……」

「ふ〜ん? いちにーさんしー……ご? お昼時に手頃な荷物が五つ……四人しか居ないのに、ふ〜ん——」


 するとどこか意味深に、面白い話が聴けたと嬉々として、わざとらしく椎は唇を小さくさせる。もちろん口を窄めて怒っているわけじゃなくて、無論即興でひょっとこのモノマネをしているわけでもない。ただただ予期せず年相応の好奇心を触発されたせいに他ならない。


「——苑士郎が持ってるそれって、墨花のでしょ?」

「……ああ」

「まさかとは思うけど、ここに居る四人と墨花が三階に篭って一緒にお弁当?」

「なんだよ、わりぃかよ?」

「いやいや、寧ろ良いこと。でもこんなこと伊波奈が聴いちゃったら質問攻めにされそうだな〜って思っただけだよ〜うへへへへぇ〜」


 椎が言いたいのはこうだ。どうして三階に移動してまで、女の子一人を男の子四人で囲ってたんだろう。この場合、友愛的にも恋愛的にも幅広い関係性の奥行きが想定される。複数盤面の選択肢があって、入り組んだ事情が交錯していそうで、想像力と創造力が存分に刺激する。


「なにニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い」

「ニヤニヤなんてしてないよ〜。みんなが幸せなら、わたしはなんだって良いんだよ〜」

「はぁ……椎が説明するのもクソ怠い勘違いをしてんのだけは解ったわ」

「説明してくれてもいいよ? ほらほらほら」

「しねぇわ。つーか俺たち校舎の外に用があんだよ」

「ああそうだっ。わたし屋上に行くんだった!」


 お互いに目的から脱線していることに気付く。

 ついつい話し込んでしまったと言うべきかもしれない。

 一方はやれやれと後頭部を摩り、もう一方は小ジャンプと同時に持ち場を微調整する。

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