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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
66/156

66 紅一点の命令

 ちょうど窓枠の向こうから陽光が差し込み、仄暗いはずの室内を灯らせる。陽射しは偶発か否か、五人が囲む中心の床上に集光する。その姿はまるで、円卓の真ん中にぽつんと一つ置かれた蝋燭(ろうそく)のようだ。無駄話や馬鹿騒ぎを許容しない、包囲したみんなを神妙な赴きにする鎮静になる。


「もういい? 閑話休題ね——」

「——それ現実で言ってるヤツ初めて見たわ」

「小説の地の文くらいだよね」

「チノブン? 昆虫図鑑の話か?」

「あーもうっ! 私が喋りにくいから黙っててっ!」


 どうでもいい話題転換のセリフを、苑士郎、理人、塔矢の順番にこんなにも食い付かれるとは思っていなくて、墨花が苛立ちを隠さずに指摘する。物怖じせず積極的に意見を述べようと試みるのは彼女の取り柄であり、また欠点にもなり、弄られる対象や相手に強く当たったようにも見えてしまうけど、あれやこれや、一切合切を含めて墨花という女の子の性分だ。

 そんな気性をここに居座る男児四人衆は当然知っているから、やれやれ仕方ないと投げやり気味な笑みで、気ままにやり過ごす……当の墨花は憮然としたままだけれど。


「……その笑い方、気持ち悪い」

「おい。せっかく俺たちが黙ったのに」

「事実を言ったまでよ……と、話を戻します」

「釈然としねーけど……まあいいや、どうぞ」


 みんな会話を交わされている片手間で包みを解き、弁当箱に詰め込まれた具材を箸でつついたり、ロールサンドを頬張ったりし始める。それぞれ寮にある自部屋のキッチンで調理した力作で、材料も彩色も趣向も異なる。周回制で各担当を割り振るという人工島民独自の決め事のおかげで、全員が料理もとい家事をそつなくこなせる環境だからこその光景だ。


「率直に言うと、ここに集まってもらったメンバーは、例の副次的な能力が本当にあることを知る人、ないし使える人だけを呼んだ。欠席者もいるけど、そこはもう大目に見る」

「……まあ、こいつら見たらだろうなって感じ。まさかそれだけ? そんなの分かり切ってんだろ?」

「ううん、本題はここから。ちゃんと注意勧告はしとかないといけないと思ってね——」


 凛とした律儀な正座姿勢の墨花は、右手に持った箸と左手にある弁当箱を連動して徐々に、垂直に下ろして行き、スカート越しに太腿へと置く。食事よりも話を優先しようという意志が誰からも汲み取れる。

 すぐに千尋と理人も手を止め、塔矢はあぐらの形を整え、苑士郎は咀嚼する素振りだけしながら、四人の視点は一つに集合する。この場では紅一点の墨花へと。


「——いい? 今日は外部からの先生が来てるんだよ? だから絶っ対に、能力のことを口走らない! 含みを持たせるのも禁止! あと理人と塔矢は能力を使わない、バラさない、ひけらかさない、何がなんでも隠し通しなさいっ! 分かった?」

「そんな急に言われても困——」

「——もしこんなことが漏洩したら塔矢だけじゃなくみんなが困る! だから返事!」

「……ああ」

「善処はするよ」


 廊下まで届かないようにの配慮で小声ではあるが、これは命令だと人差し指代わりに箸を刺し、凄みを帯びた墨花の威圧的な語気としかめっつらに、塔矢は首縦振り人形と化し、しれっと理人も肯定する。


「そんなイライラすることか? つか箸で人を刺すなよ、珍しく行儀悪りーな」

「そういう苑士郎も他人事じゃないからねっ! こんなことが大人たちに知られてたら……私たちがどうなるか、分かったもんじゃないわ……」


 その杞憂はこの部屋に居る全員、薄々感じているもの。

 今まで敢えて、言葉にしなかったまである遺恨。

 地球外万能物質【ハルトマカロウ】。そこから抽出して編み出された【HMGG細胞】と当時の新規粒子【TOUNO】が誤混入したものが、体内に侵入することに起因した暴発的なな相互反応。十五年前の科学者が提唱した仮説。誤投与された人物が、最低でも十年前後あたりに人智を遥かに超越した能力に覚醒する指摘。千尋たち人工島に住むみんなが、赤子のときに厳密な検証によってそう強いられた主因でもある事柄だ。


 世界政府や大人たちにとっては未だ予想の域を出ない論理。まさか本当に能力が実在して、剰え千尋が確認しているだけでも理人、塔矢、真希の三人が発現能力に目覚めたなんて認識を共有されたら……何をされるか、墨花の言う通り分かったもんじゃない。


「水島さんに勘付かれたら流石にお咎め無しでは済まないだろうね。黙認している僕らもだけど、能力が行使出来る理人、塔矢、それに真希は特に危ない」

「うん。もしかしたらこの島から追放されかねないし、危険人物として抹消されるかもしれない……最悪なのはみんな連帯して殺処分の許可が下されること」

「はぁっ? マジ?」

「元々私たちが子どもの頃にそんな噂があったし、十五年前にいきなり人類史を捻じ曲げかねない赤ちゃんが最低でも二十七人も現れて、大人たちが未来を予期した嫌疑を向けない方がおかしい。だから確率がゼロとは断言出来ない……危険因子が本格化する前にみんなまとめて排除しようって思考に行き着いても、なんにも不思議はない」


 そう述べ終えると、みんなはしばし息を呑む。

 ぼやけた実感が、急転して顕著になったせいだ。

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