69 バラバラな嗜好の昼食と、残された四人の意思疎通
そのまま新たなる発現能力者が現れた想定の話し合いを千尋、苑士郎、墨花、理人、塔矢の五人で交わす。
もちろん昼休みおよび昼食時間であることも失念してはいなくて、明らかに普段よりもペースは遅速ながら、みんな空腹を満たして行く。
その昼食にも様々な傾向があって、千尋、墨花、塔矢がごはん食で、苑士郎、理人がパン食。おかずにまで深掘りすると、千尋が塩が効いた卵焼きと牛蒡和え、墨花が可愛いらしい素顔に切り抜きあしらったウインナーと萎れにくいサラダ、塔矢が醤油ベースの唐揚げとハンバーグが主軸。対してパン食の子はというと、苑士郎がキャベツとトンカツを挟んだロールサンド、理人は自作の丸パンにカスタードを注入したクリームパン。見事に本日の料理趣向がバラバラだ。
「墨花、そのウインナーとキャベツ交換しね?」
「するわけないでしょ。あと交渉するならせめてカツの方にしなさいよ。野菜が十分なの、見れば分かるじゃない」
「そういや俺ら、結構話し込んだ気がするけど時間大丈夫なのか?」
「まだ半分も経ってないはず……うん、あってる」
理人は手首に装着した時計に視線を落とす。
人工島共通の時間軸に調節したアナログ時計だ。
「本当かよ、それ止まってんじゃねぇの?」
「ううん。至って正常だよ、見る?」
理人が示した時計を塔矢が覗き込む。
しっかりと秒針を凝視し、同じ箇所に留まってないか、また巻き戻ったりしていないかを確認する。
「……狂った様子は、ないな」
「だよね。多分みんなと話していると、ボクらの体内時計の方が曖昧になるんじゃないかな?」
「そういうのって普通逆じゃねぇの? 遊んでたら時間があっという間みたいな……はっ!? もしかすると俺はここに呼び出しをくらったことが苦痛だった!?」
「それなら来なきゃ良かったじゃない」
「バカ、冗談に決まってんだろうよ」
間に受けるなよと言わんばかりに戯けながら塔矢は立ち上がると、徐に窓側付近へと移動しようとする。意味もなく眺望したい気分になったようだ。
「おっ千尋、牛蒡とハンバーグで取り引きしようぜ」
「それ、塔矢の方が割に合わなくない?」
「んなことねぇよ。作る手間暇は変わんねえだろ?」
「そうかもしれないけど……ほら。みんなの人気度とか、腹持ちとか、煌びやかとか?」
「まあ人気と腹持ちは分かるが……煌びやかさはどちらかというとそっちだろ。きんぴらなんて名称の料理もあるんだからさ……——」
千尋と他愛のない会話しながら移動し終え、窓枠外の遠景を眺めつつ返答していた塔矢の言葉が停止する。区切りの良い頃合いだったからみんな一瞬だけ反応が鈍化したけど、後に続くセリフがなかなか訪れなかったことで違和感を受け取り、千尋から始まり順々と塔矢へと顔を上げる。
「どうしたの? 塔矢?」
「外に何かあるの?」
「……ああ。今日来訪した先生……えっと——」
「——水島先生ね」
うろ覚えな塔矢にすかさず墨花が助言する。
本気で忘れたわけじゃないけど、自信が無かったから助かったと塔矢は手を挙げる。
「おおさんきゅ。んで、その人が校庭を歩き回っていて……今し方校門の外に出て行っちまったんだが……これ大丈夫なヤツだっけ?」
「へぇ〜」
「うん……はっ? ええっ!? えええっ!? どこ塔矢っ! 先生はっ! 先生はどこに行ったの!?」
悠々とした佇まいで窓外を流し見ていた塔矢。
その隣にさっきまで、行儀の良い正座で昼餉を堪能していたはずの墨花が、けたたましい語勢と共に立ち上がって窓に張り付き、水島の行方を視線で追う。それはもう両脚の痺れなんて忘失してしまうくらいの喫驚と焦燥で、思わず塔矢がたじろぎ、千尋たちのところに引き返してしまいたくなるくらいの怒鳴りだった。
「あ……と、確か左方向に——」
「——それ寮の方じゃん! はぁ……行くしかないか」
「おい……——」
「——あっ痛っ……た……もう……」
そう告げると墨花は自身の弁当箱などの手荷物を地べたに放置したまま、そそくさと尚且つ今更ながら痺れを知覚したのか、覚束無い足取りで部屋の扉の前へと向かい、施錠を解き、千尋たちに構わず置き去って行く。
「あんな焦って止めに行くことなのか? ほら、医者とか政府管制課の人は寮に向かうことだってあるだろ?」
「ああいうのは前もって準備してるしな……」
「うーん……教師で来訪した人は学校のみって取り決めはないね。でも今日休んだ子たちと偶然出会したり、僕たちは知らないけど政府管制課の提示した規則に抵触したり、ましてや寮はプライバシーのかたまりだから、そこを気にしてくれたんじゃないかな?」
「かもね」
そんな話が交わされながら、しれっと苑士郎は墨花の手荷物を軽く片す。千尋や理人に塔矢も食事を掻き込むないし途中やめにして、ゆったりとみんな起立する。その瞬間、残された男性陣四人の意向が行動で明示される。
「げぇ!?」
「もしかして、みんなおんなじ考えかな?」
「みたいだね」
「はぁ〜、しゃねーか」
元々立っていた塔矢を先頭に、両手に手荷物を持ったまま天井へと伸ばす苑士郎、食後の運動にはちょうど良いかなと理人が続き、支度が遅れた千尋が殿を務める。
気怠げながらも、皆が同様の支柱を目指す。
四人の総意は、生真面目な墨花に付き添うこと。
暗黙の信頼関係が彼女を惹き付ける。




