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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
68/156

68 後手に回る

 双眸を閉ざし、箸から手を離し、微かに頬骨をなぞる右横髪を右の耳に掛ける。相変わらずの粛然とした所作で、吊り上がり気味のまなじりの丸みを帯びた先端が覗く。長めの睫毛がくっきりと、右手で再び箸を掴み、休息を終えた目蓋が開く。結われた唇も遅れて解かれると、墨花は主に千尋と苑士郎に向けて懸念点を話し始める。


「私が今回の先生の来訪で一番危惧しているのは、このタイミングで誰かの能力が目覚めてしまうこと。例えばまだ使えない自覚のある苑士郎や、千尋や、私がいきなりなんらかの能力を手にしてしまったとき。しかもそれが授業中とか……先生が居るときだった場合の対処ってどうすればいいと思う?」

「あー……——」


 現状。発現能力は理人と塔矢が完全に制御出来るとは断言しきれないが、真希と一戦交えた経験や、日数の経過による慣習化で暴発する蓋然性は限りなく低い。釘を刺したのも念のため乱用を防ぐ目的であって、彼らの自制心を蔑んではいない。どちらかというと普通に登校を認めているあたり、一定の信頼を持って接しているといえる。


 だけどこの水島の来訪期間で、人工島民の誰かが発現能力を有してしまう可能性があること。この一月と少しの間に理人、塔矢、真希の三人が覚醒しているので、更なる能力者が現れる確率は非常に高く、ましてやその危険性を排除するのは愚の骨頂。故に当然の思考回路だ。


「——まあ、短期間にこれだけ能力が使えるヤツが増えてるしな」

「うん。これに関しては私もどうすれば良いか……」

「でもそんな都合の悪いことあるか? たまたま本土から大人が来たときに限って……」

「最悪のケースを考えて損はないでしょ?」

「んー、確かにな」


 墨花が言う通り、考え得る限り最悪のタイミング。

 特に水島は初来島。人工島民の半数と対面したばかりで、いきなり発現能力の実在を知って理解を示す相手としてはあまりにも不適任と予想される。

 無論。政府管制課の人間や他の大人でも大問題だけど、多少なり先入観があり、まだ体調不良とかの苦し紛れの言い訳が通じやすい相手にはなるが、まだよく知りもしない水島に発現能力のことを視認されるのは、基本デメリットしかなくため回避したい。けれど千尋たちにとっても、誰かが新たに発現能力を知覚する瞬間を把握出来ないため、頭を悩ませている構図だ。


「あれ? つーか、理人の透明化で誰が能力を使えるか判別付くんじゃなかったっけ? ほら、前に千尋と協力してやってたヤツ。俺や真希はそれで見破られたしよー」


 塔矢が訊くそれは、以前に理人の【無色透明化】の能力を偶然にも知ることになった千尋と、当人である理人が実験の末に辿り着いた能力者の特徴。発現能力を行使した状態で、別の発現能力者と接触したときに必然的に起きる拒絶反応。

 方法は実にシンプル。理人が透明になり、人工島民全員に触れるだけ。結果は塔矢という仲間の加勢と、真希という一時は意向の相違で敵対したがのちに和解……そのすべてのきっかけを作る。だから塔矢の感覚では、理人の透明化は発現能力発見器のような印象を抱いても不思議じゃない。


「……えっと、どうする? 千尋君から説明する?」


 理人の目配せに、千尋はかぶりを振る。

 説明を嫌がっているんじゃなくて、適役じゃないと暗に告げるように。


「いや。これは僕よりも理人が当事者だから、理人の感想を伝えた方がみんなにとっても分かりやすくて良いんじゃないかな?」

「そう……うん、了解だよ——」


 首肯してそのまま、理人は塔矢があぐらをかいて座っている方に向き直る。

 苑士郎も墨花も、事情を知る千尋も黙して待機する。


「——ボクの能力は秘密裏に能力者を探すのには適しているとボク自身も思う。正直能力が本当にあるってなったときは混乱したけど、すぐに千尋君っていう心強い協力者であり理解者も居たしね。実際に塔矢君や真希さん、二人を見つけて、塔矢君には迅速な対処も行えた……でもね、それはもう能力に目覚めていることが前提。例えば今まさに能力が使えるようになった場合、そうなってしまった後にしか能力者同士の拒絶反応を起き得ない。つまり事前に把握することも、対応を講じることも、ボクには無理なんだ……」


 やや俯き気味な姿勢で理人は説明を終える。

 まるで彼自身の力不足を嘆くように。


「えっと……理人が言うのを総合すると、こっちが先んじて見つけることは不可能って解釈であってる?」

「……そうなる」

「思い返せば、俺も理人にバレたときって……使えてすぐだったな。真希のときもそんな感じだったのか?」

「大体は……うん。でも真希は、一人である程度能力を理解していたあとだったみたいだけどね。そのせいで、千尋君と対立した部分もあるし」

「あーなるほどなー。だから俺と違って、能力がバレたときの恩恵がなかったのか」


 要約すると理人と塔矢の発現能力を駆使しても、先手を打つことが叶わない。最低でもこの部屋に集結した五人で事後処理に努めるしか策を練られない。


「いやー……困ったな」

「だね。私が今から真希を無理矢理呼びつけても解決しそうにないし……こればかりはもう祈るしか方法がないのかな」

「かもね。でもここに居る僕らが警戒網を敷いているだけでも差異は生まれるはずだよ……全部が無駄な議論じゃ、絶対にないよ」


 今日一日何も発生しない、それが一番好都合。

 だけど発現能力の連鎖が停止すること前提で話を進めるには根拠の材料があまりにも不足している。

 幸いここには発現能力者の理人と塔矢。

 理解者の千尋、苑士郎、墨花の五人が確実に居る。

 残念ながら先んじて手を施せない。

 されど後手に回れば、抑制する確率は高まる。

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