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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第二章
54/156

54 晩秋の雨天

 晩秋の人工島にも雨が降る。

 轟々と篠突くような荒々しい雨だ。


 男女双方にある全ての寮部屋の窓越しに眺めようとも、窓ガラスに打ち付ける大粒の雫のせいで視界が悪く、寒暖差による気体化でモヤまで掛かる。

 この日は生憎の平日。既に広間での朝餉を終える。

 普段ならばそろそろ学校に行く頃合いだけど、誰も寝巻きから着替えようとはしない。


 それはまるで、今日はもう学校は休みだと決め付けたかのようだ。そしてここは同級生、同じ生年月日、かつ近代科学に革命を起こしたと評しても過言じゃない【ハルトマカロウ】から抽出し生成した万能細胞【HMGG細胞】と、当時の地球外新規粒子【TOUNO】が誤って混入した異物質を身体に誤投与された被害者の少年少女しか暮らしていない人工島。


 大人たちはこの辺境の孤島に常駐しないため、ありとあらゆる日々生活の判断は、必然的に彼ら彼女らに依存する。つまりみんなが学校を休むという意志を示せば、自然と休校日に様変わり。今回の判断に敢えて理由を付け加えるなら、大雨警報といったところだろう。ついでに強風や霧の警報を組み合わせてもいいかもしれない。


 ちなみにその学校に行かないという意思表示は、対面同士に分かれている男女それぞれの寮の子たちが朝食時に片方の寮へと誰も訪れようとせず、暗黙の巣篭もりを決め込んでいるあたりで、特段やり取りをしなくても察しがつく。


「ふぁ〜……俺二度寝するわ、おやすみ〜」

「うん。あっ、歯磨きはした?」

「……してから、寝る」

「そっか、おやすみ」

「ん〜……」


 寝起きたばかりの眠気が未だ拭えずに大欠伸をする塔矢を、千尋はソファーに座ったまま見送る。男寮の広間には千尋、苑士郎が食後に部屋に戻ることなく寛ぎ、キッチンには料理担当である拓土が黙々と食器を洗う。


「拓土、手伝おうか?」

「おーそうだな。俺も暇だし」

「いや……だ、大丈夫。もうすぐ、終わるから」

「そう?」

「うん。二人とも、ゆっくり、してなよ」


 垂れ流れる水道水が止まる。

 もうすぐ終わるというのは嘘じゃないと分かる。

 そのまま慣れた手つきで布巾を取り出した拓土は、順々に食器皿を拭いていく。

 水滴一つ残さない堅実な働きだ。


「んーいや、どうするかね?」

「……どうしようか、苑士郎」

「おいおい、俺が先に千尋に聴いたんだが?」

「ごめん、ちょっと思い浮かばなくてね」

「……まあ、こんな急に休みになっても困るよな。この天候じゃ外出なんて出来ねぇし、室内での遊びなんて日頃からやってるしな」


 広間に居る三人を除いた他の男寮に住む子たちは自部屋に帰っていて、突如作られた余暇をどう過ごそうかの迷いが生じ中のようだ。天候で移動も室内に制限されているから尚更だ。

 人工島の学校が緊急で休校になること自体はさほど珍しいことじゃない。ただ、自然の天候が原因なのはかなり稀だ。

 

いつもは政府管制課からの許可を得て来訪予定の先生が渡航キャンセルになったりだとか、学校に赴くのが面倒になった子が極端に多かったりで集まりが悪いとか、独自で開催した行事の翌日だとかがほとんどだ。

 だから適当に外出して散策したり、集まりが悪い日に登校した子たちで自主学習や校庭で遊んだり、催事の片付け作業や振り返り話に花を咲かせたりで、休校といえど人工島内で行動を過度に制限はされない。だからこそ人類が自然現象に抗えない虚無感を、さんざめくような雨音を聴きながら改めて、身を持ってして知る。


「……そういえばだけど」

「ん? 急にどうした?」


 そんな雨粒たちの協奏曲を聴くうちに、ふと千尋は今後の予定についての憂いが生まれる。こんな悪天候、突然の休校、翌日も同じであっては困ると。


「明日って確か本土から先生が来る日だよね、確か」

「ああ、そうだったと思う。俺の記憶違いじゃなければな」

「来られるのかな? 前日にこんな天気の後に。多分だけどこの島まで船か何かで訪れてるわけだし」

「……さあな。ただ本当の天気がある向こうと、システムによって機械的に創造されたこっちじゃ天気が違うかもしれねぇしな……だからそこはいつも通り、俺たちがあんまり気にしてもどうにもなんじゃねだろ? 先生が来たら来た、来なかったら来なかったでしゃーなし、くらいでな」

「そうだね……そのときの臨機応変が良いかもね」


 苑士郎の思考は真っ当だ。

 気にしてもどうにもならないし、どうにも出来ない。

 だけど千尋は万が一、この人工島に来訪しようとしたときの事故などの自然災害に起因するトラブルが起きないかを危惧していた。


 わざわざ政府管制課の許可を貰い来訪しようと試みた先生の命にも関わるし、なによりもし実態化した場合に、人工島に向かったせいだと難癖を付けられかねないこと。もちろんそれだけなら我慢のしようがあるが、人工島民みんなの人生や生活が脅かされないか、心配で仕方がない。


「終わったよ」

「おお、お疲れ拓土」

「……ここ、座る?」

「お言葉に、甘えて」

「わかった、ちょっと移動するね」


 食器洗いを終えた拓土が合流し、三人であてもなくのんびりとした、突発的な休息に意味もなく耽る。

 あまねく雨雲が青空を遮るように蔓延り、部屋中が真っ暗なせいか、ただ黙々と余計に没頭させる。コンスタントに打ち続けていた雨の威勢が相乗し、さらなる活気を生み出す。

 今日一日、この大雨が止んでくれる気配がまるでない。

 無情にもだらけた時間だけが過ぎ去って行く。

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