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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
64/156

64 教師と生徒の距離、大人と島民の溝

 水島による人工島での午前授業が終わる。

 化学、数学、国語、歴史の順番で四つの授業こなした。

 まだ初来訪の緊張と教師歴の浅さによるそそっかしさこそあるが、水島の教えは理路整然と無駄がなく、中学生相当の年齢に沿った的確な指導だった。本土で勤めている高校との差異が少なからず存在するはずなのだが、持ち前の力量で難なく適応したといえる。


「ということで、このあとはお昼の休み時間です。ご飯を食べたりするから、大体一時間くらいなのかな?」

「……っ」

「……えっと。私はその時間を利用して、この学校のことを見て回ろうと思っているのでちょっと外します。授業が全部終わってからでも良いんだけど、政府管制課の子矢(こや)さんが言うにはあんまり猶予がないらしくてね」


 しかし先生と生徒としての隔たりはなかなか溝は埋まらず、ある意味で課題は残ったまま。本当なら一緒にごはんを食べようと考えていたけど、さらに空気を悪くさせるだけと自粛した形だ。


「子矢さん……久々に名前聴いた」

「あっ、やっぱりみんなも知ってる人なんだ?」


 子矢という名前に墨花が反応する。

 予期しなかったこととはいえ、やっと生徒からまともな返事が来たせいか、水島は顔を綻ばせて墨花に訊ね返す。


「はい、おそらくこの島に一番来訪した人です。長年政府管制課に勤めているらしくて、私たちはあまり政府管制課の方々を存じ上げないのですが、子矢さんはよく知ってます」

「へぇー……あの人って新人さんじゃないんだ? 正直同年代くらいかなって思ってたよ」

「それはないと思います。少なくとも十年前にはこの島に来ていたので。昔は輸入港そばの管制室に泊まっていたり、私たちのケンカの仲裁に入ってくれたり、島の発展のために動いていたり、まさに現場担当の人って感じでした。ここ最近は来訪しなくなりましたけど」

「おーなるほど。じゃあ帰ったら子矢さんに色々聴いてみようかな……あっでも、守秘義務とか禁則事項とか散々言ってたから教えてくれないかもなー……と、んんっ——」


 水島と墨花が政府管制課の役員である子矢についての人柄を交わし合う。偶然の共通点と過去と現在の違いが、本土の大人と人工島民の垣根を一時的にだが越える。だけどその間、会話に参加していない他の生徒が置き去りになっていることに水島は気付く。


 基本的に生徒は先生が授業の終了を宣言しないと離席しにくいし、昼休みになったと指摘しにくい。ましてや別の話題で墨花とだけ盛り上がっている場合だと特に気遣う。こういうところは本土の学校と一緒なんだなと所感しつつ、教師として性急に宣言すべきだと咳払いをして仕切り直し、名簿を閉じながら述べる。


「——ごめんなさい、私が話し込んだせいで時間を超過しかけそうになりましたけど、これにて授業を終わります。あとそうだ、転送関連の配布物もまとめてここに! 置いていますので、各自受け取ること。みんな、この昼休みでしっかりと英気を養うようにっ」


 水島は教卓に配布物を乗せ、真っ先に教室を後にする。

 余談だが業間休みの際も同様に、すぐ教卓を離れていた。

 これは休み時間くらい生徒たちの憩いのひとときにしたい表れ。初来訪の教師を招いての授業で緊張するのは先生だけじゃなく、生徒も同じかそれ以上に神経を研ぎ澄ます。


 どちらも存在するだけで、段々と精神が擦り減る状況。

 まだまだ子どもの生徒みんなには不安材料だ。

 しかるに短時間でもゆとりが必要。

 水島がいない方が、いくらか気楽だ。

 例え交流の機会をまた失ったとしても。


「いやー、今日はかなり本格的な授業だな」

「本当にね。そういえば島に先生が来たのっていつ振り? すごい久々だよねー?」

「うん。本土だと夏休みの期間に来訪したのが最後だったと思う。だから三ヶ月くらい前だね」

「はぁ〜それはしんどいはずだよぉ」


 水島が教室を去り、前扉が閉められた瞬間。生徒たちの緊迫が一気に解放され、仰々しくも気怠い雰囲気が和やかに帯びて弛緩していく。少し疲れたと背筋を伸ばし、諸手を挙げて言葉を発した雁行を中心に、伊波奈、千尋、明加の順番で重ねる。


「ただすぐには難しいかもだけど、もうちょっと水島さんに返答出来た方が良いよね、きっと」

「……千尋のその言い分は確かにそうだと思う。向こうは初来訪だし、ここは完全にアウェイだし、どうすればいいのって手探りな感じだった」

「でも実際難いだろ。他も含めて先生が来てもいつもこんなもんだって」

「だねー。気まずいまま終わるよね。大体ちゃんと話せるのって墨花ぐらいだもん」

「うん……」


 それぞれで(こしら)えた昼食を机の上に準備しながら、水島の授業の重々しさに関する感想を言い合う。大半がもっと教師に歩み寄ろうと言葉では理解している。けれど人工島に住む経緯が、不特定の大人への懐疑心が、外部で暮らす人物への偏見が先入観で忌避を招く。


 別に水島が悪いわけじゃない。

 授業内容に不満があるわけじゃない。

 寧ろ、最適な講義を展開した。

 なのに心のどこかで皆、許容出来ない部分がある。

 それは些か漠然とした不平不満。

 断絶された本土との十五年間の蓄積。

 どうしたら整理がつくのが、千尋たちも分からない。

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